最高の時間
すっかり夕暮れになり、チャイムが鳴ると私はすぐに教室を飛び出す。
別に好き好んでこんなに急いでるわけじゃない。
父親が放課後の時間に会社の経営をしろとか言ってくるからだ。
仕事や人材の管理は社員がやってくれるが、最終的な決定は私自身が決めなければならない。
だから提出された資料を確認して、過去の会社の資料と関連付けて包括的に判断しなければならない。
全く、いくら私に跡継ぎを望んでいるからといってこのハードスケジュールは無いんじゃないか、
最近頭皮が薄くなってきてるから八つ当たりをしているだけじゃないかと考えてしまう。
そんなことを考えていると少し違和感を感じた。
具体的なことは分からないが精神をすり減らすような鋭い視線を感じなかった。
本来なら嬉しいこの状況に緊張していた。
屋敷までの距離はあと1キロ、その間辺りは森の中。
いつも歩いている道がまるで知らないのように錯覚してしまう。
視線を感じる。
だがそれは今まで感じたことがない、まるで少しずつ首に手をかけられていく感覚。
それを感じて私は本能的に走り始める。
走る。
ただ何も考えず足を前に突き出す。
碌に呼吸もしないまま酸素が十分送られていない脳で思考を巡らす。
なぜ私なんだ。恨みを買うようなことはしてないはず・・・・まさか私が御曹司だからなのか?
だったら父親だろ普通。
なんで私なんだ。
そんな生産性のない思考をしていたら屋敷が見えてきた。
帰れる。私の家に
あんな嫌っていた場所に帰れることが嬉しくなっていた。
だんだんと緊張がほどけていこうとしていた。
え・・・・?
一瞬だった。
一瞬の間に私の人生はここで終わることが決定した。
あんなに嫌っていた日常を思い出す。
これが走馬灯なのか。
少しだけ名残惜しさをかんじる。
だが、それはすぐに消え去った。
そんなものよりも尊いものがみえているからだ。
私は頭を切り離された断面を見た。
それは完璧に切断されていて、まるで木のようだった。
よく思えば痛みすら感じていない。
痛みもなく、あんなに美しく私を殺してくれた人物をみた。
顔は隠されていて性別も分からない人物に向けて発声できない口が動く。
ありがとう。
声にならない口を動かした後に意識が切れた。
人生で最高の5秒間だった。




