第51話 母親 *三月*
え? しずかさん、結婚してたの!?
年齢的に結婚をしていても不思議ではないが、そんな素振りなどまったくなかった。結婚指輪とかもしてなかったからな。
「友美、ただいま」
娘さんを嬉しそうに抱き締めた。離れて暮らしていたようだ。
「元気にしてた?」
「うん! 元気にしてた!」
なにやら複雑な家庭環境のようだ。あまり深く関わらないほうがいっかな?
しばし、再会を確かめ合い、やっと落ち着いてくれたしずかさんが照れ臭そうにオレを見た。
「すみません」
「いえいえ。謝るのはこちらのほうですよ。なんか娘さんとの再会を邪魔しちゃったみたいで」
「いえ、気にしないでください。汽車を待つ時間がありましたから」
とは言うが、嬉しそうな娘さんを見ていると申し訳なさが勝つ。なにかお詫びしないとな。
「さあ、どうぞ」
しずかさんに招かれて店へと入った。
家族経営なのか、店内はそんなに広くない。カウンターに三人。四人用テーブル二つ。畳みにテーブル二つだった。
お客はおらず、厨房で料理をしているのが三人いた。
「ただいま、お母さんお父さん、お兄ちゃん」
「あら、お帰りなさい。元気なようね」
定期的に帰って来ているようで、母親らしき女性はそれほど感慨はない。
「あら、そちらさんは?」
「相原三月です。桜小町の常連です。偶然、駅でしずかさんと会ったので、お姉さんのところに案内してもらいました」
「桝谷さんの知り合いだったのよ」
「あの桝谷さんとかい。福島の人?」
「はい。友人が酒田で結婚するので、米沢にいる友人のところに会いに来たんですよ。稲刈りの手伝いもあるので。あ、これ、エビとイカです。福島の海で買ったものです。皆さんに配っているので食べてください」
店で出す量ではないが、家族で食べるには大量だ。
「こんなによろしいので?」
「はい。たくさん買いすぎて困ってたんですよね。食べ切れないとにばご近所にお裾分けでもしてください」
どうぞどうぞと受け取ってもらった。
「あ、注文いいですか? かつ重が食べたくなっちゃったんで。中華ソバもお願いします」
蕎麦は食ったから次はラーメンといこうじゃないか。
「お母さん。あとはお願いね。三月さん、ゆっくりして行ってください」
「はい。おにいさんのコーヒーも楽しみなので」
ゆっくり娘さんと再会を深め合ってくださいな。オレは美味いものをいただかしてもらうので。
待っている間にお客が三人入って来る。あ、餃子とかもあったんかい! 気付かんかったわ!
「すみません。餃子って持ち帰り出来ますかね? 友人の家にお土産にしたあんで。大丈夫ならこの重箱に入れてもらえますか?」
持ち帰りのパックがないのが辛いよな。あのパックはいつの時代から使われるんだ?
「今日は大繁盛だ。何人前です?」
「五人前は入りますかね? 余裕があるならもっと入れてください」
「はいよ」
しばらくしてかつ重が運ばれて来ていただきます。うめー!
まだ一時間も過ぎてないが、オレの胃袋はまだまだ余裕がある。魔力回復でエネルギーを使うので、食べようと思えば牛一頭は食える。さすがに完食するまで半日は掛かるだろうがな。
半分くらい食べたら中華ソバが運ばれて来た。あーいい匂い。煮干しかな?
かつ重も中華ソバも綺麗に食べた。まったく、毎日美味いものが食えて幸せだよ。親子丼も食いたかったぜ。
水を飲んで一息。あー美味かった。
「はい、コーヒーだよ」
「しずかさんのおにいさんで? おねえさんとそっくりですね」
男女の差はあるが、なんか似てる。
「一恵とは双子なんだよ。二卵性だからそんなに似てはいないんだがな」
「目許や雰囲気が似てますよ。知らなければ双子とはわからないでしょうが」
そう言ってコーヒーを飲むとメッチャ美味かった!
「こんな美味いコーヒー、初めてですよ! プロですか!?」
「アハハ。趣味だよ。料理の腕はあんまりだが、コーヒーを淹れるのは才能があったようだ」
「これは、通いたくなる美味さですね。喫茶店とかやって欲しいくらいですよ!」
コーヒーなんてそんなに飲まなかったが、大人になってコーヒーの味がわかるようになったようだ。
「喫茶店をやるのが夢だったんだが、金の問題で諦めたよ。ここでも飲みに来てくれる人はいるからな」
もったいない。こんな腕のいい人が埋もれているなんて。どうにかならないだろうか?
一杯を飲み干し、お代わりをお願いした。
「あ~美味いな~」
なんかコーヒーに目覚めてしまった感じがする。
「そんなに美味そうに飲んでもらえると嬉しいよ」
「これは、次の世代に残すべき味ですよ。アイスコーヒーもいいかも」
「アイス? 冷やしコーヒーかい?」
昭和ではアイスコーヒーって言わんのか? ここだけの言い方なのか?
「あ、水筒があるので作ってもらえませんか? お代は支払いますんで! むしろもっとコーヒーを研究してください。支援しますんで!」
千円札の束を出しておにいさんに押し付けた。
「こ、こんなにもらえないよ! いくらあんだよ!?」
「まあまあ、気にしないでくださいよ。オレは美味いものには糸目をつけないので。これで豆とか道具を揃えてください。また飲みに来ますんで。あなたの淹れるコーヒーに惚れました!」
この人は確保すべき人だ!




