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終末世界の片隅で  作者: 朝倉春彦
Chapter2 凍てつく世界の管理人

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33/63

1.凍り付いた時間 -1-

外は相変わらずの吹雪模様…昨日の夜から振り続ける雪の勢いは衰えず、このままだと家が埋まってしまうのではないか?と思う程の積雪量…

外がそんな有様なので、学校は当然休みになり、何処かへ行こうにも雪に閉じ込められてしまっている状況になった。


私は時々外を眺めながら…椅子に座って適当に買った小説を読み進める。

テーブルには冷めたコーヒーと吸殻が溜まった灰皿に、何本が残っている煙草の箱とライター…そして、レコードを置いていた。


この世界が消えるまで1週間とちょっと。

そろそろ忙しくなる時期に、まさかこんな形で外に出られなくなるとは思わなかった。


幾度となく世界が消えるのを見送ってきて、私は違反者の出現に関わる"感覚"が鈍い事は十分に理解している。

そのせいもあって、何時も世界が終わりを迎える時期にはレコードが手放せないのだ。

他の人見たく、レコードを見ないで"違反者の存在"を感じ取れないから、レコードを常に持ち歩いて、レコードが感知するのを待たなければならない。


だからこそ、こんな風に外が真っ白に染まり上がる事が気がかりだった。

何時もは1箱程度で済む煙草の量も、まだお昼になっていないというのに2箱目を開けたくらいには、私は落ち着いていなかった。


「千尋、入って良い?」


窓に当たる雪の音くらいしか音が聞こえなかった部屋に由紀子の声が聞こえてくる。

私が暫くの間黙っていると、彼女は扉を開けて中に入って来た。

無言は肯定…それがルールになっている。


「そろそろ外を掻かないと、ドアが開かなくなっちゃう」

「そんなに積もった?朝にやったばかりじゃ…」

「積もった積もった。あっという間よ」


彼女はそう言うと、私の背後の窓のカーテンを開ける。

外を…空ではなくて地面の方を見てみると、今朝雪かきしたばかりの家の敷地は雪かきする前以上に積もっていて、私は思わず目を見開いた。


「…そんなに雪降る土地だったっけ」

「今日は例外!さ、準備してよ。レミはもう準備万端だよ?」

「分かった」


私はそう言って本に栞を挟んでテーブルに置く。

由紀子の後について部屋を出て1階に降りると、既に準備万端な千尋が私に気が付いて駆け寄って来た。


「はい!」


そう言って渡されたのは、私と由紀子の上着。

私はそれを受け取って羽織り、手袋と帽子を付けると一つ溜息をついて玄関の方へと歩いていく。


「元気だね」

「だって吹雪だよ?」


レミに言うと、彼女は普段よりもご機嫌そうだ。

何が"だって"なのかはサッパリ分からないが…

とりあえず、この子は外で動いている方が性に合うらしい。

私は肩を竦めると、長靴を履いてドアの鍵を開けて外に出た。


「…!」


一気に吹雪が顔に吹き付けてきて、思わず目を瞑る。

腕を顔に寄せた私の横をレミと由紀子は慣れた様子ですり抜けて行った。


「千尋はこれでガーって雪集めてね!適当な所に溜めて、あとはさっきと同じ!」


顔に当たる雪が妙に痛く感じるが、2人にとってはそうでもないらしく、私はレミにプッシャーを押し付けられる。

ようやく痛みと冷たさに慣れてきた私は、ふーっと溜息を吐くと身近な所から雪を押し始めた。

言われた通りガーっと、玄関から歩道まで道を付けて…そこに小さな雪の山を作ると直ぐに駐車場の方へ道を作る。

そして駐車場まで手を作業の伸ばした時、ふと不味いことに気が付いた。


「ねぇ、由紀子」

「何?」


由紀子を呼び寄せた私は、目の前で雪だるま状態になっている背の低い車を指さした。

平成初期に出てきた4人乗りのスポーツカー。

私が初めて乗った車の後継機らしく、背が低く力があって乗り易い車だったから、それなりに信頼していたのだが…


「もしかしてだけどさ、この車って冬に向いて無くない?」


私の問いを聞いた由紀子は目を点にして私の方を見つめている。


「あー…こんな雪が降ると思わなかったから、言わなかったけど…うん」

「結構不味い?」

「こうなったら走れないくらいには」

「……なるほど」


私はただでさえ寒い背筋を凍らせる。

由紀子も私の言いたいことが読めたのか、顔を青ざめさせた。


「ちょっと、家に戻っていい?」

「うん」

「ごめん」


私は持っていた物を由紀子に預けると、小走りで家に戻った。

体中に降り積もった雪を適当にほろって、多少水滴が付いていることを気にすることなく家の中に上がる。

2階の自室に置いたレコードを取ってきて、1階に戻り…殆ど使われることがない固定電話の受話器を取った。


レコードで電話をかける相手の番号を調べて…素早く番号を打ち込み電話をかける。

普段は中々繋がらない相手なのだが…珍しく数コールで繋がった。


「もしもし?」

「一誠?私…」

「2周目の千尋?」

「そう」


相手はパラレルキーパーの小野寺一誠。

彼は私からの電話に少し驚いたようだったが、それを気にする素振りもなかった。


「どうかしたの?そっちの世界は…まだ危機じゃないみたいだけど」

「危機だよ。外が大雪で、車が使えない」

「は?…あー…何乗ってたっけ?相変わらずフェアレディZ?」

「うん…今はいいけれど、こんな大雪が降った日に事が起きたら私達が動けない」


私がそう言うと、受話器の向こうに居る一誠は少し黙り込む。

そして、少しだけ声を震わせて…笑いだすと、受話器から彼の快活な声が聞こえてきた。


「…ああ!そういうこと…って君がそんな初歩的なことでミスするとはね。今まで大丈夫だったのが不思議なくらい」

「しょうがないでしょ。こうなってから雪を見たのなんて数回だし、大雪に至っては初めてなんだから」

「そうなんだ。それも意外だ。北海道に居るのに…ま、分かった分かった。何もない時期で良かったね」

「そうだね。…それもちょっと腑に落ちないんだけど」

「ん?どうしてさ」


私がそう言うと、彼はほんの少し声色のトーンを抑える。


「この雪、予報と違うの」

「天気予報と?」

「違う。ちょっと前に見たレコードと…その時のレコードを出そうとしたんだけど…出てこなくって…見間違いかもしれないけど」

「ふーん?」


彼は少し唸ると、向こう側で何かキーボードを打ち込むような音が鳴った。


「んー…あれ、確認したいんだけどさ、2周目の君は感覚が鈍いんだっけ?」

「そう。だからレコードで色々と見ているつもりなのだけど」

「オッケー…分かった。ちょっと僕は行けそうにないけれど、部下に向かわせるよ。車を届けるついでにね」

「ありがとう…助かる…本当に…」


私がそう言うと、向こう側の彼の声は再び明るくなった。


「じゃ、雪次第だけど、1時間もしないうちに着くと思うよ?」

「ええ。お願い…」


私はそう言って受話器を電話に置く。

ふーっと溜息を付くと、再び格好を整えて外に出た。


「千尋?片付いたの?」

「ごめんなさいね。何とかなったから、もう大丈夫」


由紀子にそう言って、彼女に渡していた道具を受け取る。

そこにレミがやってくると、私の顔を覗き込んで首を傾げた。


「何かあったの?」

「ええ。ちょっとね。後でパラレルキーパーの人が来るから…それまでにはココを綺麗にしておかないと」

「ふーん…後少しだね」

「オッケー…あ、車の周りはやらなくていい」

「なんだ、それならもう終わりだよ?」


彼女はそう言って家の前を指さす。

いつの間にか、私が居た時よりも大分綺麗になっていた。

その時に気が付いたが、雪の勢いも少し落ち着いてきたらしい…さっきのホワイトアウト寸前のような感じにはなっていなかった。


「…なら、戻りましょうか…ごめんなさいね。戦力にならなくて」


私は少しだけ引きつった表情でそう言うと、レミと由紀子は「気にしないよ」と言って笑ってくれた。


家に上がると、そんなに手伝えなかった代わりに上着類を全て片付けて、干すものをストーブの周りに置いた。

全員分のコーヒーを淹れて、クッキーを皿に出して2人が居る居間に運ぶ。


「はい」

「あ、ありがと」


テーブルに物を置いてようやく一息付けた私は、コーヒーを一口飲んで溜息をつく。


「それで?パラレルキーパーが来るのはどうして?」


全員が落ち着いた時、由紀子がそう言って私の方を見る。

それを聞いていたレミも私の方に顔を向けた。


「ああ…調べものを頼むのと、車を持ってきてもらうの」

「車?ああ!…あの車じゃ無理だもんね」

「そう…それだけで…まだ大した事じゃないと思ってるんだけど」


私がそう言って、2人に説明しようとした時、家のチャイムが鳴った。

時計を見ると、まだ40分も経っていない。随分と早い御出ましだ。


「早いね。私が出てくる」


玄関に一番近いところに居たレミが直ぐに反応して玄関へ行ってくれた。

直ぐに扉が開く音がする。


「はいー…………え?……なっ……どうして…?」


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