第41話 人間性 *三月*
「仁井家で話し合っているところ申し訳ありません。宏子さんをお借りしますね──」
宏子さんの肩に手を置き、強制的に転移させた。
転移した先は、海岸か? 純が最後に要石を置いた場所に転移してしまったようだ。
やっぱり自分で置かないとダメだな。純の強い記憶に引っ張られてしまったよ。
「改めて自己紹介を。オレは相原三月。来年には純の存在をもらっている男だ。って、そう警戒しないで欲しいな。別に女性を取って食べる趣味はないこらさ」
すっげー警戒されているよ。ボク、悪い男じゃないよ。ぷるぷる。
「……バ、バケモノ……」
「酷いな~。害のない、平和を愛する男なのに」
「平和を愛する男ならそんな血の臭いなんてさせない。べったりこびりついて悪臭を放っている」
「へー、わかるんだ。そんなに臭う? 毎日風呂入ってんのにな~」
なんなら温泉にも入っているよ。昭和時代に来てからオレの血はビールで出来ているようになっているくらいだ。
一歩近付くと、宏子さんは一歩下がった。
「怖いんだ? これまで自分が怖がらせていたクセに」
「……わ、わたしは、怖がらせてなんかいない……」
「本当に? 怖がる相手を見て楽しんでいたんじゃない? 虫けらが騒いでいるって」
「…………」
沈黙するところが認めている証拠。素直なお嬢さんだ。
「逃げないのも目を逸らさないのも感心感心。絶対的強者を前に素晴らしい胆力だ。君たちが行く世界にはオレみたいのがゴロゴロいるんだよ」
いや、ウソです。ゴロゴロはいません。不運なら出会うくらいかな? オレらが倒しちゃったしな。隠れているのは真に強いヤツらだろうから無闇に出ては来ないだろう。
「人殺しを自慢する趣味はないから何人とは言わないが、まあ、宏子さんの感覚は間違ってないとだけは言っておこう」
魔王を倒してハッピーエンド、なんてものはなかった。むしろ、魔王を倒してからが本番と言ってよかっただろう。
「人権なんてものはない。強ければ生き残れ、弱いヤツは無慈悲に利用されて捨てられるだけ。むしろ、優しさなんてないほうがいいと思うくらいだ」
クズが得をする世界。それがあの世界だった。
「とは言え、人間性を失ったら綺麗なものを見ても綺麗と思えなくなる。小さなことが幸せだと感じなくなる。地獄に堕ちているのとなんら変わらないよ」
人間性は大切だと学んだ、いや、学べたことが唯一の救いだったよ。
「その袖に隠しているものより、こっちを使うといい。オレが使っていたお古だが、切れ味はなかなか。氷の魔神の魔石を埋め込んである。オレを足止め出来るくらいには強力だ」
「あなたを殺せないの?」
「ド直球だね~。やってみるといい。ちなみにその剣の名前はない。気に入ったら君が名前を付けるといい」
サブウェポンだったもの。ロールプレイングゲームなら中盤辺りで手に入るもの。魔王戦ではまったく役に立たんものだ。
「……雪女。あなたは雪女よ……」
「氷の魔神に気に入られたみたいだね」
なんかイマジナリー魔神と会話したんかな? オレはまったく会話出来んかったけど。
「お、なんか相性いいみたいだね」
オレが持ってもそこまで冷気が出なかったのに、今は砂浜が氷るくいだ。夏にいいかもしんないな。
ブンンと剣──雪女を振ると、周りの温度も下がってしまった。平成の世で働いてもらいたかった。気温四十度とか余裕で死ねる暑さだったしな。
「────」
「おっと」
鋭い一撃をサクッと避ける。異世界の熊なら一刀両断していたことだろうよ。
「凄い凄い。中級冒険者なら相手出来るかもな」
中級と言っても異世界で生きる中級だ。こちらの熊なら素手でも倒せるだろう。魔法で身体を強化出来たりするから。
まあまあの一振りを余裕で避けていく。
体力もまるようでなかなかスタミナが切れない。そんな細い体のどこにスタミナが隠れているんだろうな? 人体のふっしぎ~!
それでも全力で十五分も動けばスタミナは衰えてきた。
「能力にかまけて技術を疎かにしてきたからすぐバテる。集中力が途切れてくる。警戒を怠る。ほら」
足がもつれたところを軽く蹴ってやる。ほら、倒れた。
「そう怒らない。戦いで冷静さを失ったら負けるよ。怒りで勝てるのはバカな獣まで。知恵を持つバケモノには勝てない、よっと」
立ち上がったところを雑な蹴りで吹き飛ばしてやった。
「オレに一太刀入れられないようでは異世界じゃ苦労するぞ。オレは後方で前衛を支援する系の魔法使いだからな。肉弾戦は弱いほうだ」
事実、オレは弱いほうだ。一人で倒せるのはA級の魔物くらいだろう。嫌がらせしろってんなら別だがな。ネチネチといたぶってあげよう。ククッ。
「お、胆力もあれば根性もあるじゃないか。本気だせよ。ちょっと本気を見せてやる。三十パーセントだ。昭和だと三割と言ったほうがいいかな? まあ、君の実力はオレの二割、ってところだな」
「……バケモノ……」
「そうだ。バケモノだ。そんなバケモノのがいる世界に純は向かうわけだ。今なら諦めてもいいんだよ」
「──断る!」
まったく、やっぱ純は主人公体質だな。ふふ。




