終幕
伯母の返事を受けて、病室はにわかに騒がしくなった。これから手術に向かう伯母さんを見送り、部屋から出る俺たちに真面目な院長の顔をした畑野浦さんが感謝を述べてきたから、お礼は手術を終わらせてから、また店で聞きますよ、と言って病院を出た。
昼下がりの暑い駐車場を和音と歩く。
さっきまでペラペラと喋っていた彼女はもうなりを潜めて、ただただ黙って俺の半歩後ろをついてくる。目にやかましい見た目とその物静かな態度のギャップが、なんだか妙におかしい。けれど、それでいい。彩香はもう仕事を終えたのだ。
二人、特に会話もないまま俺の車のそばまで歩いていく。運転席のドアを開けようと手を上げかけて、ふと思いついて振り返り、和音の肩を叩く。
「おつかれさま。あとはもう畑野浦さんたちに任せて、帰ろう。今日はおつかれさまでした」
笑って言って、車に乗り込む。ドアを閉めようとしたところで、和音がその場に立ったままでいることに気がついた。
助手席に乗るように促さなければだめだったか、と彼女に目をやって、俺はぽかんと間抜けに口を開けてしまった。
和音は自分の頬をつまんで引っ張りあげ、不恰好な笑顔を作っている。
「おつかれさま」
平坦な声でそう言われて、思い至る。
これは、俺が教えたものだ。笑って返せばいいと、教えたおつかれさま。
まだまだひどく不恰好だけれど、これはきっと大きな一歩。和音はこれから何にだってなれる。何だってできる。そのための手助けになれるなら、俺のできる限りで精一杯手伝おう。
でも、今日はひとまず笑って言おう。いつか彼女と笑いあえる日のために。
「おつかれさま!」




