第50話 実家 *三月*
地元酒も美味く、久しぶりの蕎麦も美味かった。馬刺しは絶対に買いだ。
「ありがとうございました。とても美味しいものを食べられました」
オレには説明しながらとか、分析しながらとか、はたまた形容詞炸裂なことは語れない。美味しいものは美味しいと言えるだけの能しかない。でも、それで構わない。オレは美味いものを食えるだけで満足だ。
「い、いえ、ご馳走してもらって、こちらこそありがとうございました。三月さんは、本当に食べるのが好きなんですね」
「ええ。長いこと不味いのや味気ないのを食べて生きて来ましたからね。美味いものが食えることが幸せで堪りませんよ。いつか自分でも美味いものを作ってみたいものです」
さすがに毎日外食は体に悪い。塩分過多でもある。体は平気でも濃い味ばかりになってしまう。繊細な味のが食べられなくなるぜ。
「では、実家まで送りますよ。ちょっと待っててください。乗り物を持って来るんで」
さすがに陸王を出したらしずかさんを混乱させてしまう。もうちょっと耐性を付けてから収納の指輪の存在を教えてあげよう。
駅前まで来たら阻害の結界を創り出して収納の指輪から陸王を出した。
二人乗り用ではないが、荷物を載せるために荷台を付けた。そこに座布団を敷いて座りやすくした。帰ったらサイドカーでも作るか。
陸王のエンジンを掛けたら跨がり、しずかさんのところに向かった。
「お待たせしました」
「二輪車で来てたんですか!?」
昭和はバイクを二輪車呼びなんか?
「はい。凄い道でした」
まだ通ったことはないが、なかなかの酷道って話だ。相馬までの道より凄いんだろうか?
「急ごしらえですが、ゆっくり走りますんで」
しずかさんに横乗りしてもらい、オレの服の端をつかんでもらった。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。なんだか凄く座り心地がいいですね?」
付与魔法を施しているからな、ファーストクラスにも負けんだろうよ。ファーストクラスなんて乗ったことないがな。イメージです。
「じゃあ、発進させますね~」
陸王を発進させ、しずかさんにナビしてもらって実家へと向かった。
妙寮庵前から西米沢はそう遠くもなかったが、道はやはりよくはなく、交通ルールが消失していた。うわ! 馬車が走っているよ! マジか!?
発展(?)しているのは駅近くだけで、一キロも走ったらタイムスリップしたかのような町並みだ。お古いお寺や墓場が多くないか? 気のせいか?
家屋が少なくなり、十五分くらいで駅前? に到着した。
商店が二つと食堂が二つ。商売出来るほど人が住んでいるとは思えないのだが、ちゃんとやれてんのか? 庭坂より……いや、止めておこう。背後から撃たれそうだ。
「実家はあそこです」
しずかさんが指差すほうに紺色の暖簾が掛かった食堂があった。おかだ食堂って名前のようだ。
陸王は駅の駐輪場、かもしれないところに置き、おかだ食堂へと向かった。
昼前だが、お客さんがいる様子はない。が、店前に自転車があり、木製のおかもちが置いてあった。出前をやってんのかな?
「コーヒーでも飲んで行ってください。兄がコーヒー好きで、店でも出しているんです」
あー、そう言えばコーヒーもまだ飲んでなかったな。近場に喫茶店とかなかったからさ。
「コーヒー、いいですね! 飲みたかったんですよ! お邪魔させてもらいます! あ、せっかく来たのでお土産でももっ行きましょうか。相馬に行ったとき、エビとイカをたくさん買ったんですよ」
背負子と木箱を出した。
「ど、どこから出したんです?!」
「アハハ。まあ、いいじゃないですか。世の中には不思議がたくさんあるんですよ」
あと三回くらい見せたら考えるのを止めてくれるだろうよ。
「さあ、久しぶりの実家ですよ。家族に──」
店に入ろうとしたらガラス戸が開いて四、五歳の女の子が出て来た。
「おかーちゃん!」
と、しずかさんを見た女の子がそんなことを叫んだ。え? おかーちゃん?




