23 日記④
——〇〇年。〇〇月〇〇日。
今日は、何も書きたくない。
何を書けばいいのかもわからない。
ただ、胸には罪悪感だけがあって、吐き出したくって、気が付くといつもと同じように日記を開いていた。
ここに書けば少しは落ち着くのかな?
ううん。
きっと何も変わらない。変えられない。
私のせいで彼女が一生癒えない傷を負った事実は、もう変えることができない。
相手はイフリートと呼ばれる伝説の魔物だった。
強かった。
今まで戦ったどの魔物よりも知能が高く、強く、そして怖かった。
頭には常に死が過っていた。
死にたくない。
死なせたくない。
その一心で、私は戦った。
みんなも同じだったんだと思う。
みんなの不安と恐怖が伝わって、私の息は次第に乱れていった。
気が付くと、私は目を覚ました。
起き上がって見ると、そこにはもう炎もイフリートの姿も無かった。
君が倒してくれたんだね。
胸に喜びが湧き上がるのと、絶望が覆いかぶさるのはほぼ同時だった。
ティタちゃんが倒れていた。
倒れたまま動いてくれないの。
私は起き上がって走り出した。
彼女の元に辿り着いたところで、ようやく私は息を吐き出せた。
呼吸をしている。
脈だってある。
大丈夫。彼女は無事だ。
でも、私の息は再び止まる。
彼女の顔が、その右半分が見るにも耐えない火傷で爛れていたの。
意識を未だ取り戻さない彼女に代わり、君が全てを正直に教えてくれた。
熱にあてられ、魔力を失った私が倒れてしまい、それをかばってティタちゃんがイフリートの炎に顔を焼かれてしまったんだって。
私のせいだ。
私がもっと頑張れば、ヘマをしなければ、彼女があんな目に合うことなんてなかった。
私の魔力が切れなければ、みんなもずっと楽に動けたはずだ。勝てたはずだ。
全部、私のせいなんだ。
魔王城はもう目と鼻の先だけど、暫くは動くことはできないと思う。
だって彼女はまだ目を覚ましてはいない。
彼女がいなくちゃ、私たちは魔王を倒すことなんて絶対にできない。
いつもいがみ合ってばかりだったけど、やっぱりティタちゃんがいないとダメなの。ティタちゃんの力が必要なの。
きっと、ティタちゃんは強気に笑って許してくれるのだろう。
仕方が無かった、とか。無事でよかった、とか。そんなことを言うに決まっている。
いつもは横暴なのに。怒ってばかりなのに。
そういうところでティタちゃんはいつも優しい。優しすぎるの。
だから、ね。
私も多分甘えたくなっちゃうんだ。
ティタちゃんが笑って許してくれるなら、それでもいいって思っちゃうの。
最低だよね。
私はさ。いつだって最低だった。
彼女が君を愛していることだって知っているのに、それなのに私はいつも自分の事ばかりで。
こんな私でも、君は好きだって言ってくれるかな。いつも通りに接してくれるかな。
ほらね。
やっぱり私は最低だ。
こんな時でも最後にはティタちゃんの心配よりも、君に嫌われないかを考えてしまっている。
どうしようもなく屑で、最低で、自分が嫌になる。私が私を好きでいたことなんて一度だってない。
そんな私を君は好きだと言ってくれた。
ティタちゃんも仲間だって言ってくれた。
だから、今の私にできることは、みんなが信じてくれた私であり続けることだけ。
大丈夫。
私なら振舞える。
完璧に、ミスなく、笑ってられる。
元気で明るくって優しいところが私の良いところ。
君がそう言ってくれた。君がそう言ってくれた私であり続けなきゃ。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
笑顔なんて簡単だから。
いつも笑っていたでしょう?
そうだ。
簡単なはずなの。
⋯⋯ねぇ、今の私は本当に笑っているのかな。




