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処刑寸前の悪役令嬢ですが、中身が不思議ちゃんオタクなので推しを幸せにすることにしました  作者: 花の香り


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4/5

夢の残像と、噛み合わない再会


朝。机の上にはポツンと、千円札が一枚。

――今日も、家に「おはよう」はなかった。


(お母さん、大丈夫かな……。ちゃんと寝れてるのかな)

 時計を見ると、心臓が跳ねた。やばい、遅刻する!

 急いで家を飛び出し、なんとかホームルーム前に教室へ滑り込む。

 学校は嫌いだ。甘いものも食べられないし、お菓子も禁止。

 何より、勉強も、友達作りも、グループでの話し合いも……私はいつも、みんなから少しずつ遅れてしまう。

 いつの間にか、私のあだ名は「不思議」になっていた。

 不思議なのは周りの方だ。勉強ができないだけでバカ扱い。先生に相談しても「サボってるんじゃないのか」と決めつけられる。

 話し方や態度が気に入らないという理由で、いじめられたこともある。

 前よりはマシになったけれど、やっぱり私は、何がダメなのか分からないまま。

 放課後、千円札を握りしめてスーパーへ行き、半額になったお弁当を買う。

 家に帰ると、玄関には靴があった。

「お母さん、帰ってきたの……? お母さーん!」

「うるさいなぁ! 何?」

「……ううん、なんでもない。レシートとお釣り、ここに置いておくね(ニコッ)」

 私は、自分でも驚くほど自然に「笑顔」を作った。

 温めたお弁当を、自分の部屋で一人で食べる。

 お母さんを怒らせるつもりなんてなかった。ただ、今日あったことを、誰かに話したかっただけ。

 でも、お母さんは疲れてるんだ。休ませてあげなきゃ。

 自分に言い聞かせて、スマホで大好きなアニメ『聖女の陰に隠れた月』を開く。

 

「フェリシアちゃん……!」

 画面の中で、冷たい運命に抗う彼女。その姿に、私はいつも勇気をもらっていた。

 なのに、物語は進むごとに彼女を追い詰めていく。

「フェリシアちゃん! 頑張って、フェリシアちゃん……!!」

 ――ガバッ、と体を起こした。

 ズキズキと頭が痛む。

「……夢?」

 辺りを見渡すと、そこは見たこともない部屋だった。保健室? それとも病院?

 どちらにせよ、あのアパートの私のベッドではない。

「お体は大丈夫ですか?」

 声のした方に顔を向けると、四十代くらいの男性が立っていた。お医者さんだろうか。

 体は痛くない。ちょっと大袈裟だなぁ、と思いながら答える。

「大丈夫です」

「……そうですか。では、お呼びするので少々お待ちください」

(お呼びする!? まさか、お母さんに連絡!?)

「待ってください!」

 慌てて呼び止めると、男性は不思議そうに立ち止まった。

「なんでしょうか?」

「あの、私、一人で帰れます! だから大丈夫です!」

「はい……?」

「いや、だから、本当に一人で帰れますから」

 男性の目が、だんだん困惑に染まっていく。

 ……この人、何を言ってるんだろう? 糖分が足りなくて、頭が回ってないのかな。飴ちゃんをあげたいけど、今は持ってないし。

 私が悩んでいると、男性は焦ったように言った。

「報告しないと、私が罰せられてしまいますので……! すみません!」

 彼は勢いよく部屋を飛び出していった。

 報告しないと罰せられる? そんなルール、初めて聞いた。無理を言って悪かったな、後で謝ろう。

 すると、すぐにドアが開いた。

 戻ってきた医師の後ろから、知らない男性が二人、入ってくる。

 一人は、透き通るような青い髪の男性。私と同い年くらいだろうか。

 もう一人は、眩しい金髪の少年。私より年下に見える。

 二人とも、アニメに出てくるような豪華な服装をしている。……貴族?

 今の学校では、こういう格好が流行ってるんだろうか。

 沈黙が流れる中、青い髪の人が口を開いた。

「フェリシア様。先日は……倒れるとは思っていなかった。無理をさせてすまなかった。申し訳ございません」

「……はい?」

「「え?」」「なんだ……?」

 私の返事に、そこにいる全員が固まった。

 ……え、今、この人なんて言った? フェリシア様?

「……あの、今、私のこと『フェリシア様』っておっしゃいましたか?」

「……そうだが?(困惑)」

 瞬間。

 頭の中に、これまでの記憶が濁流のように流れ込んできた。

 そうだ。

 私、アニメの世界に入れ替わって、牢獄から出されて、それで……。

「えええええええーーーーーー!?」

 私の絶叫が響き渡る。

 目の前の二人は、信じられないものを見るような目で、お互いにアイコンタクトを交わしていた――。

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