20話 宿泊もここに決めた
アリーセと、今後について話し合って、明日は俺の装備や、着替え等のすぐに必要になる生活に必要な物を揃えに行くということになった。
一人で切り盛りをしていると聞いたので、ピークを過ぎて客足が減って来たところで、クーリアおばさんに宿泊する旨を伝える。
「前金で貰ってるけど構わないかい? 個室は一泊朝晩食事付きで50ナールだよ、冒険者提示で連泊してくれてるんなら割引するよ」
「それじゃあ、とりあえず1ヶ月でお願いします」
そういや1ヶ月が何日なのかって聞いてなかったな。後で聞いてみよう。
とりあえず出来たばっかりの冒険者証を提示する。
「そいつはありがとうよ、それじゃあ1000ナールで良いよ。洗濯物は別料金で籠1杯で5ナールで引き受けてる。体を拭くのは裏の井戸なら無料、タライの貸し出しで水なら2ナール、お湯なら5ナールだよ」
風呂は無いようだ。
「あ、じゃあ、洗濯とタライ貸出しをお湯で、そっちも纏めて1ヶ月分含めてでお願いします」
「毎日洗濯と湯浴みをする気なのかい? 冒険者の癖に随分とキレイ好きなんだね。いや、もちろん良い事さ。冒険者なんて毎日汗かいて泥だらけになって動き回ってるんだ、あんまりに酷い臭いだと、叩き出すこともあるからね。それに着替えがあるからって溜めとくとキノコが生えちまうんだ」
なんか聞いたことがあるな、有名な漫画家の話だったような?
「利用しない日もあると思うので、月1250ナールでどうでしょうか?」
「毎日なら1300って言いたいところだけど、まあ構わないよ、その代わり利用しなかったからって返金は出来ないから、毎日無事に帰ってきて忘れないように利用しとくれよ?」
了解を返し、1250ナール相当と聞いている旧王国金貨を1枚取り出して渡す。
「なるほど、これならちょうどで面倒が無いね、今度他の客にもこの料金で提示してみようかねぇ」
良いと思います。
そう言いながら、クーリアおばさんはアンティークな鍵を渡してくれた。この世界では普通の鍵であるのだが。
「部屋はそこの階段を上がって奥から2番目だよ。アリーセの隣にしといたからね!」
その気遣いは俺は良いけどアリーセ的にはどうなんだろう? ありがとうございます!
とか考えていたら、もし二人部屋に移るってんなら何時でも言ってくれて良いからね。と耳うちされた。
まだ出会って1日目です。
冒険者ギルドでもついに春がー的なこと言われてたけど、なんであんなに独り身を心配されてるんだろうか?
面白がられているだけかもしれんが……。
とりあえず、クーリアおばさんにお礼を言って2階に上がる。
「それじゃあ、イオリも流石に色々あって少し疲れてるでしょ? 明日はお昼くらいに行く感じで良いかしら? それとも明日はまるまる休む?」
「そこまで疲れてはいないし、何も分からんからお任せで!」
「はいはい、任せておいて。じゃあ、明日お昼ご飯前くらいに下で集合ね」
部屋の前でアリーセに明日の予定を大まかに聞いて、から早速部屋に入る。
4畳半くらいの少し狭い部屋で、簡素なベッドと、小さなサイドテーブルと椅子が一脚あり、壁際にランプが取り付けられていた。
流石にもとの世界の蛍光灯ほどの明るさは無いが、ぎりぎり文字が読める程度には明るい。
部屋の隅には、一抱えくらいの鍵付きの木箱が置いてあるので、多分これに貴重品を入れるんだろう。
シーツや布団は想像していたよりはキレイで、綿ではなく藁が敷かれていて、虫除けなのかハーブのような香りがする。
荷物を置いて試しに横になってみると、寝心地もそんなに悪くないようだ。
俺はベッドの縁に腰掛け、今後どうするかを考える。
まず元の世界には正直親父やお袋には悪いと思うが、あんまり未練はない。
でも安全面や郷愁等を考えると帰れるに越したことは無いと思う。『帰れない』のと『帰らない』のでは、大きな差があるからだ。
ベストは自由に行ったり来たりが可能な状態だろうが、期待はしない方、後のダメージが少なそうだ。
それと、派手な金の使い方をしないようにした方が良いだろう。日本でも宝くじが当たると、どこからとも無く金を貸せだ投資しないかだと手紙が届いたり、知らない親戚が突然現れたり、最悪殺されたりもすると聞いている。
もともと大金の使い方を知らない庶民が大金を持つとあまり良いことが無い気がする。
王族や貴族など身分の高い奴らとお近づきにならないってのも大事そうだけど、そうそう市民が出くわすことも無いだろうから、もしそうなったら、その時考えれば、とりあえずは良いだろう。
一番の問題は、チートツールをどう活用していくかが問題だ。
現状、急激なレベルやパラメータアップは苦痛を伴ってしまうが、現状のままではゴブリンに負けるような現状では今後生活していくうえで不安がある。
この辺は少しずつレベルかパラメーターを上げていくようにしよう。
レベル1の時のパラメーター10倍程度なら大丈夫だったけど、今のパラメーターを10倍したら死ぬんじゃなかろうか?
スキルもゲームの時にあったスキルとすでに手に入れたスキルであればいじることが出来るが、ハイキックで股裂きになったので、身体的に厳しい動きをするものや、ステータスに影響があるスキルは危険だ。柔軟性なんてパラメーターは表示が無いのだし。
パラメーターやレベルを据え置きで考えると、やっぱり装備品での強化なら無難に行けるのではなかろうか?
早速、アイテムボックスの中身の順番を入れ替えて、ゴブリンから手に入れたさびてガタガタの剣を他のアイテムに変更出来るか試してみる。入れ替えを行うのは、アイテムボックスの1番目のアイテムを変更するためだ。
大量にある水を変更しても良かったが、万が一変わっていなかったとき、取り出してみて水浸しになったら困るからだ。
それと同時にステータス確認時にあった、解析ツールの方も使ってみる。解析ツールと言っているが、実際はただ実行中のプログラムの中身をみて、比較をするだけのツールだったりする。
簡単に言えば、空っぽのときのアイテムボックスの状態と一個だけアイテムが入ってる時で、どの部分が変わったのかを比較して、変わった部分がアイテムボックスのアイテムが入っている部分のデータだと判明させるという地道な作業をする為のものだ。
この時の変更部分である、何行目の何番目というのが、アドレスと呼ばれているもので、チートツールのコードの前半部分がコレに当たるのである。
とはいえ、ゲームと違って現実では物事は常に変わっているので、解析したところで、あっちこっち変り過ぎて特定出来ない死にスキルなんじゃないかと予想をしている。
「なんじゃこりゃ?」
パソコンでよく見る、ファイルを開く、とかバツマークなどのタブ等がついている、ウインドウが出てくると思っていたのだが、解析ツールを起動してみると、自分のよく知る解析ツールと全く違うものが出てきた。
【対象を指定してください】
チートツールと同じように画面だけが浮いているそこには、ただ、それだけが書かれていた。
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