幕間 ある人々の回顧録
【ある守衛長】
俺はスコット・マイヤーズ。平民だが街の守衛長をやってる。
まあ、街を囲む城壁の門番ってやつだな。
俺がそいつに出会ったのは、宵の口を回った頃だったと思う。
顔なじみの冒険者のアリーセが、どっかから男を拾ってきたから、俺が入街の審査をしてやったんだ。
転移事故にあったってー話だが、学のない俺じゃあ詳しいことなんざ解らねえから、取り決め通りに審査をしてたら、どうにも怪しい。
悪意を調べる事ができる魔道具の反応は問題ないが、この魔道具も完璧じゃあねぇ。
最終的には俺の長年の経験と勘で判断をする事になるってわけだ。
過去にも何人もとっ捕まえてる俺の勘によると、このあんちゃんは何か隠し事をしているはずだ。
アリーセが拾ってきたんなら、悪いやつじゃあねぇと思うが、アイテムボックスを利用した密輸ってのは、誰でも考える事だしな。
多少ハッタリをかまして、アイテムボックスの中身を吐き出させる。
素直に出せば良し、出さなかったら、一晩暗くてジメジメした檻の付いた高級ホテルにご案内って寸法だ。
取り調べは、専門の奴が居るからあとはソイツにお任せになる。
素直に出したとしても、まだ安心は出来ねぇ。他の領地や国なんかで合法でも、ここじゃあダメって品もあるからな。
知らないで持ち込もうとする奴は結構多いんだ。
そうしたらあの野郎、大金はまだしも魔晶石なんてもんを大量に持ってやがった。
魔晶石が超高級品だなんてことは子供だって知ってる。 おとぎ話にも出てくるくらいだからな。
こんな物をたくさん持っているなんてお貴族様に違いねぇ。 隠し事ってのは身分だったってわけだ。
俺はすかさず詫びをいれたね、お貴族様にしてみたら、俺みたいな平民なんて塵芥と一緒だ、無礼者めなんて言われた日にゃ物理的に首が飛んじまう。
話した感じ悪いやつじゃあ無さそうだし、本人が記憶が無いって言うなら、怪しくても乗っておいた方が無難だ。
もちろん身分が高いからといって、悪さをしねえというわけじゃねえから、この事はしっかり上に報告しとかねぇといけねぇ。
そんな感じの出会いだったが、あのあんちゃんがホットドッグとかいう持ち運べる料理を宿の女将のクーリアに教えてくれたおかげで夜勤の食事事情が良くなったり、冒険者になってすぐにドラゴンを倒しちまうし、そのクセ街の近辺の低ランク依頼ばかり受けて出入りが多くなったせいで、すっかり顔なじみになっちまった。
仕事中には飲めねえって言ってんのに「本みりん」とかいう甘い酒の差し入れなんかもしてきやがったな。
仕事明けに一緒に上がった奴らと飲んだら、奪い合いになっちまった。
もちろん俺が勝った。
スタンピードが発生してモンスターが押し寄せて来た時はにゃあ、アリーセと並んで大活躍だったようだ。
最後に出てきたデカブツを止めたのもあのあんちゃんだって聞いたときは流石に驚いた。
俺らも駆り出されて防衛に当たってはいたが、一人の欠員も出なかったのが、あのあんちゃんのおかげだってのは、俺にでもわかる。
また、あんちゃんが街を出る時にでも、礼を言っとかんといかんな。
【あるマジックユーザーの回顧録】
私は、エーリカ・ファイアージンガーと申しますわ。
これでもBランクの冒険者として少しは名が知られておりますの。
冒険者でBランクといえば、ほぼ1つの到達点でもありますのよ。
上にAランクやSランクとありますが、Aランクはほんの一握り、Sランクに関しては世界中でも片手で数えられる程しかおりませんので、実質的な最高ランクがBランクだと言われておりますわ。
Bランクになると、貴族様からのご依頼が来るようになり、護衛や家庭教師、武術指南等のお仕事をする事があります。
ご機嫌さえ損ねなければ、楽にそれなりの賃金がいただけますし、定期的なご依頼や、場合によってはお抱え冒険者として安定した収入を得ることが出来るので、目指される方も多いようですわ。
そんなご依頼で、私がご領主様のお屋敷でご息女様の家庭教師をしているときにあの人達と出会いましたの。
お一方は、最近私と同じBランクの冒険者になったアリーセさんで、何度が見かけた事があります。
もう一方はCランクのイオリさん、こちらは初めてお会いしましたが、Cランクなのにご領主様のお屋敷に招かれているのはドラゴンを倒されたからでしょう。
ここのご領主様は、私達のような下々のものにも気さくにお声をかけてくださる、貴族としては非常に珍しい奇特な方です。
このイオリさんをご息女のコリンナ様の魔法の家庭教師にと聞いたときには、一瞬気が遠くなるかと思いましたわ。
コリンナ様は大変優れた魔法の素質を持っておられますが、今まで幾人もの魔法の達人と呼ばれる方々が手ほどきをしても、全く魔法が発動しませんでしたの。
私が家庭教師としてコリンナ様に魔法の手ほどきをしていても、それは変わりませんでしたから、とうとう暇を出されるのかと思ったわけですわ。
でも、当の彼が不幸な事故で記憶に障害を負ってしまったそうで、魔法がちゃんと発動しなくなってしまったということした。 ですので彼の流派でのこの世の理を教えるだけなので、引き続き私も家庭教師を続けさせいただけるとわかって、ほっと胸をなでおろしましたわ。
クビになったなどと噂が広がると、私の評判が悪くなってしまいますからね。
彼が初めて家庭教師としてやってきた時に、コリンナ様が来られるまでの間に少し魔法についてのレクチャーをしたしました。
見たところ、発動直前までは出来ているようなので、ごく初歩的なお話をさせていただきました。
魔法の発動体も、かなり品質の良さそうな物をお持ちでしたので、もともと魔法をメインで使われるのかもしれません。
当たり障りなく『ライト』の魔法を使っていただきましたが、普通ライトと言えば松明より少し明るい程度なのが普通ですが、目がくらむほどの明るさで視界が真っ白になってしまいましたわ。
明るすぎても物が見えなくなるという発見はありましたが、どのように理を解けばあれほどの光を生み出せるのか、少し興味が出てきました。
コリンナ様へ教えて差し上げていた、発火の魔法の理は、私が聞いたこともない内容でした。
流派によって理の解き方が異なるとはいっても、似通ってくる部分というものや、ほぼ共通であることは珍しくありませんが、彼の説く理は私の知るどの理とも違うにも関わらず、確かに彼の言うとおりになりました。
しかも魔法を全く使わずに、火の付かない空間をいとも簡単に作り上げてしまいました。
魔法で同じことをしようとしたら、相手の魔力に合わせて打ち消しのカウンター魔法を使うという、非常に高度な技術が必用としますのに、ろうそくにコップをかぶせるだけという、誰にでも出来る事でそれを成し遂げてしまいましたの。
それだけでも、驚愕に値しますのに、たったそれだけのことを教えられただけで、なんとコリンナ様が魔法を使うことに成功されたのですわ。
コリンナ様がどれほど努力を重ねて、魔法を使おうとしてきたかを知る私は、思わず目頭が熱くなってしましましたわ。
その後も幾度か、顔を合わせましたが、コリンナ様に更に新しい理を説き、その度に魔法が使えるようになって行くコリンナ様を見るのが最近の密かな楽しみになっております。
『錬金術』ではない『科学』の実験に付き合わされるのも、新たな理を知ることが出来て非常に有意義な時間を過ごさせて頂いておりますわ。
私の知る理と彼が言う理を、独自に解釈を融合させて、私の得意とする炎の魔法も威力が上げることにも成功しましたの。
まさか、風と炎を組み合わせると打ち消しあわずに炎が強くなるとは思いませんでした。
スタンピードが発生したことをいち早く発見したのも、あの二人だったようですわね。
スタンピードの迎撃の際に私はご領主様の護衛として後方に居ましたが、ご領主様がフラフラと前線に行ってしまわれたり、トップが座しているだけでは誰もついては来ない!とかおっしゃって、突撃していってしまった時には肝を冷やしましたわ。
慌てて追いかけたら、少々押され気味のようでしたので、私が新しく開発した魔法で援護をさせていただきました。
あの時私を見上げた彼の顔を見れば、この新しい魔法にさぞかし感心されたのだと思いますわ。
最後に使われた大きな魔道具はすごかったですわ、空気が震える程の結界を展開して山のようなモンスターを止めてしまったのですから、驚くとかそういうレベルじゃありませんでしたの、流石に負けたと思いましたわ。
でも、何よりも驚いたのは、あれだけの魔道具を使いこなしておいて、ジョブが魔道具使いではなく、いまだにノービスだということを聞いた時ですわね。
まったく、すごいノービスが居たものですわ。
明日から本編に戻ります。