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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
城下町妖怪相撲編

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妖怪戦争……ただしご飯で①

「エイタ。今日の昼に油屋でカツ丼という料理が出されるのじゃな?」

「ああ。昨日の段階で仕込みはやれるだけやってきた。あとはその時次第だな」


 仕込みは出来たとはいえ、順調にいけばそれほど楽なことはない。しかし、ことはそう単純には進まないものである。何とかうまく回すことができればよいが。


「カツ丼だったか。昨日の天丼とやらもなかなか美味かったが、カツ丼とやらも楽しみじゃのう」


オウカの隣でハクオウさんがにやりと笑みを浮かべている。


これは絶対に失敗させるわけにはいかないな。

俺とヨウコはさっそく油屋へと向かうことにした。


***


「おはようございます!」


油屋へ到着した俺は、店の中へ声をかける。

すでに店には他の店主たちも集まっており、昨日教えた通り、準備はすでに完了しているようだ。


「おう、エイタさん、おはよう!」


そう言って手を上げて挨拶をしてくる油屋の店主のアブラヤさん。

さらに他の店主たちも挨拶してくる。


「そろそろ氷屋から冷凍されたカツを持ってきましょう」


 俺はアブラヤさんとヨウコを連れて氷屋へと向かうことにする。

 昨日は運んでもらっていたので、俺自身も氷屋の場所を把握しておきたいというのもある。


「すごいな……」


 到着して早々思わず声が漏れた。

 さすが城下町だ。サクラノ村より規模が大きいだけあって、設備も桁違いである。

 アブラヤさんはそのうちの一棟の扉を開け、中へ案内してくれた。

 中へ入ると、入口近くの保管場所には容器が何段にも積み重ねられている。

 そういえば昨日はこんなに作ったのか、凄い数だな。

 その光景に思わず息をのむ。

 今日の営業にかける店主たちの気合いが、そのまま形になっていた。

 俺は容器の一番上を掴み、そのまま外へ出る。アブラヤさんとヨウコも同じように容器を抱えている。


「戻ったらある程度揚げておきましょう」

「ん? 揚げちまうのかい? あまり早く揚げすぎると衣の食感が無くなるって料理本に書いてあったはずだぜ」


 すごいな、そんなことまで書いてくれていたのか。俺がヨウコに教えたことがそっくりそのまま書かれているようだ。


「だいじょうぶです。最終的にはめんつゆで煮るので衣は柔らかくなっても問題ないんですよ」

「あ、確かにそうだな!」


 アブラヤさんたちと一緒に店へ戻っている途中、通りのほうが急に騒がしくなってきた。

 何事かと俺たちは顔を見合わせ、そのまま妖怪だかりの方へ向かう。


「さあさあ、本日の朝刊だ。今日は相撲大会準決勝が始まるよ!」


 広報担当のイヌモテさんが、通りを行き交う人々へ元気よく朝刊を配っている。

 俺とアブラヤさんも掲示板の前へ行き、貼り出された記事に目を通した。

 そこには大きな文字で、こう書かれていた。


『今年の相撲大会1日目は、前回の上位者が1名だけという大波乱の展開

前回の横綱ハクオウ。サクラノ村出身の河童のミズゴロウ。同じくサクラノ村出身の赤鬼のキスケ。そして、今年初出場の横綱ハクオウの従者、両面宿儺のスクナヒコ。

誰もが予想できない展開となった今年の相撲大会。

いったい、誰が優勝するのだろうか!?』


 そう言った内容で張り出された朝刊。

 確かに今年の相撲大会、前回の上位者で残っているのはハクオウさんだけだ。


「あと、1時間で本日の準決勝の組み合わせが発表される! 組み合わせが分かったらすぐに掲示板に張り出そう」


 イヌモテさんは通りにいる俺たちに気が付いたようだ。

 彼はさらにもう一つの朝刊を取り出した。


「本日はもう一つお知らせだ! なんと今日の昼にこの相撲大会にぴったりの料理が販売されるぞ」


 そう言って掲示板に貼り出すと同時に、他の広報の職員たちが集まっていた妖怪たちに配り始めた。


「料理の名前はカツ丼! こいつは勝負ごとの前に食うと良いと言われている縁起物だ! そうだよなアブラヤさん!」


 イヌモテさんは俺たちに目線を向け指を指してきた。この人、いや、この妖怪、パフォーマンスが上手いな。さすが広報担当だ。


「へへん、おうよ! しかもよ、それだけじゃねえ。お前ら、この町に流行った料理本知ってるよな!」


 突如、俺の隣にいたアブラヤさんは声を張り上げる。イヌモテさんのノリをそのまま返すつもりだろうか。

 料理本の名前を聞いて通りの妖怪たちが顔を見合わせている。

 すでにサクラノ村からこの町へ運ばれた料理本は印刷所で増刷され、この町に広まっている。


「その料理本を作ったのがこの男だ! そして、カツ丼を作ったのもなぁ!!」


 突如俺を指さされ、アブラヤさんに紹介される。俺は照れくさそうに頭を掻きながら頭を下げる他なかった。

 俺の周りでは歓声が起こっている。


「俺知っているぞ! 昨日天ぷら屋でハクオウが美味そうに天丼食っていたんだ!」

「なるほど、あの天丼もあいつが作ったのか!?」

「これはカツ丼って料理も期待できそうだな!」


 そんな会話が周りから聞こえてくる。

 いや、どうすんだよこれ。こんだけ煽ったら大量に押し寄せてくるんじゃないか……。

 俺はそう思いながらアブラヤさんに視線を向けると……。


「まあ、なるようになるしかねえな、はっはっは!」


 マジかよ。この妖怪、何も考えずに客を呼び込んだってのか。

 その時一人の妖怪がイヌモテさんの所にかけてきて耳打ちしてきた。


「何!? それは本当か!?」

「ええ、予定よりも早いですが、先ほど運営の方で結果が……」


 イヌモテさんは他の広報の職員に指示を出すと、職員は広報の建物から1枚の紙を持ってくる。


「いま、運営から組み合わせについて発表があった!」


 そう言って持ってきた紙を受け取り、掲示板にペタリと貼り付けた。


「準決勝、一組目はハクオウ対ミズゴロウ。二組目はキスケ対スクナヒコだ!」


 その瞬間、広報の周りに集まっていた妖怪だかりが歓声をあげた。

 俺たちは近くにいたため、思わず身を竦めてしまう。


「最新情報の瓦版はこの後すぐに発行する予定だ。ぜひ来てくれよな」


 イヌモテさんは一旦その場を解散させた。すぐにでも相撲大会の組み合わせを印刷しなければならない。

 さて、俺たちも店に戻って開店の準備をしなければならないな。

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