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後編(姉、リンディ・アドラー視点)

 私はリンディ・アドラー、伯爵家の総領娘だ。私には、前世の日本の記憶がある。

 そうだ。この世界は遅れた世界、このリンディが、政治チートを起こし。

 王子に見初められ、出世する物語に違いない。



 私が10歳の時、母が亡くなり。父が伯爵代行になった。

 父は領政の知識も意欲もない。低位貴族の第四子出身、当然、領政は、私が仕切ることになった。


 この領都を、世界で最も進んだアメリカのリベラル都市みたいにするわ。



 まずは、この領都、貧民が目立つ。

 炊き出しの強化よ。社会福祉は、女神教の領域、孤児院、救貧院を運営し、領主が保護をする仕組みだ。領主独自の炊き出しを増やす。



 貧民街を消せば、犯罪が減る。外観が綺麗になり観光業で人を呼び寄せる。商会も誘致できるだろう。


「炊き出しの強化をしなさい」


「お嬢様、財源がありません」


「なら、増税ね」


「そんな」


「大丈夫よ。還元するから」


 ・・・・


「やはり、限界があります。税率の上限は、王国法で定められています」


「なら、衛兵隊と騎士団を削減しなさい」


「「「えっ?」」」

「それは、やめた方がいいかと」


「何故です?騎士も衛兵隊は、きらびやかな服を着て、街角に立っているだけ」


 ・・・そう、最新の政治学では、警察官を減らして、その費用を、マイノリティのコミュニティへの寄付金の財源にすれば、豊かになって、犯罪が減る。と聞いたわ。

 ここのマイノリティは、貧民ね。


「立っていることに意味があるのです。騎士や衛兵の前では、犯罪を起こしません」

「今は平和よ。酔っ払いを家に帰す仕事しかないと聞いたわ」

「そのような事を言ってはいけません。騎士に聞かれたら、士気に影響します」


「王国から、伯爵家では、最低300人の騎士と、千人の兵士が推奨されています。軍役がありますし」


「そう、なら、軍役で必要な分を除いて、全て、解雇しなさい。人口、十万人もいないのに、千人以上いるだなんて、軍役は?」


「・・・騎兵50人に、兵士200名です・・まさか、本当にそれだけで」


「いいから、やりなさい!」



 全く、ここは夜警国家だわ。



 税金も農作物が中心で、都市税、商業税と市場税・・あら、市場税?


「市場税はお値段の10パーセント取っているのよね。それ、19パーセントにあげなさい。これ、慣習法よね?」


「ヒィ、何故?」


 ・・・さすがに、20パーセントにしたら、割高感があるわね。計算が面倒臭い。知ったことではないわ。


「市場税は、市場の運営費にあて、後は孤児院、救貧院に寄付する決まりでしょう?だから、市場税を上げれば、福祉が充実するわ」


「寄親の公爵家に相談しましょう」


 ・・・全く、頭が古い。


 役所を増設したり。充実した生活が始まったが、妹、フィーナのおねだりが始まった。


「お姉様、教科書をくだしゃい!」

「え、それは、絵はついていないわよ」


 ・・・まあ、日本で言えば、中学生の内容よね。私には必要がないわ。政治学に至っては、見るべきものが何もない。お殿様じゃないのだから


「あげるわ」


「ありがとうでしゅ」


 ドサッ


 時々、妹の取り扱いについて、苦言を言う輩もいた。


「お嬢様、フィーナ様は、5歳でございます。家庭教師を雇って下さい」


「あら、子供のうちはノビノビ育つべきよ」


 もっとも、私はすぐに覚えたけどね。それに、妹は馬鹿な方が、都合が良い。

 引き立て役よ。



 ・・・・



「リンディ様、他の領の民が領都に押し寄せています。毎日行われる炊き出しが目的です」


「それが、狙いよ。元々は、領都は、人口一万の都市よ。少なすぎるわ」

「でも、やつら、働けませんよ。紹介状もありません」

「なら、公共事業を行うわ。紹介状無しでも大丈夫にしなさい」


「ですから、そんな財源・・」

「市場税を充てなさい!福祉だから、問題はないでしょう!」

「ふくし?」


 全く、福祉の言葉も知らない。




 ・・・・




「お嬢様!犯罪がおきています。白昼堂々、婦人が陵辱され、商店が襲われています」


「騎士達は何をしているの!」


「ですから、お嬢様、騎士は、夜の見回りもあります。皆、体が持ちません」

「刑務所もいっぱいですよ。奴ら、刑務所を別荘と言っています。お嬢様、死刑を廃止したでしょう!」


「うるさいわね。じゃあ、こうしなさい。金貨一枚以内の犯罪なら、厳重注意で済ませばいいでしょう!」



「お姉様、宝石ちょうだい。ドレスちょーだい。新しいドレスを欲しいの」


「あ、こんな時に、また、おねだり?うっさいわね。勝手に持って行きなさい!」


 ・・・物をあげれば、満足する。まあ、5歳だからね。妹は馬鹿な方が私が引き立つ。



 ・・・お父様は役に立たない。そもそもあてにしていない。


「リンディ、ワシの交際費が、支給されないのだが、公爵家に嫁入りした義姉上に相談しよう。ほら、リミール叔母さんだよ」


 叔母様に手紙を書いたが、信じられない手紙が来た。



「何ですって!援助はフィーナが当主になったら、『して上げる』って」


 侮辱だわ。


「フィーナ、どこに?」

「お散歩です」


「他の皆は?」

「フィーナ様と一緒に、お散歩しています。護衛です」


 使用人たちは5歳の妹につきっきりだわ。

 あんな我が儘娘のどこがいいのかしら。



 しかし、トンデモないことを聞いた。


「炊き出しを中止にした?フィーナの命令?」


「違います。財源がないので、2日に一回にしました」


「もう、やめましょう。フィーナ様もおやつも食べられない状況です」



「おやつ食べなくても、死にやしないわよ!」


 どうする。

 そう、これは、妹が悪いのよ。

 妹が我が儘で、手を焼いている。

 実際、妹のおねだりは激しくなった。



「大変です!暴徒が、この屋敷に向かっています」




「これ、執事、委任状を書いておくから、領政をしばらく任せるわよ」


「そ、そんな。私は平民ですぞ!暴徒が向かっています。何か命令を発して下さい」


「分かったわ。平民を傷つけずに、屋敷を守りなさい。良いわね!」

「馬車を用意しなさい。護衛騎士の用意も忘れずに!」



 さあ、早いところ逃げよう。そして、リセットだ。他でやり直しをしよう。


 あれ、騎士と使用人達。フィーナが玄関の間にいる。


「お姉しゃま。『平民を傷つけずに、屋敷を守りなさい』は実現不可能な命令なのでしゅ。無効なのでしゅ」


「何を言っているの。どきなさい!そこの騎士、執事!メイド、従者!フィーナをどかしなさい」



 シーーーーーーーーーン


「騎士団長フランクしゃん。執事長、グロー、メイド、アンリ、従者は、ハンスという名でしゅ。みなしゃま。お姉様の声が聞こえましたでしゅか?」


「「「「聞こえませんね」」」



「ヒィ、何をするの?」


「おねだりでしゅ。お姉様のドレスと宝石ちょーだい。お姉様の権限ぜ~んぶちょうだいでしゅ!」


「ヒィ、私の物全部!」


「すでに、接収しているでしゅ。この書類にサインするでしゅ」


「お父様!これは、何!これでいいの?」


「いいさ。私には政治の能力はない。昔の夢だった庭師になるぞ」


「一応、当主でしょう?妹をたしなめて下さい」


「あ~、リンディは、お姉さんなのだから、我慢しなさい。ドレスと宝石、全部、あげなさい」


 ガクッ!バタン!


「倒れたでしゅ。お姉様をお部屋に案内するでしゅ。お姉様は蟄居でしゅ。嫌なら、放逐するでしゅ」


「新たな公共事業は停止でしゅ。お姉様が作った役所は閉鎖でしゅ。炊き出しは中止でしゅ!」


「ヒィ、そんな」


 ・・・お母様が言っていたでしゅ。リンディお姉様は、ある日、突然、別人と入れ替わったと、

 誰にも言わずに、私だけに言ってくれたでしゅ!


 夢の世界の事ばかり言う。


 いずれ、抹殺か。どこか遠い所にやろうと言っていた。

 お母様は、やはり正しかったでしゅ。


 2年かかった。私は勉強し、魔法を身につけ。未熟ながら、貴族の子供になれたでしゅ。

 お姉様は12歳でも、貴族じゃない。別のナニカだ。化け物だ。




「まずは、表の暴徒を何とかするでしゅ。騎士しゃまと自警団に命令でしゅ!フィーナと屋敷の者たちの命と、自分の命を守れでしゅ!その為なら屋敷はどうなっても良いなのでしゅ!」



「「「御意!」」」



「フィーナ様!暴徒ではござません。口々に、フィーナ様の当主就任と、リンディ様の退任を要求するデモでございます」



「フ、泣かせるでしゅ!これが地獄の終わりの始まりでしゅ!」



「「「はい!」」」



 ・・・・


「うにゃ、何で、マリアちゃんが、先頭にいるのでしゅ?」


「ヒィ、皆に、やめるように説得したら、いつの間にか、先頭にいましたのです!」


「「「「「聖女様も祝福しているぞ!」」」」

「「「「フィーナ様、バンザーーーーイ」」」



「分かったでしゅ。マリアちゃんは、領都の長官になるでしゅ!」

「ヒィ、無理なのです。6歳なのです!」

「大丈夫でしゅ。不法滞在者を追い出して、人口一万人に戻すでしゅ!人口一万の都市なら、人治は可能でしゅ!マリアちゃんの徳で治めるでしょ!」


「ヒィ」



 ・・・・・・・




 ☆☆☆王都公爵家



 このアドラー領の政変は、カゲにより王都に報告された。


 フィーナの母の姉、叔母リミールが担当だ。


「・・・・フィーナは力を示したわね。領地没収は中止よ。これは、革命にあらず。禅譲だと、陛下に奏上するわ。そうね・・お祝いとして、大金貨千枚を、無償援助で、送金しなさい。彼女なら、大丈夫でしょう」


「しかし、6歳の領主代行と領都長官、前例がありません」


「そうね。未熟よね。財産管理人と役人を派遣しなさい。それと、リンディ、異物を引き取るわよ。善意という名の化け物。研究するべきだわ」


「「「はい。奥様!」」」


 ・・・ずっと、カゲの報告から聞いていたわ。フィーナはいいわね。

 貴族の発祥は、ゴロツキよ。王家ですら、羊飼い出身、美化されているが、ケンカで仲間を守っているうちに、王に推戴されたのよね。


 フフフフ、6歳で、貴族の本質を学んだか。先が楽しみね。



 リンディは、終始、あべこべだ!私が転生者だと叫びながら、妹を非難していた。

 聞き取り調査が終わった後、北の修道院に送ら生涯を過ごすことになる。


 この政変の3年後、アドラー領は黒字に戻った。

















最後までお読み頂き有難うございました。

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