幕間 ある執事の回顧録
私の名前はヴァルター・フォーレルトンと申します。
ロットラント王国の辺境に位置する街、フェルスホルストを治められておりますご領主、ジークフリード・ローデンヴァルト辺境伯にお仕えしております。
我が主であられるジークフリード様は、聡明で責任感が強く、また我々や領民の事をしっかりと考えてくださる、大変お優しい方でございます。
王都からみて辺境に位置する領地は、他国と隣接しているわけでもなく、わずかに人外の領域が存在するだけの、目立った特産品等もない領地でございますが、ジークフリード様は見事に領地の運営をこなしておられます。
「ヴァルター、またベーネミュンデ伯爵から嫌味のこもった手紙が届いたぞ。 我が領地の運営はやる事が少なくて暇そうで羨ましいそうだ」
「前回のご子息様のお誕生パーティに欠席をなされたからでしょうな」
「あれは領内にドラゴンが現れたとの報があったから、仕方が無いではないか……」
「恐らく、そのドラゴンの素材の贈り物が何も無かったからでございましょうな」
「しかし、あれはすべて冒険者ギルドの方で管理しているし、何かを買取るような予算は無いぞ」
「他の領では、希少な物は接収する事もあるとのことですが」
「税を既に取っているにもかかわらず、民からさらに奪うような恥知らずな事が出来るか!」
ジークフリード様は大変正義感がお強く、不正を嫌う傾向が大変お強いので、他の領主を始めとした貴族の方々に少々疎まれておいでです。
もう少し、そちらの方面にも寛容になられると安心なのですが。
「そういえば、そのドラゴンを倒したという冒険者は、どのような者だ? 我が領は冒険者にとってそれほど旨味のある場所ではないから、優秀な冒険者が居てくれるというのは非常に喜ばしい事だが、素行が悪いような者では困るぞ」
「では、また、直接お逢いになりますか?」
「そうしよう、調整は任せる」
本音としては止めていただきたいのですが、ジークフリード様は身分に関係なく優秀といわれる方々と良くお逢いになり、その人となりを確認したがるところがございます。
流石に、今すぐと言うわけには参りません、曲がりなりにも領主であるジークフリード様は暗殺などの危険が無いとは言えないからです。 どこの馬の骨かわからない者を会わせるわけにはいかないので、身辺調査はしっかりせねばなりませんな。
調査の結果として、たいへん興味深い事が分かりました。
ドラゴンを倒された冒険者はたったの2人で、そのうち一人、アリーセという女性の冒険者は、腕前も評判も良い人物のようですが、イオリという男性の方は冒険者になったばかりだという事でした。
もちろん、最初から実力のある者が冒険者になる事もあるので、なりたてだから弱いとは限りません。
どうも守衛からの報告にあった、魔晶石を大量に所持しているという人物と、同一人物のようです。
転移事故により記憶に障害が出ているそうですが、立ち振舞いや知識などとても平民には見えないと報告にはありましたが、はてさてどの様な人物なのか。
ご面会当日は、私がお迎えにあがる事にしました。
本来であれは、私の仕事ではありませんが、身辺調査をしているとはいえジークフリード様に直接お逢いになられる方々です。 送迎の時間で少しでも人となりを判断する必要があると判断して私が出向くことにしました。
冒険者ギルドで待っていたお二人の印象は対象的で、アリーセ嬢は非常に緊張をしている様子でしたが、イオリ殿は大変落ち着いておられ、報告にあった通り卒なく私と会話をされていた事が印象的でした。
送迎の馬車内でイオリ殿が、領内の政治に纏わる質問をされるので、正直困惑いたしました。
イオリ殿の質問の内容は貴族であっても、そうそう気になさることではなかったからですが、もし、他国の間者であったならば、ここまであからさまに聞くというのもおかしな話です。
イオリ殿はしっかりとした教育を受けられた、それなりの身分の方である可能性は高そうですな。
ジークフリード様は、冒険者に対して服装や礼儀作法などを全く気になさらないので、酷く臭うとかあまりにも汚れている等でなければ、そのまま面会させる事もあります。
しかし、この街で長らく冒険者をされているアリーセ嬢はともかく、イオリ殿の事は情報が掴みきれて居ないので、もう少し様子をみたいと思い、お召変えをしていただく事にしました。
時間を稼ぐ意味でも、アリーセ嬢には少々時間をかけてしっかり準備をするよう指示をしておきましょう。
イオリ殿は、使用人が付いてのお召変えの最中も非常に落ち着いており、戸惑うような事は無かったと報告を受けました。
アリーセ嬢の準備に時間がかかるという旨をお伝えしても、何故時間がかかるのかを特に疑問にも思われなかったご様子でしたが、監視ができる部屋で待っていただいていた際に、何らかのスキルをお持ちなのでしょう、認識阻害をしていたにもかかわらず、こちらの監視をすべて見事に看破をされてしまいました。
しかも、まるでそんな事は無かったとばかりに、その事をアリーセ嬢に伝える事もなければ、こちらを咎める事もありませんでした。
監視の者に労いの声までかけたそうなので、そういった対応が当然ある物と『知っている』のだと考えた方が良いのでしょうな。
やれやれ、これはなかなか手強いお相手のようです。
この後お会いになられるジークフリード様にも、普通の冒険者だと思わない方が良いと、報告を入れておきましょう。
ジークフリード様とのご歓談では、驚くべきことに、この国や近隣諸国の魔法の解釈とは全く異なる解釈を以て魔法を操られ、さらには薬学にも明るいらしく、非常に効果の高いポーションを調合までされていました。
ポーションは後日で出入りの薬師に調べさせましたが、材料はともかく精製の精度が高すぎて再現不可能だと報告を受けました。
こうなってくると記憶の障害というのも疑わしいところなのですが、魔晶石の取扱いが全く解っていない事から、疑わしくはあっても記憶に障害があることには信憑性はあると思わざるをえないようです。
国や文化が変わったからといって、魔晶石の特性が変わる事はありえませんし、嘘をつくなら子供でももっとマシな嘘をつくからです。
国家に関わるような重大な情報を持っている者に対し、他国にそれらの情報が渡ることを阻止するため、万が一の際に記憶からそれらの情報を抹消してしまうという、一種の呪いがあるという話を聞いたことがあります。
イオリ殿の不自然は記憶の偏りは、コレによるものだとすると、納得がいきますな。
これらをふまえて、おそらくイオリ殿は、我が国とは国交の無い国、つまりは極東の国の貴族か高官である可能性が非常に高いのではないでしょうか?
もしくはもっと上、王族である可能性も否定はできませぬな。
多少の怪しさを含みますが、ジークフリード様はコリンナ様の家庭教師としてイオリ殿に指名依頼を出すことにしたようです。
普通の貴族であれば、自身の娘を関わらせることで『心を許している』というように見せ、監視下に置くという意味合いが強くなるのですが、ジークフリード様の場合は単にコリンナ様が魔法を使えるようになって欲しいというだけというのが困ったものです。
コリンナ様は非常に優秀な魔法の素質を持っておられるのですが、どういうわけか、全く魔法の行使が出来ません。
貴族の子であれば素質がなくとも簡単な魔法が使えるものなので、ジークフリード様は他の貴族の子供から、いじめを受けるのではないかと大変気に病んでおられます。 貴族のいじめは大変陰湿なものが多く、ジークフリード様自身も散々とそういった仕打ちを受けてきているので、藁にも縋る勢いだったのでしょう。
ドラゴンを倒された際のお話でも、お二人のお話は数々の幸運に助けられ知恵と工夫によって倒されたという、非常に謙虚なお話でございましたが、その後のちょっとした実技のご披露では我が領の衛兵よりは数段高い実力を持っていることが垣間見れました。
お二人とも大変ユニークな技をお使いでしたが、アリーセ嬢の技は以前どこかで同じような技を見たことがある気がしました。
しかし、イオリ殿の技はやはり見たことも聞いたことも無いものでした。
イオリ殿は知識や技術も然ることながら、特別な戦闘訓練も受けてもいるのでしょう。
謎は残りますが、人材としては非常に優秀です。
今後もこの領でご活躍いただけるよう、それとなく便宜をはかるようにいたしましょう。
明日もう1話幕間を挟んで新章突入です




