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第15話 森で執事と2人きり

 日の上がった早朝


 カヴェンディッシュ家の屋敷の前に、旅の装備を整えた二人の男女が皆に見送られていた。


「ティボー、頼むぞ」

「はい。ご当主さま」


「私がアシュリーと一緒に行きたかったな〜」

「エレナこそ、屋敷のことは頼みましたよ」


「ゲラントさん。紹介状ありがとうございます」

「おう。気をつけてな」


「「 では、行ってきます 」」


 私とティボー卿は、朝日が上る中、屋敷を出発した。


 目指すはメギアの町


 正規ルートの街道は山脈越えの大変なルートなので、魔物はびこる危険地帯のゼネバルの森を突っ切ることにします。


 暗殺者から逃げている身としては、目立たないルートというのはありがたい。


 けど、話の流れで、エレナのお兄さんのティボー卿まで付き合わせることになってしまった。


「あの…… ティボー卿」


「旅は長いですから堅苦しいのは抜きにしましょう。ティボーで良いですよ」


「いや、それは恐れ多いです。じゃあ…… ティボーさん。

 危ないかもしれない旅なのに、付いてきてもらってありがとうございます」


「アシュリーさんがスライムの魔石を売却した収益の一部を税としてカヴェンディッシュ領に納めていただけるのです。できるかぎりバックアップさせていただきます」


 つまり、スライムの魔石が高く売れるほど、カヴェンディッシュ領に納める税額も大きくなると。


 スライムの魔石を獲ったゼネバルの森は、ほとんどの範囲はカヴェンディッシュ領なので、得られた利益から税を納めるのに私の中で異論は全くなかった。


 なぜかエレナが納税の件を聞いて怒っていたけど、私もしばらくはカヴェンディッシュ領でお世話になろうと思っているので、納税は当然だと思うとたしなめたら納得してくれた。


「ありがとうございます」

「それにしても、すごい光景ですね」

「え、そうですか?」


 私が例の槍で道を切り開きながら進む様を見て、ティボーさんは少々引き気味だ


「失礼。レディが槍を振り回している様が異よ…… 新鮮だったもので」


 今、異様って言いかけましたね? ティボーさん


 「一応、騎士なので武芸の合同訓練が王城で定期的にあって、私は槍を選んでいたんです。まぁ、本職の人からしたら全然なんですけど」


「そうなのですか。こんな感じですか? って、おっとっとっと!」


 ヘッピリ腰で槍を振るって、槍の重みに振り回されて危うくティボーさんは転びかけていた。


「ティボーさん、槍の石突きギリギリじゃなくて、口金にもっと近い辺りを持つといいですよ」


「本当に何の抵抗もなく草木が消えて驚きました」


 手元の槍をマジマジと眺めながら、ティボーさんは驚きを隠せないといった表情をしていた。


 メギアの町への旅程を組むにあたり、やはりゼネバルの森を通るのは最小限の距離であるべきと考えたので、先に私が王都からドランを踏破した時と同じやり方を選んだ。


 そのため、ティボーさんにも私の創成したトゲトゲの槍の殺意高めバージョンを持たせている。


「完全に消滅してしまうので、狩りには向かないですけどね」

「いや、これは凄いです。根まで一挙に消しされるなんて、ゼネバルの森の開拓を大幅にスピードアップできます」


「草刈り特化なら鎌タイプにしてみましょうか。ちょっと貸してください」


 ティボーさんから槍を受け取り、私はトゲトゲ部分をコネコネした。


「はい、どうぞ。これならより広範囲を刈れますよ」

「なんだか死神の持つ大鎌というか、命を刈り取る形になりましたね」


「殺傷力高めなんで周りには気を付けて振るってくださいね。まぁ、今は私しかいないので気にする必要ないですけど」


「そうか、この森では人間は私とアシュリーさんしかいない訳ですからね」


「そ、そうですね……」


 ティボーさんの言葉を受けて、何だか今さら、男女二人っきりという状況に気恥ずかしさのようなものが湧き上がってきた。


 トゲトゲ職人をしていた頃も、仕事の大部分は独りでこなしていたから、あまり気の利いた会話とか出来ないかも。


「おー、凄い。これなら広範囲の草が刈れますね。これはご当主様に良い報告ができます。よし、ここからは私が先頭で草を刈っていきますね」


 大鎌を喜んで振り回すティボーさんの姿を見て私は、


「うん。大鎌と槍を振り回す男女に、甘酸っぱい展開とか絶無だよね。ティボーさんはアルベルト閣下ラブだし」


 と先程胸に湧き上がった感情が雲散霧消するのを感じながら、ティボーさんの後をついて行った。




◇◇◇◆◇◇◇




「今日はこの辺りで野営にしましょうか」


 まだ日が落ちるには少し余裕があるけれど、野営をするのにちょうどいい平地の開けた場所を見付けた私は、ティボーさんに提案した。


「そうですね。暗くなる前に休む場所を確保した方がいいですね」


 ティボーさんの賛同も得られたので、私は荷物を降ろし、テントなどの野営準備を始めた。


「まだ日が落ちるまで時間がありそうなので、近くに食べられる野草やキノコが無いか見てきます」


「解りました」


 私はテントを張りながらティボーさんへ返事を返した。


 テントの張り方は事前にエレナに教えてもらったけれど、中々上手く行かないな。


 悪戦苦闘しながら、私は2張りのテントを張り終えた。


 ふぅ、と汗を拭うと、ふと足元に置かれている大鎌タイプのトゲトゲが目に入った。


「ティボーさん置いて行ったんだ。まぁ、これで切ったら採りたい野草ごと消えちゃうもんね」


 と、ここであることに私は気付いた。


 ティボーさんは今、私のトゲトゲで創られた物を身に着けていない……


 その事に気付いた私は弾かれたように、手に大鎌を携えて、ティボーさんが向かった先へ走り出した。 


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