第42話 結婚 *純*
しばらくして宏子さんと三月が戻って来た。
「すみません。お風呂を沸かしてもらえます? 泥だらけにしちゃったもので」
砂まみれで、髪は濡れていた。砂浜に行ったのか?
「三月!」
「大丈夫。お前の嫁さんの実力を見て来ただけだ。お前もより一層修業しないと宏子さんのお荷物になるぞ」
それはわかっている。自分が宏子さんより弱いことをな。だが、それに腐っても仕方がない。
「学さん。純の……なんでしたっけ? 親みたいな立場になるの?」
「後見人か?」
「あー、それそれ! それをお願い出来ますか? オレ、そういうの詳しくないんで。掛かる費用はオレが出しますんで。ゆい、ゆいの、なんでしたっけ?」
「結納金」
「そう、それ! 現金じゃなくても宝石でもいいですかね? 宝石ならたくさんあるんで」
「大丈夫だ。それは能己家で出す。純や君には命を助けられたからな。むしろ、出させて欲しいくらいだ」
「あー……じゃあ、お願いします。花嫁道具、ではありませんが、必要なものはオレが用意しますんで」
異世界で使うものか? それなら充分すぎるほど小屋にあっただろうに?
「純。結婚式は稲刈りが終わってからにしろよ。友達を呼ぶんならな早めに伝えておけな。学さん、あとはお任せしてもよろしいでしょうか? オレは二人の新居を用意するので」
「ああ、任せてもらおう」
「オレは失礼しますね。仁井家の方々。純を受け入れていただきありがとうございました」
深々と頭を下げる三月。なんか恥ずかしくなる。オレはなんて情けないんだろうと。流されるままだ……。
「いえ、こちらこそ、娘を受け入れてくださりありがとうございます。宏子は表に出せぬ娘でしたから」
「いい娘さんでしたよ。純にはもったいないくらいのね。まあ、嫌だと言っても純と結婚させますが。こいつは、嫁の尻に敷かれるくらいがちょうどいいですからね。では」
あっさりと去って行ってしまった。まだいて欲しかった……。
「藤次郎さん。婚礼は酒田で行いましょう。参加するのは十人もいないだろうからな」
「わかりました。神前式でよろしいか? 宮司には話を通しておきますので」
「お願いします。玉串料は能己家で納めさせていただく」
なんかどんどん話が進んでいく。
その日も仁井家に泊めてもらい、親類縁者を呼んで報告会というなの酒盛りが行われた。
酒はそんなに飲めないが、解毒の指輪を嵌めていたので、いろんな人からの酒を飲むことが出来た。お陰で親類縁者の名前も顔も覚えられなかったよ……。
朝は普通に起きられた。
仁井家は大きい屋敷で、別邸もあったりする。さすが江戸時代から続く家だ。宏子さんっていいところのお嬢様だったんだな。
……幽気で狂気な姿が激しくてお嬢様って思えないがな……。
布団から抜け出し、走る用の服に着替える。二日も走り込みしてない。皆が起きるまで全力疾走でもしてこよう。
静かに外に出ると、門のところに誰かいた。
「宏子さん!?」
花柄のワンピース? を着ていたから近所の人かと思ったらまさかの宏子さんだった。どうした?!
「おはよう」
「あ、おはようございます。早いのですね」
「いつもこのくらいに起きる」
「オレもです。いつもは素振りをして朝食を食べたら走りにでます」
洋服姿でも幽気がだだ漏れてんな。夕方に電灯の下にいたら子供は絶対に逃げるだろうよ。
基本、いや、たぶん、顔は整っているのだろう。他の女性より背も高い。体付きもいい。だが、それを貫くほどの幽気と狂気を纏っている。オレはこの人と結婚するんだな……。
「わたしも付き合います」
「さすがにその格好では」
と、スカートを捲り上げたら半ズボン? を履いていた。き、綺麗な脚──ではない! スパッツってヤツか? 三月も履いていた。
「走れる」
「わ、わかりました。海まで案内お願いします」
「うん」
と、全力疾走に近い速さで走り出した。ちょっ、いや、速すぎ!
オレも全力疾走で追い掛けた。




