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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 最初のメインターゲット 大魔導士、ウィザー=アルヴァレン編

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32/121

第32黒 裏切りの天才魔導士ウィザーVS全てを奪われた復讐の黒百合――最深部決戦開幕

 

 ――蒼光の最深部、ウィザーの秘密の研究室。


 重厚な扉が、音もなく閉じた。


 その向こう側――

 そこは、かつて“仲間”と共に立った場所に酷似している。


 そして幾何学的に配置された魔法陣。

 部屋そのものが、理性と計算で縛られているかのようだ。



 リィナは無言で一歩踏み出す。


 視線は、ただ一点。

 魔法陣の中央に立つ女――ウィザー=アルヴァレン。


「……ここまで来たのね、リィナ」

 ウィザーが静かに笑う。


「……」


 リィナの瞳が細くなる。


 その光景に――

 一瞬だけ、過去がよぎる。


「合理的に考えて、次は私が援護するわ」


 冷静な声。


 戦場で何度も聞いた声だ。


「無茶はやめなさい、勇者様」


 淡々とした指摘と彼女が操る魔法は、

 誰よりも正確で――


 絶対に裏切らないはずだった。



「忘れもしない……」


 リィナの赤い瞳が、燃えるように揺れる。

 懐かしさはない。

 あるのは――吐き気を催すほどの怒り。


 かつての笑顔、肩を並べた戦場。

 背中を預けた夜。


 ――全部、踏みにじられた記憶。


 ウィザーが肩をすくめる。


「私もよ、“()()()()()()”さん」


 空気が凍る。


「黙れ……」


 リィナの声が怒りで震える。


「今更、仲間ヅラするな」


 感情が、堰を切ったように溢れ出す。


「理解者みたいな顔をするなァァァ!!」


 床が軋み、空気が悲鳴を上げる。


「あなたがやったのは“選択”なんかじゃない」


 剣に、赤黒い魔力が集まる。


「裏切りよ!計算づくの――最低の裏切り!!」



「私から、全部奪っておいて……」

「よく平気な顔で立っていられるわね」


 歯を食いしばり、

 涙すら怒りに焼き尽くすように、睨みつける。


「……許さない」


 低く、重い宣告。


「過去も、あなたも――

 全部、ここで叩き潰す」


 一歩、また一歩。

 距離が詰まるたび、憎悪が濃くなる。


「あなたが否定した私が、今ここに立ってる理由――」


 剣先が、ウィザーを真っ直ぐに指す。


「その身体で、思い知りなさい」


 赤い瞳に宿るのは、慈悲ではない。

 復讐でも、正義でもない。


 ――ただ、消したいという純粋な憎悪。



「フフフッ、その裏切り者にもう一度殺されるのは

 どういう気分かしらね?」


 次の瞬間、空気が歪んだ。


 詠唱はない――


 だが、五つの魔法陣が同時に展開される。


 異なる属性。

 異なる位相。

 完全に独立した五系統魔法。


 それが一切のズレなく、同時に。


「……っ」


 ヴェルミナの目が細くなる。


「五重展開……しかも無詠唱」


 小さく、吐き出すように言う。


「相変わらずね……あんた」



 その言葉にウィザーが不敵に笑った。

「当然でしょう?私は天才なんだから。」


「天才と凡才の差、もう一度教えてあげる。」


 ウィザーの指が、わずかに動く。


五重魔術同時行使ペンタ・スペルキャスト


 魔法陣が輝く。


≪上級光魔法!光槍雨ルミナス・レイン


≪上級土魔法!重圧結界グラビティ・フィールド


≪上級闇魔法 拘束影鎖バインド・チェイン


≪上記水魔法!圧縮海刃タイダル・エッジ


≪上級炎魔法!灼熱魔弾インフェルノ・バレット


 完全同時発動。


「なっ――」


 リィナが即座に踏み込む。


 ズドォォッ!!


 足元から重圧が発生し床が砕け、身体が沈む。


「ぐっ……!」


 だが止まらない。


 無理やり踏み抜く。


 同時に――


 上空から光槍の雨。


 ヒュンッ!!


 リィナは身体を捻り、最小動作で回避。


 だが。


「チッ……!」


 避けた先に、すでに追尾の魔弾。


 回避の“先”を読まれている。


「相変わらず、単調な動きね。」


 ウィザーが呟く。


 だがその瞬間。


「――させないわよ」


 ヴェルミナが指を鳴らした。


影干渉術式シャドウ・インターセプト


 魔法に干渉し軌道を“ずらす”。


 完全無効ではない。


 だが致命傷を外すには十分。


「そう計算通りにはいかないのよ。」


 ウィザーの目が細くなる。

「……あなた」


 わずかに興味を示す。


「その術式、誰に習ったの?」


 ヴェルミナが笑う。


「さあね」


 意味深に。


「昔、()()()()()()()()()()を見たことあるだけよ」


 一瞬。


 ウィザーの瞳が、ほんの僅かに揺れたような気がした。


「……そう。」


「でもこれは見た事ないでしょ?」


≪上級闇魔法!拘束影鎖バインド・チェイン


 ギシィッ!!


 二人の脚に魔法の鎖が絡みつき、動きが止まる。


「終わりよ」

 ウィザーの指がわずかに傾く。


 圧縮刃が横から迫る。


 ――だが。


 その瞬間、リィナの剣が閃いた。


闇剣反転リバース・クルセイダー!!≫


 鎖を斬り裂き、さらに体を捻り、刃を弾く。


「……!」


 ウィザーの瞳がわずかに動く。


 リィナはそのまま踏み込む。


「遅いわ!!」


 一直線。


 だが――


 剣が触れる前に、ウィザーの姿が消える。


位相転移フェイズ・シフト


 後方十メートルでウィザーが

 何事もなかったかのように立っている。


「近接戦に持ち込めば勝てると思った?」


「残念。そんな単純な話じゃないのよ」


 再び魔法陣が増える。


 六、いや七。


「まだ増やす気!?」


 ヴェルミナが舌打ちする。


 ウィザーは笑う。

「当然でしょ?私は“限界”なんて持たない」


 圧倒的な演算。


 圧倒的な支配。


「理解できないものは排除する。それが“正しい世界”よ」


 その言葉に――


 リィナの瞳が、深く染まる。


「……やっぱり変わってない」


 剣を構える。


「あの日、私はあなたを止められなかった…」


 一歩、踏み込み、床が砕ける。


「でも、今は違う!!今度は――」


 剣先が、ウィザーを貫くように向けられる。


「奪い返す番よ!!」




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