表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BOOK ―神のゲーム―  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/13

第一話 神のゲーム



七月二日。


午前八時。


世界は変わった。


昨日まで当たり前だった日常は。


もう、二度と戻らない。


日本中の人々が理解した。


これは事故ではない。


災害でもない。


誰かによって用意された――


ゲームなのだと。


そして。


全ての始まりは、二十四時間前に遡る。


七月一日。


午前八時。


綾瀬陽翔は、いつも通り厨房に立っていた。


トントントントン。


包丁がまな板を叩く音が響く。


玉ねぎを刻み、大鍋ではスープが静かに煮えている。


忙しい朝。


慌ただしい仕込み。


それでも陽翔にとっては、いつもと変わらない一日の始まりだった。


「陽翔くん、予約席の仕込み終わった?」


「もう少しで終わります。」


「今日も混みそうだな。」


「ですね。」


スタッフたちが慌ただしく動き回る。


その時。


ピコン。


スマホが小さく震えた。


陽翔は手を止め、ポケットからスマホを取り出す。


画面には、妻の結衣から届いたメッセージ。


『おはよう!』


『今日の主役は朝からご機嫌です!』


一枚の写真が添えられていた。


保育園の前。


大きな「3」の風船を両手で抱え、満面の笑みを浮かべる娘・美月。


胸には、小さな誕生日バッジが付いている。


『パパに早く会いたいって何回も言ってるよ!』


思わず陽翔の口元が緩んだ。


「……かわいい。」


隣で仕込みをしていたスタッフが覗き込む。


「あっ、娘さんですか?」


「そう。」


「今日で三歳なんだ。」


「そうなんですね! おめでとうございます!」


「ありがとう!」


自然と笑みがこぼれる。


「今日は早く帰るんですか?」


「もちろん!」


陽翔は写真を見つめながら頷いた。


「約束したからな。」


「仕事帰りに誕生日プレゼントを取りに行って、家族みんなでお祝いするんだよね。」


「それが今日一番の予定。」


スタッフは笑う。


「店長、本当に娘さん大好きですね。」


「親バカじゃないですか。」


「うるさい。」


厨房に小さな笑い声が広がる。


陽翔はもう一度、美月の写真を見る。


この笑顔を守りたい。


妻の結衣と。


娘の美月と。


三人で過ごす、この何気ない毎日を。


それだけで十分だった。


だから。


この時の陽翔は、知る由もなかった。


数分後。


その当たり前の日常が、音を立てて崩れ去ることを。


その時だった。


ピコン。


陽翔のスマホが震える。


「ん?」


結衣からだと思い画面を開く。


だが。


そこに映っていたのは、メッセージではなかった。


白い仮面。


白いスーツ。


白い手袋。


異様なほど整った笑顔の男。


「……なんだこれ?」


陽翔が眉をひそめる。


周囲からもざわめきが聞こえた。


「俺のも同じだ。」


「テレビも映ってるぞ!」


「おい、パソコンも!」


全員が顔を上げる。


厨房のテレビ。


レジ横のモニター。


店内のパソコン。


そこには、同じ男が映っていた。


さらに。


窓の外に見える街頭ビジョン。


通行人が持つスマートフォン。


信号機のモニター。


日本中、あらゆる画面が一人の男へ切り替わっていた。


男はゆっくりと一礼する。


「おはようございます。」


その声は穏やかだった。


だが。


聞いた瞬間、背筋が冷える。


「私は神です。」


誰も笑わない。


誰も冗談だと言わない。


その男には、人間とは決定的に違う何かがあった。


神は微笑む。


「突然ですが。」


「皆さんには、これから私のゲームに参加していただきます。」


厨房が静まり返る。


「ゲーム……?」


誰かが小さく呟く。


神は楽しそうに続けた。


「安心してください。」


「とても簡単なゲームです。」


「勝者は生き残る。」


「敗者は消える。」


その一言で。


空気が凍りついた。


「……は?」


「何言ってんだ……。」


誰も理解できない。


神は構わず右手を上げる。


「まずは、皆さんへプレゼントです。」


パチン。


軽く指を鳴らした。


次の瞬間。


窓の外が真っ白に染まる。


「っ!」


全員が外を見る。


雲一つない青空。


そこから。


無数の光が降り始めた。


流星のように。


雨のように。


数え切れないほどの光が、日本中へ降り注ぐ。


「あれ……。」


「何か落ちてきてるぞ。」


誰かが呟く。


光が近づく。


その正体を見た全員が息を呑んだ。


本だった。


赤。


青。


白。


黒。


金。


色とりどりの本が、空から静かに舞い降りてくる。


神は一冊の黒い本を手に取る。


「その名は――」


「BOOK。」


「あなた方へ与えられる、新たな力の器です。」


画面が切り替わる。


一人の男が、落ちてきたBOOKへ手を置く。


神が告げる。


「BOOKを開く方法は一つ。」


「本へ手を置き。」


「こう唱えてください。」


映像の男が声を出す。


「BOOK OPEN。」


次の瞬間。


ドンッ!!


炎が吹き上がった。


画面の中の男の手には、赤い炎が宿っている。


周囲から驚きの声が漏れる。


神は続ける。


「BOOK OPENによって、あなたは契約者となります。」


「契約できるBOOKは一人一冊。」


「一度契約したBOOKを、他人へ渡すことはできません。」


映像が切り替わる。


別の人間が能力を使う。


雷。


水。


風。


人間では決して扱えない力。


それが現実に存在していた。


「能力……。」


陽翔は呟く。


信じられない。


だが。


目の前の映像は、現実だと証明していた。


神は満足そうに笑う。


「さて。」


「準備時間を差し上げます。」


画面に数字が表示される。


《残り24:00:00》


「ゲーム開始は。」


「七月二日。」


「午前八時。」


「それまでに、あなた方はBOOKを探し、力を手に入れてください。」


「詳しいルールは、ゲーム開始時に説明します。」


神は一礼する。


「それでは。」


「皆さん。」


「良いゲームを。」


プツッ。


映像が消えた。


静寂。


誰も言葉を発しなかった。


数秒後。


「……今の、本当なんですか?」


スタッフの一人が呟く。


「神って……。」


「BOOKって……。」


誰も答えられない。


陽翔も同じだった。


能力。


ゲーム。


そんなもの、簡単に信じられるはずがない。


「……。」


その時。


外から大きな声が聞こえた。


「BOOKだ!!」


「早く拾え!」


「俺のだ!」


陽翔は窓の外を見る。


街では、たくさんの人が走っていた。


さっきまで普通だった日常が、少しずつ崩れていく。


だが。


まだ心のどこかで思っていた。


(……本当に?)


(あんなものが、現実にあるのか?)


その瞬間。


「危ない!!」


外から悲鳴が響いた。


陽翔が顔を上げる。


道路の向こう。


一人の男が、別の男と向かい合っていた。


「ふざけんな!」


「そのBOOKは俺のだ!」


男が腕を振り上げる。


「BOOK OPEN」


次の瞬間。


炎が生まれた。


「っ……!」


陽翔の目が見開かれる。


赤い炎が、男の手から噴き出していた。


熱気が、遠く離れた店内まで伝わってくるようだった。


「嘘……だろ。」


誰かが呟く。


男は慌てて炎を消す。


周囲の人間は悲鳴を上げながら逃げていく。


それは神の映像ではなかった。


テレビでも。


演出でもない。


目の前で起きている現実だった。


陽翔はようやく理解した。


本当に。


この世界は変わってしまったのだと。


「……。」


スタッフたちも言葉を失う。


誰もが恐怖を感じていた。


その時。


陽翔はスマホを見る。


結衣。


美月。


二人の顔が浮かぶ。


「……帰らないと。」


小さく呟く。


「みんな。」


スタッフ全員が振り返る。


「今日はもう、店やめよう。」


「え?」


「俺も何が起きてるのか分からない。」


「でも……。」


陽翔は外を見る。


炎。


叫び声。


混乱する街。


「……帰らないと。」


小さく呟く。


陽翔はスタッフを見る。


「みんな。」


全員が振り返る。


「今日はもう店を閉めよう。」


「え?」


「俺も何が起きてるのか、まだ分からない。」


陽翔は外を見る。


さっきまで普通だった街。


今は、叫び声と混乱で溢れている。


「ここにいても危険だ。」


少し間を置く。


「一度、家に帰ろう。」


「それで……。」


「また連絡する。」


スタッフたちは顔を見合わせる。


そして。


「……分かりました。」


「店長も気を付けてください。」


「ああ。」


「家族のところ、早く行ってあげてください。」


その言葉に、陽翔は小さく頷いた。


スタッフたちは急いで店を出ていく。


扉が閉まる。


静かになった店内。


陽翔はスマホを取り出す。


結衣。


美月。


二人の名前を見る。


「……。」


すぐに電話をかける。


しかし。


『圏外』


画面に表示された文字。


「……え?」


もう一度かける。


結果は同じだった。


『圏外』


陽翔の表情が曇る。


さっきまで普通だったはずなのに。


電話すら繋がらない。


「結衣……。」


胸の奥に、不安が広がる。


美月は。


二人は無事なのか。


その時だった。


ドサッ。


何かが足元へ落ちる。


陽翔はゆっくり視線を下ろした。


黒い本。


何も書かれていない表紙。


ただ一つ。


中央にだけ。


銀色の目が描かれていた。


いや。


描かれているのではない。


ゆっくりと。


その目が開く。


「……っ。」


陽翔の背筋に冷たいものが走る。


目が。


こちらを見ている。


まるで。


最初から自分を待っていたかのように。


銀色の瞳が細くなる。


そして。


本が喋った。


『……やっとか。』


陽翔は息を呑む。


周囲を見る。


誰もいない。


この一冊をのぞいて。


「……お前が喋ったのか?」


陽翔が呟く。


黒いBOOKは小さく笑った。


『当然だ。』


『俺は、ただの本じゃない。』


沈黙。


陽翔は目の前の存在を見つめる。


怖い。


理解できない。


それでも。


視線を外すことができなかった。


黒いBOOKは静かに告げる。


『お前は……。』


一瞬。


声が揺れる。


『あいつに似ている。』


陽翔の表情が変わる。


「あいつ……?」


だが。


BOOKはそれ以上答えなかった。


『……繰り返すなよ。』


その言葉だけを残して。


銀色の瞳が閉じる。


世界が変わった。


そして。


綾瀬陽翔の運命も。


この一冊のBOOKと共に。


動き始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ