第33話 白鬼 *純*
「純。よいか?」
庭で刀を振るっていると、学さんがいつもにも増して厳しい顔をして現れた。
すっかり能己家にお世話になっているオレ。もう下宿しているようなものだ。
「はい、大丈夫です。長くなるようでしたら汗を流して来ますが」
「そうだな。流して来い」
どうやら本当に長くなりそうだ。なら、異世界の家に行って汗を流して来よう。
借りている部屋に戻り、転移して戻って汗を流した。
「一応、下着も替えて行くか」
なんの話かわからんが、しっかりして行ったほうがいいだろう。
十五分くらいして戻って来て、座敷へと向かった。
麦茶が用意され、半分ほど飲んで学さんが口を開いた。
「酒田は知っているか? 日本海側にある町だ」
「はい。最上川の河口の町ですよね。村上に行ったときに知りました」
駅があったので、路線図を見た。確か、羽越本線と言ったか?
「ああ。そこに遠い親族がいてな、回復を伝えたら相談を受けてしまった」
厄介事か? 学さんの表情が複雑怪奇になっているぞ……。
「その家は仁井と言って武士の家系で、明治の時代に商業で財を築いた。戦争で財は減ったが、今は新潟に貿易会社を設立して順調に伸びているそうだ」
新潟か。米所ってくらいしか知らんな。
「つまり、長く続く家柄、ということですね」
「ああ」
長く続く家ってのはいろいろ問題があるものだ(小説知識)。
「仁井家は、たまに白髪の子が産まれる」
「アルビノですか。日本にもいるのですね」
「アルビノ?」
「色素が少なく、白い髪や日光に弱いようです。三月が言ってました」
獣人の中にもアルビノがいて、昔は迫害されたと言っていた。そこを三月が助けてあの場所に連れて来たそうだ。
「治るのか?」
「どうでしょう? 生まれつきですので。たまにというなら仁井家の方々、嫁に来る人にエクサリーを飲ませたほうがいいかもしれませんね」
高校を卒業してないっていうのに三月の知識量はオレよりある。平成ではあれが普通なのか?
「エクサリーは手に入れられるのか?」
「手には入れられるそうですが、まず材料集めしないとならないようですね。ただ、三月に言うには、エクサリーは劣化版だそうで、すべてが治るわけではなさそうです」
本当はエリクサーというらしいが、劣化版なのでエクサリーと呼んでいるそうだ。
「そうか。材料を集めなければいけないのか」
「まあ、オレが集めますよ。旅の目的はあったほうが充実しそうなので」
三月からも言われている。当てのない旅は飽きがくると。長い旅となるのだからエクサリーの材料集めも目的としよう。
「ま、まあ、それは本題ではないのだ」
本題じゃないんかい! 紛らわしいな!
「仁井家には鬼が生まれるのだ」
鬼? あの赤鬼とか青鬼とかの鬼か? 学さんは、お伽噺をしているのか? いや、魔法とか異世界とか目にしておいてなんだがよ……。
「そのアルビノに生まれた人が鬼みたいなことをしていると?」
「ああ。表立ってはいないが、それでもウワサは流れるものだ。仁井の白鬼が人を殺しているとな……」
この時代に? よく隠せているな! いや、知られたら仁井家はお仕舞いだろう!
「まさか、オレにその白鬼を退治しろ、とか言いませんよね? 三月なら可能かもしれませんが」
学さんにも勝てないどころか、手も足も出ない状況。実力差は雲泥の差だ。
「いや、そうではない。一度、会ってみてくれ。わしではわからんからな」
オレだってわからないよ! と言っても学さんが困るだけ。酒田は港なので魚が手に入るかもしれない。オレの手に余るようなら三月を呼べばいいだけだ。異世界にも鬼はいるようなこと言っていたからな。
「わかりました。これから会いに行くのですか?」
「ああ。早いほうが助かると言われている」
「それなら月山まで転移して、そこから飛べば一時間も掛からないでしょう。駅に要石を置いて戻って来ます。泊まりなら用意を。あ、奥様もご一緒にどうです? 親族なら学さんとご一緒のほうがいいでしょう」
酒田までかなりの距離だが、転移なら一瞬だ。それなら奥様に負担はないだろうよ。
「そうだな。もう五年も会ってない。酒田は、新子の生まれた地なのだ」
親族って、奥様のほうだったんだ。
「では、一時間かそこらで戻って来ます」
靴を履いてから月山に転移。そこから海のほうを目指して飛んだ。
「そう言えば、近くに出羽三山があったはず。そこを目指すか」
月山を越えた先にあると、出店のおばちゃんが言っていた。
出羽三山神社はすぐに見つけられ、左手に鶴岡、だったか? 鶴岡を北上すれば酒田があったはず。もっと地図を見ておくんだった。
とりあえず、名も知らぬ神社に要石を置く。間違えたときのために。
四十分くらい飛ぶと、川が見えた。大きさから言って最上川だろう。なら川沿いに飛べば酒田だ。
すぐに線路を発見。川沿いから線路沿いに飛び、酒田駅と思われる駅が見えた。
さすがに人の往来があるので、一キロ離れたところで下りたら歩いて向かった。
「意外と発展しているな」
ボンネットバスも車もたくさん出入りしている。もう戦後ではないってのは本当なんだな……。
なんて思いに耽っている場合ではないな。要石を花壇に埋めて能己家へと転移した。




