第20話 荒れた畑の治し方
疲れて寝ているのを無理に起こすのも悪いかと思ったが、勝手に俺だけで進めていては話し合った意味がないとばかりに、俺はアーネットに声をかけた。
「アーネット。俺は今から昼飯を食って裏の畑を手入れするが君はどうする? 疲れて辛いようなら無理はしなくてもいいが……」
「ふわぁ」
俺の声に反応したのか、アーネットは目を覚まして欠伸をひとつした。その隣ではホイップもつられたように大きな欠伸をしていた。
「あれっ? いつの間に帰ったのですか?」
「ああ、ついさっきな。疲れていたようだから寝かせておこうとも思ったが、一緒にと話していたからな。勝手に俺が全部やってしまって、起きたら全部済んでいましたとかは嫌だろうと思って声をかけたんだ。まあ、どちらにしても昼飯が先だがな」
俺はアーネットに言うと、開いていた部屋の窓とドアを閉めてまわると、一階への階段を降りて行った。
「――せっかくの休みだからな。無理はして欲しくないが、やると決めたら実行しないと」
俺が厨房に入っているタイミングでアーネットとホイップが食堂に降りて来ていたので、昼食の料理を並べていく。
「初めて見る料理ね。どんな効果があるの?」
「疲れが取れる食事の新作だ。実は今日の巡回中に鳥型の魔獣の卵を見つけてな。魔法で調べたら思ったよりもいい効果が得られそうだったから試しに作ってみたんだ」
「魔獣鳥の卵ですか。グラードおじさんと居ると初めて食べるものばかりで毎日が新しいです」
「魔獣の肉をベースに溶き卵を流し込んで濃厚な味を出しているんだが、予想以上にくどくならなくて良かったと思う。これなら酒を飲み過ぎた奴らでも食えるんじゃないかと思って作った一品だ。まあ、アーネットは酒を飲むには早すぎるから関係ないかもしれんがな」
俺は美味しそうに食べるアーネットとホイップを見て笑みを浮かべたのだった。
◆
「さて、やるか。まずはこの長く茂った草をどうにかしないと駄目だな」
改めて畑の前に立つと多くの雑草が茂っているのが分かる。俺は雑貨屋で買っておいた鎌を取り出して少しずつ刈り取っていく。
「結構な面積があるから何を植えようかな。ようやく前に買っておいた種が役に立つ時がきたようだ」
俺は刈り取った草を運び出すのが面倒でひょいひょいと魔法袋に放り込んでいきながら草を刈っているとアーネットが傍に来て手伝いたいと言いだした。
「私にも出来ることはないかな?」
「うーん。本来、こういった力仕事は大人が担当するものだからなぁ。ほら、鎌の扱いとか結構危なかったりするしな」
彼女の気持ちは嬉しいが、鎌を使って草刈りをさせるのはあまり気が進まない。
「そうですよね。私も魔法が使えたなら、こんな草を刈るなんて簡単だったかな?」
「は? いやいや、俺も大概の魔法について調べたことはあるが、草刈りをする魔法なんて聞いたことはないぞ? そんな便利な魔法があったら俺は真っ先に習得していることに間違いない。そうすれば、庭の手入れでがっぽり大儲け出来るだろう」
俺はアーネットの気持ちを打ち消すようにわざとツッコミを入れて場を和ませようとする。
「ふふふ、そうですね。グラードおじさんなら絶対にそうすると思うし、本当に出来るのなら一緒にお仕事が出来たでしょうね」
「それ、いいな。本気で研究してみるかな」
俺は冗談まじりにそんな軽口を言ってアーネットの頭に手を置いた。
「本当……。どうしてこうなったのかな?」
アーネットが自らの境遇に小さくつぶやく。俺はその声に気がついていなかったように装いながら言う。
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何でもないわ。出来れば私もお手伝いがしたかったなーって思っただけ」
気丈に誤魔化しながら笑うアーネットを見て、俺は彼女をどうにかして救ってやりたいと強く思った。
「――よし、じゃあこうしよう。ここの草刈りは俺が引き受けるから休憩時に食べる軽食をアーネットが作ってくれ。力仕事は腹が減るからお菓子くらいじゃ足りないからな」
「私が軽食を? 本当にいいの?」
今までアーネット一人で魔導コンロなどは使わせていない。一応だが使い方は教えてあるので挑戦させてみる価値はある。特に今は魔法が使えないから俺の足手まといになっていると思い込んでいるのでそれを払拭してやりたかったのだ。
「ああ。だが、食材は俺がもう準備してしまっているから作るものは決まっているんだが、それでも頼めるか?」
「私、やってみたい。何を作る予定だったの?」
「サンドイッチだ。作り方は四角いパンを薄く切って具材を間に挟むだけなんだが、野菜は刻むだけでいいが、肉は焼かないといけないんだ。魔導コンロの使い方は覚えているか?」
「はい。何度もグラードおじさんが使う姿を見ていますから」
「よし。なら、アーネットを信じて任せてみよう。ただし、必ず守って欲しいことがある」
「なんですか?」
「火を使う時は決して慌てないこと。肉が焦げてもそれこそ炭になろうが構わない。失敗は無駄ではないと言っておく。あとは、何かあればすぐに呼ぶことだな。守れるか?」
俺の言葉にアーネットは力強くうなずくと嬉しそうに笑みを見せたのだった。
◆
その後、俺は急いで雑草の刈取りを進めた。畑の準備は草刈りだけではない、その後は土を耕して種が植えられる状態にして初めて準備が終わったと言えるからだ。
俺はアーネットの姿が見えなくなったのを確認して魔法を使う。
「地を這う風よ、そこに立ち揺れる野草を断ち切る刃となれ。風切草」
――ズババババ
一陣の風が地を這いながら立ち並ぶ雑草を根元から一気に切り飛ばしていく。これはまさにアーネットが言っていた草刈り用の魔法だ。実は本当に草刈り用の魔法は開発されていたのだが、生活魔法の中でもあまり需要がないと言われていて知る者はそう多くなかった。
「やはり魔法で刈ると楽でいいな」
この草刈り用の魔法属性は当然、風属性だ。初めから俺がこの魔法を使って草刈りをしていればエルフ族であるアーネットは自分が出来ないことで落ち込むのではないかと控えていたのだ。結果的には鎌で刈っていても同じになったが、俺が草刈り魔法を使っている所を見ていなければ少しは違うだろう。
俺は早々に草刈りを魔法で終わらせると、散らばっている草を魔法袋で片づけてから畑を耕すことにした。
「畑を耕す魔法もあるんだが、これを使うと早く終わり過ぎるんだよな。仕方ない、面倒だが鍬でやっていくか。魔法がうまく使えない土地で使うためだけに買っておいたものが、こんな形で役に立つとはな」
俺はつぶやきながら鍬を取り出すとアーネットが呼びに来るまでの間、ゆっくりと畑を耕し始めたのだった。




