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終末世界の片隅で  作者: 朝倉春彦
Chapter2 凍てつく世界の管理人
32/63

0.プロローグ

同時に4つ、シリーズ系統の小説を更新したので良ければそちらもどうぞ

感想とかが貰えると、少しうれしいです(豆腐メンタルなのでアレですが)

https://ncode.syosetu.com/s2011e/

学校の隅にある教室で本を読みながら時間を潰していた。

時折、つい先日に降り積もって根雪になった外の景色を眺めては溜息を付く。


「そんなに雪が嫌い?」


私の向かい側に座って、私と同じように本を開いていた由紀子が私の方を見て言う。

私は小さく首を左右に振って見せると、苦笑いを浮かべて肩を竦めた。


「いや…見慣れない光景だから」

「ああ…そう言えば、今までの世界って殆ど夏か秋だったっけ」

「冬とか春って、最後に体験したのは何時だろうってくらい久しぶり」


私はそう言うと、机の上に置いたレコードに目を向ける。

私と由紀子のほかにもう一人…丁度この学校内で出たレコード違反者の処置を任せていた。


「そろそろじゃない?」


由紀子がそう言って本を閉じる。

私も彼女と同じように本を閉じて、レコードの上に読んでいた文庫本を載せた時、丁度よく教室の扉が開いた。


「終わりました」


入って来たのは小柄な女子生徒。

色白の肌に鋭くも大きな瞳を持ち…少し幼げだが十分に年相応な見た目をしている。

私は入って来た彼女の方に視線を向けると、何も言わずに頷いた。


「ありがとう。何ともなかった?」

「はい。特に何もないです」

「オッケー…なら帰りましょうか」


既に支度を終えていた由紀子はそう言って私の方に振り返る。

私はコートを羽織りながら彼女の方へと向かった。


「行こう」


2人の元に行って短くそう言うと、私達はすっかり人影も少なくなった校舎を歩き出す。


…ポテンシャルキーパーになってどれだけ時が経ったのか?10年を過ぎて、それはもう数えない事にした。

最初の数か月以降、ずっと横には由紀子が居てくれて…それがそのままずっと続くのかと思えてきたが、それが変わったのが今からちょっと前のこと。

レコードが新たに一人、私と由紀子の元にやってくる事を告げてきた。


それが今、目の前で由紀子と談笑している少女。

名前は永浦レミと言う。

元は第3軸の人間で、姉が居たらしい。

彼女が来る前に、パラレルキーパーの私と会話した時に、彼女の姉が第3軸のレコードキーパーだという事を聞いた。


私達の元にやって来た時は、実年齢で11歳か12歳くらいだったはずだ。

レコードを持つ以前に、この国ならばまだ学校に行ってないとダメな年齢。

やって来る前から、由紀子が彼女を何処かの学校に入れようと言い出して…気が付けば私と由紀子も成り行きで"同級生"として彼女に付きっきりになることに…

確か、もう彼女も実年齢が成人する位になったはず…だと思うのだが…何故か高校生として過ごす事が普通になっていた。


そうやって過ごしてきて、幾つもの世界を看取って来てやって来たこの世界。

ここも、そんなに長く居られるような世界ではなかった。

今は12月の終わり…来月の始め…1月2日には消えてしまう世界。


私は何時ものように談笑する2人を横目に見ながら、暗い下校道を歩いている。

学校の敷地を出たくらいから、夜にしては妙に明るい…赤に近い紫色のような空からは雪が降ってきていた。


「千尋は今晩何が食べたい?」

「え?」

「そういえば帰っても冷蔵庫が空だったの。千尋が決めて!」


私は突如として話を振られて少し驚く。

由紀子とレミが私の方を見て、何かを期待しているようだった。


「…何処かで食べて行っても良いんじゃない?」


私は2人の意図を汲めずに、適当に言う。

すると2人は顔を合わせて笑った。


「やっぱり、千尋ならそう言うと思った」


由紀子がそう言うと、私は少し負けたような感覚になる。

苦笑いを浮かべて小さく肩を竦めると、髪に付いていた雪を掃った。


随分と平和だ。


私は何となくそう思った。

崩壊まで後2週間の世界の割には…今のところ大きな綻びも生じていない。

何時ものように過ごして、何時ものように眠りにつく…

時々レコード違反は出ても、それらが大きな異常に繋がるような事は無かった。


それでも


…と私は一人で考えを変える。

今までの世界は、必ず終わりが近づくにつれて厄介な事を起こし続けたものだ。

今は平和に思える世界でも、必ずどこかで綻びが生じる。

それを何時だって警戒しなければ…気づけば袋小路に追いやられていた…となった世界だって一つや二つじゃない。

私は何も無さそうに談笑する2人を横目に見ながら、最近は常に周囲を警戒し続けていた。


「…?」


雪が少し強くなってきた。

雪に慣れている2人は気にせずに歩き続けるが、私はほんの少しだけ歩みを遅らせて…視界が遮られないように腕で顔を遮るようにする。


「降って来たね」

「こんな予報だったっけ?」


2人は顔だけを風上から背けて歩きながら言う。

こんな予報…私はそれがこの世界最初の綻びではないだろうか?…と、不意に思いついた。


・・


自分の感覚…それを当てにする前に常に周囲に何かを張り巡らせていた。

蜘蛛の巣のように張り巡らせた"それ"はやがて私の常識を塗り替えていく…

あの時の私はそれを気にせず…蜘蛛の巣に掛かった獲物をただ刈り取るだけだった。


・・

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