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・ 忘れられてるけどうちのダンジョンにも投資してくれていいんですよ?

ここシバンニ公爵領のダンジョンといえば我が『金の輪ダンジョン』と言われていたのはつい最近までのこと。今では倍々ダンジョンがこれに並び称されて、シバンニ領の二大ダンジョンとなっている。


正直、おもしろくない。

いや分かっている、心が狭いだけだというのは分かっている。仲間である別ギルドが育つのもいいことだ。

でもやっぱりツートップよりトップのが気分がいいっていうか。まぁ心が狭いだけだ。


「マスター、34階層で行方不明者です。なんでも目の前で忽然と消えたとかで」


「そりゃあ、あれっぽいな。とりあえず捜索依頼だけな」


事務員が持ってきた捜索依頼書に、しゃしゃしゃっとギルドマスターの署名をする。

マスターになったばかりの頃はこの偉そうな署名をするのが楽しかったが、今では流れ作業だ。いかに簡略化された名前の書き方を開発するかが最近のがんばりどころ。


捜索依頼というものはギルドが出す。ギルドからの基礎報酬に加えて、行方不明者が預けているギルド保管金の中から1割から5割をそこに加えることができる。

死んでは保管金もなにもないからな!

あとでもめないように、ギルド加入時にはそのむねに了承する契約書を書くことになっている。

1割から5割と幅があるのは、金持ちの冒険者の場合は1割でも十分だけど、金がない冒険者の場合は5割は出さないと誰も探そうとしない値段だという世知辛(せちがら)い理由だ。


貯金を減らしたくない場合は、行方不明時に保険が出る冒険者保険というものもギルドにあって、そっちに掛け金かけてれば行方不明時にそこから引かれる。でもあんまりやる奴はいない。行方不明詐欺をして保険金せしめようっていう悪い奴対策のためにめんどくさい規約がいっぱいあるからだ。

だったら1割から5割持っていかれた方がめんどくさくなくていい。


行方不明報酬に金回せるほどの貯金すらない冒険者はギルド依頼金のみでの依頼になるが、あえて探してやろうっていう奴はまずいないな。人助けが趣味のヒマ人くらいのものだ。滅多にいないがたまにいるんだよこういういい奴。


金の輪ダンジョンは名前そのままの金目の素材がよく取れるダンジョンだ。1階から10階までの間に出てくる素材が、11階から20階では同じ順番でグレードアップしたものが出てくる。下層に行くに従ってグレードアップするそれをぐるぐる繰り返すんで金の輪ダンジョン。


引き出しから取り出したマスター用の特殊依頼を書いていると、またマスター室の扉が開かれた。


「マスター! また捜索依頼が!」


「……またか」


挑戦冒険者が多いんで攻略法もいろいろ出きっている感のある我がダンジョンだが、こうして非常事態は起きる。


「やっぱ宝石核が生まれたな」


書き途中だったものを急いで書き上げ。


「緊急依頼だ。上位者に声かけするよう受付に言え」


「了解しました!」


事務員に渡す。捜索依頼の方も手早く署名済みだ。


安定運営の我がダンジョン。でも倍々ダンジョンに投資した公爵令嬢さまにはこっちにも投資して欲しい。うちのダンジョン、金回りがいいから新人冒険者が多いんだが、低階層で満足しちまって向上心あるやつが少ない。


ギルド主導で訓練はつけたりするが、今ひとつ身が入らない様子。

ギルドとしてはそれでもまぁやってけてるしいいんだが、雰囲気が良くないんだよ。なーなーで済ませるやつが多くて、ストイックで向上心あふれる冒険者が居心地悪い目にあう。

なんかこう、闘技場でも作って向上心あるやつが居やすいようにしてくれねぇかなーとか思うんだよ。

やっぱ死線をくぐる冒険者のギルドがグダグダしてるってのは良くねーと思うんだ。


今回のような宝石核と呼ばれる特殊な魔物が発生したとき、うちのギルドに意欲ある上位冒険者がいなくて元上位冒険者のギルドマスターが、つまり俺が、直々にダンジョンへ行くことがけっこうあるのだ。ギルドに上位冒険者がいないということだからギルド的になんか悲しい。問題はないが、悲しいだろ、強いやついないギルドとか。


金になるダンジョンだから深層狙いで上位冒険者もくるはくるんだが、上位冒険者はどこでも稼げるからな。金には困っていないからもっと難しくてやりがいのある別ダンジョンに流れやすい。


「提案書だしとくか」


暫定(ざんてい)領主という特殊な公爵令嬢さまは頼まれるとがんばっちゃう性格だという噂だ。あの恋に恋する王子の婚約者も頼まれてがんばっちゃったし、西と東の国とのめんどい戦後交渉も頼まれてがんばっちゃったらしいし。頼んだらやってくれちゃうかもしれん。うむ。いい領主だな! 楽しみだ!


まぁそれはそれ、文面を熟考して公爵令嬢に失礼のないものを書くとして、まずは宝石核だ。

金の輪ダンジョンがなぜ金になるのかといえば、どの階層にも必ず宝石の山が落ちてくるからなのだ。落ちているとはどういうことかというと、各階層には宝石核と呼ばれるなんか太陽みたいなのがぷかぷか浮いてる。その名の通り宝石を全身にまとっている核である。

ぷかぷか各階層の空を漂いながら宝石を降らせている。


なぜそんなことをするのか意味はわかっていない。

とにかくこの宝石の核のぷかぷかが、たまにぱりーんと割れて消えることがある。

そうすると宝石核は消えるんで普通に宝石も減るが、問題はそこではなく、新たな核の誕生にある。


古い宝石核がぱりーんする少し前に新しい宝石核が生まれる。

この宝石核、なんと生き物を食う。

人間である必要はない。おそらくダンジョン内にいる魔物を食って育つのが本来なのだろう。

生まれたばかりの宝石核は、目をつけられたが最後、一瞬でその体を飲み込まれてしまう。救出するには、代わりの餌(魔物でいい)を大量に用意して宝石核にぶつけることだ。人間より魔物のが餌としていいらしい宝石核は、腹一杯を越えたっぽいころに人間の冒険者を吐き出して魔物を取り込む。


宝石核に食われてから救出までの時間的猶予(ゆうよ)は三日。

それを超えると吐き出されない。

ことは一刻を争う。さきほど出した捜索依頼も三日をすぎたなら用無しだ。確実に救出するなら出発は明日だろう。


宝石核に目をつけられても食われずに対処できるのは、野生的勘の働く上位冒険者と、ケタ違いの魔力量を持つ高魔力保持者だけだ。特に勘の働く冒険者の場合は、その階層に入っただけで「やばい。いる」とわかる。


「今は赤のがいたが、戻ってくっかなぁ」


赤い服が好きなリーダーが目立つ冒険者パーティ、通称とかはないが、みんなに赤いやつらと言われている。これが今この町にいる上位冒険者の全てだ。悲しいな!

深層の攻略の場合、ダンジョンに入ったら数日は入りっぱなし。赤のがダンジョンを出てくる前に期限を過ぎる可能性は高い。また俺が出動かなぁ……。


そうはならなかった。倍々ダンジョンにいた上位冒険者が立ち寄ったのはこの次の日のことだ。

倍々ダンジョン、活性化してよかったけどやっぱ悔しいな!




手紙を出してから3日。


「手紙を読みましたわ! 闘技場! いいですね! 面白いです! ぜひ作りましょう!」


さすが天下に名だたる悪女を一番に見抜いていじめた公爵令嬢。行動はや。

そのまま詳しい闘技場の構想を練り、協力者をあたってからまた細かいところを話そうと言って、風のように去っていった。うちの公爵令嬢さまフットワーク軽すぎじゃね。


3ヶ月後。町のちょっと寂れてた場所にトンテンカンテンと大工の音が響くようになった。

3ヶ月で着工するとか、展開が早すぎておっさんちょっと気持ちついていけてねーわ。会場の作りに関して大工の要望をほぼそのまま採用したため着工まで早くなったのだ。変にこだわらないからこその速さ。完成予想図は伝統的でフツーな感じのデザインだが逆に味があっていいのではとも思う。


噂を聞きつけた冒険者たちがやんややんやと盛り上がっている。


「賞金もでるってよ!」


「下の方だと賞品だけらしい」


「1年に1度だけデケェ大会を開くらしいぞ。賞金額が倍とかなんとか」


「あ! 俺10倍って聞いた!」


「え、5倍じゃねぇの?」


「普通に2倍くらいじゃねぇの? さすがに10倍はさー」


情報が錯綜(さくそう)しているがそれもまぁ楽しみの一つになるだろうから放置。おっさんは一緒にきゃっきゃする気分じゃねぇけどなんかワクワクはするな。ふっ、それ俺の提案なんだぜ? フフフ。


「ギルマスも楽しみにしてますよねー」


「しー、クール気取ってるんだから言わないのが優しさよ!」


「はは、りょーかい」


なんか職員がコソコソにやにや話しているが、あいつらもきっと楽しみなんだろう。ふっ、それ俺の功績なんだぜ。フフフ。



そして闘技場は建設され、開場式が行われた。


開場式には公爵令嬢だけでなく、なんと王太子殿下までご臨席(りんせき)なされた。

不仲で有名な両名の列席は、開場式参加者たちをざわめかせ、新聞記者を喜ばせ、次の日の新聞記事には開場式よりも殿下と公爵令嬢の同時ご臨席の方が大きく取り上げられていた。

俺も出てた、つーか関係者だから席も近かったが、なんか普通に仲良さげだったぞ。


あれで婚約破棄したのか?

破棄後に和解したんか? 和解できるんならはじめから婚約破棄しなきゃいいのに王子バカだなぁ。まぁ恋に溺れたら人間なんてそんなもんか。恋は人をバカにするのさ。なんつってな。ふふふん。


王子の新しい婚約者という令嬢も出席していたが

王子よりもそちらの令嬢と公爵令嬢のが仲よさそうだった。

王子、すでに尻に敷かれる未来が見えるぞ俺には!

同じ男としてあわれを誘うぜ…。


そんなあわれな王子様だが、完全に権威失墜したというわけではない。


次期宰相を決める争いで負けた官僚が、自棄を起こして自領に引きこもったことがある。

精神的にもろいからきっと宰相にはなれなかったんだろうなぁと俺なんかは思うが。それでも宰相候補になるくらいには優秀な奴をひきこもらせておくのはもったいないと思う。

同じように思ったらしい王太子殿下が説得して殿下の側近として召し上げたらしい。

殿下は完全傀儡の王になるんだろうと言われているが、この側近の助力を受けて発言力が高まっている。と上と関わりのあるギルドのお偉いさんが言っていた。


『王政の終わりが近いかと思ったが、そうもならなそうだなぁ』


とか言っていた。地味に王家の権威は残りそうである。国としてはその方が安定すると思うんでひっそり安心した。

王子と公爵令嬢の和解が派手に報じられるくらいには、まだまだ人々の関心は王家にあるしな。


闘技場の戦いはレベル分けされ、挑戦したレベルで優勝すると上のレベルへの挑戦が認められるが、ギルドランクに応じても上のレベルへの挑戦が認められる。

当然上のレベルほど賞品も豪華なんで、強い奴らが挑戦してくるはずである。観客たちも見てて面白いこと請け合いだ。

だが上位冒険者が賞品がっぽがっぽ取り放題になっちゃ困るんで、上位のやつらがダンジョンを潜るよりは稼ぎにならない賞品しかない。


それが基本だが、年に一度だけ行われる公爵杯とかいう大会では、ダンジョンでは得られないうえ

今までは貴族にしか許されていなかったものが賞品としてあがると発表されて、会場はワーッと一気に盛り上がりを見せた。


賞品は、転移魔法の埋め込まれた魔道具だ。


1日1回までだが、魔法の使えない冒険者でも使えるうえに、複数人での使用可能。

有事の際には公爵家で「誰を移送したか」を詮索可能な魔道具らしいが、有事でもなければ詮索しないとのことなのでまぁ大した問題ではないだろう。犯罪に使われちゃあ困るもんなぁ。なお分解、分析して魔法を調べようとすると壊れるらしい。


闘技場が開場されてから、我がギルドの雰囲気が変わった。

金のために金の輪ダンジョンに行くやつだけでなく、レベル上げのためにダンジョンに潜る奴が増えたのだ。

やはり目の前に賞品という名の見えるごちそうをぶら下げたほうがやる気出るんだなぁ。


闘技場での挑戦可能レベルはそのままギルドランクだが、有望な新人が低ランクのまま闘技場で優勝し、上の方まで駆け上っていったとかいう派手な話も出てくるようになった。

我がギルドは今日も今日とて話題に事欠かず大人気だ。ふふふふふ。


闘技場をさくっと作ってくれた公爵令嬢様には感謝しかないなぁ。


まぁ活気が出たせいで俺が忙しくなるのは想定外だったがな!

あ? そのくらい想定しておけだ?

しゃーねーだろ考えてなかったんだからよ。

ま、しかし毎度毎度、宝石核退治にかつぎ出されるよりはましだよ。

今はもちろん、核を倒しに行ってくれる上位冒険者がたくさんいるぜ。




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