「中、見ないでよ」 -最終回ー(全7回)
1時間半で13ページ分のネームのような下書きのようなものが出来た。
中途半端で不吉なページ数は、これ以上減らすわけにも増やすわけにもいかない現実的な枚数になった。
このくらいのボリュームであれば、きっと締め切りには間に合うし、なにより今は描きたい仕上げたい気持ちが高まっている。
今日はバイトもないし、遅れ気味だった数学Ⅰのワークも後に回しにすることも、先ほど自分の中で決まった。家でペン入れするため、今度こそ帰宅しないと。
その前に。
南校舎を迂回し、僕の親よりも歳を重ねている古い体育館に向かう。
数年前に耐震補強こそされたが、時折、雨漏りの報告がある。建て替える計画もあるらしいが、きっと僕が卒業した後の話だろう。
開けっ放しの扉や窓から、空調の劣悪さが伺える。
やはり覗き込むと、バド部がまだ練習を続ける横で、女子バレー部は用具の片付けをしていた。
体育館の裏手に回る。
外のベンチで座りながらイヤホンをしてスマホを眺めている問川を見つけた。
近寄っていく途中に、問川は僕に気づきイヤホンを外す。
「米澤くんじゃん」
「うす。片付け、サボり?」
「違う違う、休憩です。もう少ししたら行くし」
「終わったら、問川、帰るの?」
「うん。…いや、まあ、少ししたら」
特に意味もなく聞いたつもりが、問川に変な警戒をされた。
「米澤くんは、部活帰り?」
「うん。漫画の原稿の締め切りが近いくて」
「漫画?あ、そっか、漫研だもんね。学祭で出すんだ?」
「うん。先輩に…先輩たちに負けない漫画描くつもり」
「うわ、全然カッコよくねえ」
「うるせえ」
笑う問川と僕。
体育館裏にびっしりと生えたドクダミの匂いと、影が大きく伸びるだけの夏の夕方。
沈む陽の光を正面から受けている問川は眩しそうに目を細める。
「えー、でも、めっちゃ楽しみだな。当日、漫研覗き行こっかな。どんな漫画描いてんの?」
「どんな?うーん…。なんか、こう、キラっキラした学園生活…みたいな感じのやつ、思いついちゃったから」
「へー。いいじゃん、私、そういうの好きー。面白そうじゃん」
「…面白くはないっすよ」
問川の視点からは逆光に立ってしまった僕が、僕の影を、彼女に落とすわけにはいかない。