32「お前を愛することはない」と言われた私、食事マナーも完璧です!
今日の夕ご飯は何だろなー♪
うきうきと食堂までつき、行動のみ令嬢モードへとスイッチを切り替える。
いつもは勝手に引いちゃう椅子も、アンネが引いてくれるまできちんと待つ。
「わぁ! おいしそう!」
ずらりと並んだ食べ物たち。
吸い寄せられるように、メイン料理からふわふわと出てくる湯気の匂いをそっと嗅ぐ。
お肉の匂い、最高すぎる!
匂いだけで、パン三個はいける!
「いただきまーす」
がぶりと大きな口で食べたい!
それでも今は令嬢モード。
私の口のサイズに計測し、ナイフで一口サイズに切る。
口の中はあふれた唾液でいっぱいだ。
「あーん。むぐ……もぐもぐ……。ほわゎゎ……。肉汁ジュワーです」
あぁ、幸せ……。
「旦那様! このお肉、すっごくジューシーです!」
って、あれ?
「旦那様、お肉こぼれてます!」
「お、おぅ……」
「それパンじゃないです。フキンです」
「そうだな」
え? 何で?
旦那様がポンコツになってしまった。
……原因は、あれ……か?
よし、試してみよう。
「もう、仕方がありませんね。カリウスったら、本当に困った人ですね」
くすくすと笑えば、ぎしりと旦那様の動きが止まる。
うん。ビンゴだ!
旦那様は、私の令嬢モードがお気に召さなかったのだ。
「旦那様、別の女性パターン習得しますか? 見本となる人がいればできます」
旦那様と接する時はアンネを、その他の人に向けてはカルナ先生をコピーしたつもりだったけど、旦那様の理想ではなかったらしい。
私の知ってる中で、素敵な人たちをコピーしたんだけどなぁ……。
うーん。この二人以外によく知ってる女の人ねぇ……。
……あっ!
「とりあえず、このタイプはいかがですこと? 私の義妹をコピーしましたわ。おーほほほほほ……げほっ……けほっ……」
立ち上がって高笑いをしたら、むせた。
知らなかった。高笑いは、肺活量が必要だ。
義妹タイプで行くなら、肺活量を鍛えないと。
「おい、大丈夫か? ほら、水飲め」
「すみ……けほっ………ません…………けほけほっ」
旦那様は背中をさすりながら、水の入ったグラスを手渡してくれる。
お、このタイプはいけるのか。
となると、肺活量問題を早急に解決しないと。
あとは再現性の向上もだ。
「優しいカリウスと結婚できて、コレッティーナは幸せですわぁ」
よし。ここで体をクネクネ……。
ん? クネクネ難しいな。
くっ……、高笑いだけでなくクネクネのクオリティも低いなんて……。
これじゃ、義妹タイプを完全再現できない!
仕方ない、一先ずクネクネは諦めてお目々パチパチだ。
たしかこう斜め下から見て……。
「って、えぇ!?」
すごい、変な顔してる。
これは、あれだ。食べた草が思ったよりも渋みが強かった時になる顔!!
「……旦那様。義妹もイマイチでしたか?」
「そう……だな。コレッティーナの額を弾きたくなるくらいには」
旦那様がデコピンのジェスチャーをする。
「やめてください!」
「まだしてないだろ」
そうだけど、旦那様のデコピン痛そうで嫌だ。
「アンネも駄目、義妹も駄目……。まさか、義母タイプがお好みですか⁉」
「んなわけあるか!」
「じゃあ、何で痛いことしようとするんです?」
「…………いつものコレッティーナと違って驚いただけだ」
え? 旦那様って、驚くとデコピンするの?
今度から、おでこに布巻かなきゃ。
「たぶんだが、コレッティーナが思ってることは違うからな」
「思ってることですか?」
「どうせ俺が驚くと額を弾く人間だと思ったんだろ」
「──っ! 旦那様、すごい! エスパーですね‼」
「エスパー? 何だそれは?」
旦那様が眉間にシワを寄せて怪訝な顔をする。
「すごい人のことです。で、何に驚いたんですか?」
「あー、そうだなぁ……。たった半日で言葉と礼儀作法を完璧にしていたら、普通に驚くだろ」
「そうですかねぇ?」
そもそも、見てない動きはできないし、高笑いも不十分だしなぁ。
というか、何か誤魔化した?
「頑張ったな」
「はい! で、令嬢モードはアンネ、義妹、義母の誰がいいですか?」
「……他の選択肢はないのか?」
他かぁ……。
礼儀作法を身に着けている知り合い、少ないんだよね。
「ラブラブモードにならなくていいなら、ミカナ先生もできます!」
「……そうか。アンネの真似で頼む。可愛かったし……」
「アンネが好みのタイプなんですね!」
「違う!」
「えー、じゃあ好みの見本ください」
旦那様は重いため息をはく。
「コレッティーナだから可愛いんだろ」
「……私、だから?」
「そうだ。コレッティーナだからだ」
「何と! 私、可愛いんですね!」
知らなかった。
私、可愛いのか。
たしかに、鏡で見る私は小柄で実年齢より幼くて……。ん?
「…………アンネ、私って可愛いです?」
「はい! とても愛らしく、この世で一番可愛いです!」
「……デザー」
「もちろんのこと、可愛らしいと思っております」
そうか。小さい子どもへ向ける可愛いと似たものか。
困った。
すごーく困った。
これじゃあ、いくら旦那様とラブラブアピールして、完璧な伯爵夫人を演じても、「こんなちんちくりん、カリウス様に相応しくないわ」って、言われちゃう。
初心な旦那様ハートの保護ができなくなる!




