第壱章 第二話 束の間の安らぎ
二人の少女を抱えつつ森を駆ける。近場の集落までは歩きで丸一日かかるらしい。この子達の健康状態的に結構怪しいかもしれない。この世界の住人の耐久知らないから全然そんなことは無いかも知れないけど。
「よっと。こっちで合ってるんね~?」
「ふぁぶん」
二人には舌を噛まないように布を噛ませている。コミュニケーションに支障は出るが問題にはならない程度だろう。
リラちゃんの指示通りの方向に進んでいく。ちょうど、最初に見つけた足跡が向かう先と同じ方角だ。となると、『救援を呼びに行った』もしくは、『危険の通告をしに行った』といった所だろう。前者なら速く着いた方が都合が良い。
だって、もう手遅れなのだから。救援を必要とする相手はもう居ないのだから。
「結構移動したけど今どんくらい?」
「あふぉちょっとふぉ」
あとちょっとか。さっきも言われたなぁ。ま、文句言わずに走りますかー。ってかさっきからホルンちゃん静かだなぁ......あ、気絶してる。刺激が強すぎたか。急ご。
木の根を削り、地を抉り、空を駆ける。疾く目的地に着いてこの子達を休ませねばならぬ。
「ん?あ、アレ?」
木々の隙間から煙の立ち上る茜色の空が見える。火事の煙とは違う。紛れもない生活の息吹だ。
「たのも~」
速度を緩やかに落とし、集落の門戸を叩く。この子達が居た集落とさして変わりは無いような見た目の集落だ。
「......誰だ?」
低く野太い声が門戸の向こうから響いた。門番かな?門の中に居る門番珍しいな。
「近くの集落......名前なんてんだろ。まぁいいや。え~近くの集落から生き残りの子供達を運んできた者だ。開門を願う」
こういう言い回しで合ってるかな~。ウチの故郷だとこんな感じなんだけど。
半ばどうでも良い逡巡もつかの間、重い音を立てて扉が少し開く。一人の大柄の男が此方を覗き見ている。
「......他に人は居るか?」
「居ない。私ら三人だけ」
「......入れ」
扉がさらに開く。私がこの子ら抱えた状態でならギリギリ通れる程度の開閉具合。もうちょっと大きく開けてくれも良くない?通りにくいなぁ~も~。
「あ~この子ら休ませられる場所無い?結構ギリギリみたいでさ、このままだと衰弱死しちゃうかもなんだよね」
「着いてこい」
大柄で無骨な筋骨隆々マッチョメンの先導の元、集落内を歩き回る。規模は程々。この子らの集落と同じくらいの規模だろう。いや、こっちの方がギリ人多いか?
「ココが診療所だ。早くガキ共を診せてもらえ」
「あいよ~。あんがとさん」
目の前にあるのはそこそこ広めの家。診療所ってことはお医者さんでも居るんだろーな。いや、薬師かな。まぁいいや。
「たのも~」
「おや、いらっしゃい。この集落の人じゃないねぇ。となると隣の集落の人かい?」
お年を召した好々爺が迎い入れてくれた。物腰柔らかな人だなぁ。
「ん~とね。この子らは隣の集落の子達。襲撃かな?多分。その数少ない生き残り」
「なるほどねぇ。二人とも気絶しとんねぇ。疲労が原因かね」
「結構飛ばして来たからね~。疲れさせちゃったかも」
「そこに寝かしといてくんな。目覚めるまでは待ちだねぇ。こりゃ。んで、お嬢さんは?」
爺さんが近くのベットを指さす。結構良い布が使われた寝具だ。割と文明力高いか?開拓村か何かなのかな。
「ん?私?あ~ただの放浪者......かな。風の吹くまま気の向くままに旅をしてるよ。よっと。良い夢見なさいよ~お二人さん」
二人をベットに寝かせる。表情からして多分悪夢に魘されている。まぁあの惨事の後だし仕方ないか。後で美味しい飲み物でも作ったろ。
爺さんがペタペタとリラちゃんとホルンちゃんに触れる。多分触診。健全な行い......だと思う。結構お年を召してるし、そんなに盛って無いでしょ。多分。
「隣の集落の状態を聞いても良いかい?お嬢さん。それと、それぞれの名前も」
カルテらしき物を取り出した好々爺。サラサラと何かを書き込んでいく。多分あの子達の診断結果を書き込んでいるのだろう。
「えっとね~、こっちの薄い赤髪の子がリラちゃんで、こっちの白髪の子がホルンちゃん。この二人は姉妹なんだってさ。んで、ホルンちゃんの髪は一晩でこんな白髪になっちゃったらしい」
「あ~じゃあ失色症だろうねぇ。無理も無いかぁ」
「ん?あの集落の惨状知ってるの?」
「君たちが到着するより前に隣の集落のから伝令を送りに来てくれた子が居たからね。大まかには想像がつくよ。劣勢も良いところだったらしいからねぇ」
ふ~ん。あの足跡の主か。後で探すか。
「まぁ状態は酷いもんだったよ。食料は大体持ってかれて、骸がたっぷり転がってた......そういや子供の死体無かったな」
「ついでに人攫いをしたってところかねぇ。酷い話だねぇ」
「でしょうなぁ。こっちの集落は大丈夫なの?襲撃犯らがこっちの集落襲ってきて攻め落とされたりとかしない?」
「既に都に派兵の要請は送ってるからそれが来るまで籠城戦かなぁ。それなりの期間粘れるだけの備蓄はあるから何とかなるんじゃ無いかなぁ」
随分とまぁ呑気だなぁ。まぁ何とかなるなら良いか。せっかく助けたんだ。早死にされちゃ困る。
「襲撃犯らは見てないのかい?」
「見てないねぇ。過ぎ去ってから少しして、私が到着した感じだったよ」
砂埃とか立ち上ってなかったから割と時間経ってるかもなぁ。そういえばあの煙何だったんだろ。まぁ火災か。火の匂いしなかったんだけどなぁ。
「まぁこれ以上は実地調査をした方が確実かな。うん。ありがとうねぇ。色々と。表にクリス......あ~いや、名乗って無いかあの子なら。門番の人が待ってるだろうから寝床とか色々案内してもらいな」
「ん。あいよ。ありがとさま。爺さん。この子達は任せたよ~」
お互いに手を左右に振り別れを告げる。まさかの文化の一致。偶然か。
「終わったか。寝床まで送ろう。今日は休め」
「ん。ありがとうさま。クリスくん」
「......愛称で呼ぶな。俺はカーティスだ」
愛称と実名めっちゃ違うな。これが文化の差か。無言で練り歩くの暇だなぁ。駄弁るか。
「あの爺さんとは仲いいの?カーティス君」
「......まぁな」
仏頂面でぶっきらぼうだけど結構カワイイな。カーティス君。君付けするとムスッてする。カワイイ。
「この集落どれくらい人居るの?」
「......たしか120人くらいだ」
目算よりちょっと多いな。まぁ誤差か。
「ふ~ん。開拓村?」
「そうだ」
開拓村か~。長居は無用かな。まぁ都とやらに出向く前に多少金を手に入れるくらいはしておくか。持ち物の一部を質屋にいくつか入れたら大丈夫そうだけど、そういうのはキツめの時だけにしたいし。
「着いたぞ」
目の前に在るのは立派とは言い難いが雨風を凌ぐには十分な小屋だ。そこそこ頑丈に作られてる感じがする。嵐かなにかでも頻繁に来るのかな。
「夕食は後で運ばせる」
「ん?いや、いいよ。手持ちあるから。食料は節約しなきゃでしょ?状況的に」
「......助かる」
こっちの飯は食べたい。食べたいけど、流石にこの状況では美味しく頂けない......気がする。明日調理の手伝いするか~そしたら罪悪感だのなんだのも消えるでしょ。
「良い夢を」
「ん。良い夢を。カーティス君もゆっくりお休みよ~」
互いに手を振り別れを告げる。挨拶って言われたヤツを返すのが基本だから割と合わせやすいな。
「さてと、小屋の中は~っと......そこそこ埃が積もってるなぁ。まぁ空きの小屋なんてこんなもんか。さ~さささ、寝具はあるかな~」
小屋の中を物色する。時刻はもう夕暮れに差し掛かった頃故か、光量は心許ないがそれでも漁るには十分だ。
「ん~?コレか?毛布敷いて寝るのか。なるほど。割と機能的だな。まぁ狭い小屋だからこそかな」
収納棚にそこそこの量の毛布が詰め込まれてた。割とふかふかだ。埃?気にしな~い気にしな~い。
「今日そんな寒く無いよなぁ。要るか?毛布。いらんだろ。体拭いてちょっと腹に何か入れて寝ちゃお」
魔法で指先からチョロチョロっと水を出し、手持ちのタオルを濡らす。こういう弱くて良いときは無詠唱発動のが楽だ。自動的にそこそこ弱くなるから調整があんまり要らない。
旅装を脱ぎ、濡らしたタオルで全身を拭く。汗とかはそんなにかいてないけどそんなことは関係ない。乙女の柔肌は清潔に保たねば。乙女?誰のことだろ。
「あ~干し葡萄で良いか」
ポケットからレーズンを5粒程取り出し口に一つずつ含む。美味しい。なんの変哲も無いありふれた品種のの葡萄を干しただけだがそこそこ美味しい。ぶっちゃけ絶品よりこういうそんなに高値つかなそうな品の方が美味しく楽しんで頂ける。贅沢は性に合わない。
「やっぱ体拭くだけでもそこそこすっきりすんねぇ。ん~~っと。寝るか」
体を伸ばし、筋肉の疲労を再確認する。そこそこ走ったから相応に疲れてるみたいだ。埃は......風で纏めてポイするか。渦巻け~。
風で部屋中の煙を一纏めにする。一瞬真空を作って吸引させてる訳だし吸引の方が近いか?まぁいいや。ポ~イ。
「さ、綺麗になったし寝るか。お休み~」
何も敷いてない木製の硬い床に転がる。硬い。寝心地はまぁまぁといったところか。明日は日の出る頃には起きたいなぁ。早めに寝よ。
瞼を閉じ、体中の筋肉を伸ばして縮めて脱力するを繰り返す。こうすると寝付きが良いんだ。
次第に意識が薄れていく。意識が少しずつ闇に呑まれていく。少しだけ、心地が良い。
カーティス君は凄く凄~くカワイイ子。




