第31黒 最後の壁!僧兵長リオネル=サンクティス
――蒼光の塔。
最上階へと続く回廊を進む、リィナとヴェルミナ。
だが、回廊の出口から足音が響く。
鈍く、だが迷いのない歩調。
「……ここまで来るとはな」
低く響く声と共に、
回廊の奥から現れたのは――
リオネル=サンクティス。
重厚な僧兵装備。
白銀の鎧に刻まれた聖印が淡く光り、
巨大な盾を床に突き立てている。
「あなたは?」
リィナが静かに剣を構える。
男は鼻で笑った。
「俺は僧兵長のリオネル=サンクティス。」
「本来はオレの仕事じゃないんだがな……
つくづく、統率の取れない組織だ」
呆れたように息を吐く。
ヴェルミナが小さく笑う。
「あら?そういう、あなたは違うのかしら?」
リオネルは一瞬黙り――
「ガッハハハ!!」
豪快に笑う。
「言ってくれる。…まぁ俺も似たようなもんだがな」
巨大な盾を軽く叩く。
「俺の信用するのは、忠誠でも信頼でも無く――」
指で金貨を弾く仕草をする。
「金だけだからな」
その瞬間。
ドォンッ!!
リオネルの足元から巨大な結界が展開した。
「ってわけだ。お前らに恨みはないが金の為に死んでもらうぜ」
≪聖盾結界≫
聖光が壁となり、回廊を完全に遮断する。
「どうだい?俺の自慢の結界は?」
リィナが舌打ちする。
「聖系統の多層防御……正面から壊すのは時間がかかるわね」
ヴェルミナが静かに笑う。
「心配いらないわ……私に考えがあるわ。」
「おいおい。女二人で、この盾を破るつもりかい?」
「盾は破らないわ。――狙うのはあなたよ」
次の瞬間――
「呪詛結界、展開」
≪呪詛結界!!≫
床一面に、黒紫の術式が走る。
「っ!?」
リオネルの足が術式に捕らわれる。
「まずいっ…」
だが次の瞬間。リオネルが吠える。
「俺を舐めるな!!」
≪聖震波≫
ドォォォン!!
衝撃波が回廊を薙ぎ払う。
床が砕け、瓦礫が舞い上がる。
だが――
リィナ達の姿は見えない。
「どこに消えやがっ――」
背後。
ヴェルミナが指を鳴らすと――
「無駄よ」
影の中から二人が姿を現す。
リオネルの目が見開かれる。
「馬鹿な……!」
ヴェルミナが笑う。
「呪詛結界の中は私のテリトリー。
結界内で私達を捉えることは出来ないわ。」
「さあ、そろそろ審判の時間よ。」
その瞬間、リィナの瞳が赤く光り
剣に闇の魔力が集中し巨大な鎌のように変形する。
「これで終わりよ!!」
刃がリオネルの喉元へ迫る。
その瞬間――
「まっ……待ってくれぇぇ!!!」
ガキィン!!
リオネルは必死の形相で盾を横に差し込み、斬撃を逸らした。
だが完全に防げたわけではない。
ズザァァッ――!!
衝撃で床を滑り、膝をつく。
首筋には浅い血の線。
リオネルの顔からは血の気が引いている。
そして――
武器を捨て両手を上げた。
完全な降伏の姿勢。
「こっ…降参だッ!!降参!!」
声は先ほどまでの豪快さとは別人のように震えている。
「頼む。命だけは助けてくれ!!」
リィナは剣を下ろさず、冷たい視線を向けたまま言う。
「私に歯向かっておいて」
ゆっくりと歩み寄る。
「今更、そんなのが許されると思うの?」
リオネルの額から汗が流れ落ちる。
「た…ただとは言わない!」
慌てて叫ぶ。
「そ、そうだ!!」
必死に頭を回す。
そして思いついた。
「ウィザーのッ!!アイツの秘密の研究室の場所を教える!!」
ヴェルミナの目が細くなる。
「信用ならないわね」
冷たい声。
リオネルは首を激しく振った。
「本当だ!!」
息を荒げながら言う。
「ウィザーは俺もムカついてんだ!
アイツに金づるを殺されて俺も商売上がったりなんだ!!」
どうやら本音らしい。
ヴェルミナがリィナを見る。
リィナは少しだけ考え――
剣を下ろした。
「分かったわ」
リオネルの目が大きく開く。
「それなら、その場所に案内しなさい。」
リオネルは大きく息を吐いた。
だが――
次の言葉で背筋が凍る。
「だけど。あなたの事を信用したわけじゃない」
ゆっくり近づき、剣先が喉元に触れる。
「ましてや」
瞳が細くなる。
「仲間を売るような人間は特にね…」
剣がわずかに押し込まれ、血が一滴落ちる。
「だから、ちょっとでも変なことをしたら……」
「命は無いわよ?」
リオネルの顔が真っ青になる。
「ひぃぃ……」
何度も頷く。
「わっ…分かった!分かった!!」
「案内する!!」
――蒼光の塔・最深部。
リオネルは先頭を歩く。
さっきまでの威圧感は完全に消え、どこか情けない背中。
後ろにはリィナとヴェルミナ。
リオネルは何度も後ろを振り返りながら歩く。
「こっ…こっちだ」
回廊の奥へ進む。
途中にはいくつもの封印扉、
それに研究施設特有の装置。
やがて――
一つの重厚な扉の前で止まった。
黒鉄の扉。
奇妙な魔法紋様が刻まれている。
リオネルが震える指で扉を指差す。
「こ…この扉の先だ」
息を飲みながら言う。
「ウィザーはいつもここで何かの研究をしてる」
声を潜める。
「それが何なのかは知らないが…」
リィナは目を閉じ魔力の流れを読む。
そして、ゆっくり目を開く。
「……ウィザーの魔力を感じるわ」
ヴェルミナも頷く。
「嘘じゃなさそうね」
リオネルはホッとしたように息を吐いた。
「おっ…おい」
後ずさる。
「約束は守ったんだから、俺はこれで逃げるからな!」
次の瞬間――
リオネルは踵を返した。
ダダダダダッ!!
一目散に回廊を走り去る。
その背中を見送りながら、
ヴェルミナが小さく笑った。
「ずいぶん必死ね。
まぁ裏切ったことが知られたら…って思えば
当然の反応かしらね。フフフ」
リィナは扉を見つめたまま言う。
「……放っておきましょう。」
剣を握り直す。
「今はそれより、ウィザーよ」
二人はゆっくりと扉へ向き直った。




