第19話 配達所 *三月*
その夜、純から米沢のことを聞かせてもらった。
「楽しかったようでなによりだ。てか、この枝豆美味いな! ビールによく合う」
だだちゃ豆、だったか? 米沢にはこんな美味いものがあるとは。稲刈りに行くのが楽しみで仕方がないぜ。
「新聞配達は?」
「明日、挨拶に行く。面談と研修みたいなのがあるそうだ」
「お袋も行くのか?」
「いや、オレだけで行くよ。母親に付いてってもらう年齢でもないしな」
「でも、引きこもっていたことは知っているんだろう? それな明るく現れたら相手が戸惑わないか?」
あ、それもそうか。体もこの時代じゃ大きいほうだしな。
「大丈夫だよ。純を見たのは十年も前のことだからね。それに、仕事をしてくれるのなら引きこもっていても構わないそうだよ」
「お、わかってくれる人みたいでなによりだ。しっかり仕事で認めさせるよ」
「楽観的だな」
「死ぬわけじゃないんだ、失敗したって取り返せばいいだけのことよ」
命のやり取りをするわけじゃない。契約しているうちに新聞を配達する。実に明瞭な仕事じゃないか。
明日は初日なのでビールはこれまで。五右衛門風呂に入って早めに布団に入った。
朝はいつもの時間より早く起きて畑仕事。茄子が豊作だ。
「かーさん。じゃあ、行って来るよ」
茄子を収穫したら昨日のおにぎりを食べて出発準備をする。
「もう行くのかい? まだ汽車の時間じゃないよ」
かーさんやとーさんが起きて来た。もっとゆっくり眠っててもいいのに。習慣は抜けないようだ。
「飛べばすぐさ」
一直線に飛べば三キロくらい。五分もかからんよ。道なりに行けば六キロくらいになるらしいがな。
まずは駅前に下りる。
「飛べばすぐだが、一応、要石を置いておくか」
転移魔法で一瞬で来れるようにする。雨の日とか飛ぶの嫌だし。
かーさんに書いてもらった地図を頼りに新原新聞ってところに向かった。
新聞は汽車で運ばれてくるとかで、配達所は駅からそう遠くない場所にあった。歩いて五十メートルもなかったよ。
配達所には灯りがついており、十人くらいがいた。
「おはようございま~す! 戸川純です! よろしくお願いしまーす!」
挨拶は大事と元気よく入った。
「あーあんたが善子さんの息子かい」
「はい! しっかり働かせていただきます!」
「ああ。聞いていた以上に元気だな。まあ、配達人はいくらいてもありがたいからよろしく頼むよ」
「任せてください! 体力なら誰にも負けませんから。十キロくらい余裕で走れますんで」
なんなら百キロでも走れる体力はある。魔王戦は丸四日、寝ずに戦ったからな。百軒でも二百軒でも回りますぜ!
「今日は、ここで新聞の区分けしてくれ。配達はここが慣れて、配る地区の地図を覚えてからだな」
あー、いきなり配るわけじゃないのか。ちょっと拍子抜け。でも、考えてみればやったこともないのにいきなり配達はさせないか。ここに住んでいるわけでもないんだこら。
「わかりました! がんばります!」
教えたとおりやっていると、なんか小学生くらいの男の子が三人、やって来た。なんだ?
「おはようございます!」
「おう。今日も頼むな」
どうやら配達をするようだ。昭和時代は小学生でも新聞配達してもいいんだ。でも、バイトって高校生からじゃなかったっけ? どこかで法律が変わったのか?
「あんな小さい子も働くんですね」
四十後半くらいの男性に尋ねた。もしかしたらもっと若いかもしんない。
「家計の足しにって働く子は多いさ。まあ、こんな田舎だと近所を任せるのがやっとだがな。町なら十人くらい雇っているのも珍しくないそうだ」
へー。昭和時代でも子供が働くのは珍しくないんだ。異世界なら五歳の子でも働いているがよ。
配達人はオレが来たより早く仕事をしているようで、空になった自転車に山盛りに積んでまた出て行った。
「遠くまで配達するんですか?」
「そうだな。水保まで運ぶこともある。ここからじゃ朝の七時過ぎにはなるがな」
水保がどこかわらんので「へー」と返しておいた。
区分けが終われば半数が帰って行った。え? 配達しないの?
「純、休憩だ」
休憩するほど働いてはいないが、奥に上がってお茶を飲む者。外でタバコを吸う者と、なかなか自由な休憩をするので、オレは壁に貼られた地図を眺めた。
「地図ってどこで買えるんですかね?」
「文具屋でも手に入れられるが、うちの古いのでよければ持って行くといい」
「いいんですか? 貴重なものでは……」
昭和時代では地図は貴重ではないのか?
「配達するのにたくさんあるんだよ」
さすがに日本地図ではなく、折り畳みの地図で、福島市と書いてあった。ここ、福島ってところだったんだ。駅名とか見てなかったわ。
庭坂はここで水保はここか。なんだ、三キロも離れてないじゃないか。いや、待て。道はアスファルトではなく土の道だ。これだと自転車には厳しいのではないか?
「自転車の消耗も激しそうですね」
「まーな。早く町のような道になって欲しいものだよ」
埼玉にいた頃は砂利道を見つけるほうが難しかった。今の時代ではアスファルトの道を探すほうが大変なんだな~。




