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プロローグ 保護色って何色ですか?

 光が押し寄せる。

 濁流のような荒々しさを携えて、大地を飲み込み、木々を覆っていく。景色を染め上げる輝きは1人の男へ向かって突き進む。

 ぎらついた目をして細かな傷を全身に負った男であった。彼が瞬きするよりも速く光は到達し、その身体を包み込む。それは浴びたものの存在を変質させる力を持つ異能の白。速さで凌駕し、力で支配せんと襲いかかった。

 しかし、光は男に当たる瞬間に弾かれるように折れ曲がる。


「ハハハァ!」


 男は笑う。腹の底から思いを鳴らす。


「利かねぇよ。光はオレには届かねえっ!」


 叫びは光の来た方向へ飛ぶ。そこにいたのは緑がかった水色の髪を持つ少女であった。片膝を突きながらも、男と同様にぎらつき強く、そして喜色を孕んだ眼をしていた。


「───!」


 叫びに応えるように彼女も声を張り上げる。叫び慣れていないのかどこか掠れた声ではあったが、それは確かに辺りを震わせた。


「ああ、そうだ。お前の異能(アイズ)じゃ足りねえよ。だからここからは……」


 男は少女に向かって拳を突き出す。


「“色鮮やかに輝こうぜ”」


 光は七色に瞬き、周囲と男を照らした。






 メレズィム・プラオーンは幼い頃より周りに逆らわないで生きてきた。

 もっと正確に言うなら自分の意見よりも周囲に合わせることを優先した生き方をしてきた。

 同年代の子どもたちと遊んでいるときには危険だと感じつつも共に山奥に入っていってしまったり、兄が憧れの人を語っているときにはほとんど知らないのにウンウンと頷きながら迎合してしまったりと場の空気に流されて過ごしてきた。

 現在彼が魔法学園『トロナデオン』に通っているのもそうした性格によるところが大きい。

 アイズと呼ばれる異能を持つ者の多くが通っているから、それが理由であった。

 

 そんな彼の異能(アイズ)は『保護色』。

 身体の色を変えて周囲に溶け込む能力。


 自身にピッタリの能力だとメレズィムは感じた。周りを伺ってばかりの己の半生をコイツはよく見ていると笑いが零れた。

 彼自身、それまでも流されやすい性格である自覚は十分にあった。寧ろそんなことは彼が幼い頃より常に頭のどこかに薄らと思い浮かべていたことであり、忘れられないものであった。


 だからであろうか。彼がそんな自分を変えたいと思ったのは。

 しかし、いつの間にか生まれていた思いは、変わる先の形や情景もなく、必要性や理由もどこか曖昧であった。

 漠然とした願いをどう進めればよいのか、メレズィムには判然としなかった。

 無論、変化を望む中で何もしなかったわけではない。学び、鍛え、励み、努力はした。だが、明確な目的のない歩みが己を納得させられるはずもなかった。

 ぼやける視界の中で今のままが嫌なんだと、違うんだという声だけが聞こえ続ける日々。


 その中でさらに彼は考える。


(保護色って何色なんだ?)


 藻掻く日々の中で自らの異能(アイズ)と向き合っている内に零れ出た馬鹿げた疑問だった。

 そもそも保護色とは色そのものを表すものではない。環境に適応した体色やそれに変ずる体表面のことである。決して赤とか黒といった色彩のことではない。

 彼も保護色という異能(アイズ)を持つからこそ、そのことははっきりと理解していた。だが、力を使う中でとあることを意識するようになっていた。


(色とはそのものを示す要素の1つだ)


 晴れた空は青いし、豊かな森は緑色の葉を茂らせる。当たり前のことであり、わざわざ論じることでもない。だが、大切なことではある。

 周りに溶け込む上で、重要なことは周りを知ること。

 晴れた空に真っ赤な点が浮かんでいれば目立つに決まっており、豊かな森に真っ白な木が佇んでいれば注目せざるを得ない。

 周囲への正しい認識を伴って、初めて保護色は機能する。

 色はモノの外見を構成する大きな要素であり、本質の一面なのだ。


 その上で、彼は今の自分が何色なのか分からなくなった。


 他人の意見という色に簡単に塗りつぶされて、そのくせ1色に染まりきるというわけではない。混ざっていて、所々違い、変化する色。

 保護色としてその在り方は正しいのかもしれない。周囲の色に自らを変え続けて、見つからないように溶け込んで隠れるその生き様は。

 しかし、簡単に変化し続ける色が本質と言えるのか。“自らの変化”を求める彼にとってその疑問は決して見過ごせなかった。


 だって、本質(自分)を知っていなければ変わっても気付けないから。


 だからメレズィムは求めるのだ、保護色という色、自分という色を。

 彼は今、己の在り方()とその変え(染め)方を探している。




 そんなメレズィム・プラオーンはあるとき、1人の少女に出会う。

 周りの色を塗りつぶすほどの光と彼女自身の輝きをを前にして、彼は初めて“己の色を好きになった”。





 

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