再会は思わぬ場所で
私はこれまで起こったことを整理したあと、次の日に備えてしっかり眠った。
翌朝。
いつも通り城門をくぐり、メイド服へ着替える。
洗濯場へ向かおうとした時だった。
「サユさん」
振り返ると、エミ先輩が立っていた。
「ごめんね。今日は別の仕事を頼まれてるの」
「別の仕事ですか?」
「メイド長からよ」
その言葉に嫌な予感がした。
事件のことを知っているのは今のところメイド長だけだ。
「リーゼ様のお部屋へ行ってもらうわ。洗濯物の回収と食事の配膳、その他雑務ね」
「……え?」
思わず固まる。
「驚くわよね。新人が王女殿下の担当区域へ行くなんて」
「そ、そうですよね……」
メイド長。
絶対わざとだ。
⸻
「でも専属の侍女さんとかいるんじゃ……?」
「いるわよ」
エミ先輩は頷いた。
「ただ誘拐事件以降、お嬢様が部屋に閉じこもっていてね。側妃様も周囲を遠ざけてるって噂だし、人手が足りないのかも」
なるほど。
それなら新人でも使うしかないのか。
「じゃあ案内するわ。ついてきて」
「はい!」
⸻
メイド棟を出て城の内部へ入る。
広い。
とにかく広い。
そして警備が多い。
騎士、護衛、見張り。
どこを見ても人がいる。
(これ……私のせいでもあるのよね)
リーゼ様の件を思い出し、少しだけ申し訳なくなった。
⸻
「着いたわ」
案内された先には、大きな扉。
その前には騎士と執事が立っていた。
執事がこちらを見る。
柔らかな笑みを浮かべ、軽く一礼した。
「初めまして。本日はありがとうございます。メイドから派遣された方ですね?」
「は、初めまして! サユと申します!」
挨拶を返す。
するとエミ先輩は満足そうに頷いた。
「じゃあ私は戻るわ。頑張ってね」
「はい!」
エミ先輩は去っていった。
⸻
「改めまして。私はリーゼ様付きのバトラー、ロイと申します」
「あっ……」
思い出した。
リーゼ様の近くによくいた人だ。
でも――
(若い)
もっとおじいちゃん執事を想像していた。
黒髪の好青年だった。
「サユさん?」
「すみません。思ったより若かったので」
「よく言われます」
よく言われるんだ。
⸻
「では早速ですが、こちらの洗濯物を洗濯場へお願いします」
「はい!」
「終わりましたら厨房へ向かってください。この札を見せれば大丈夫です」
リーゼ様の名前が刻まれた札を受け取る。
「朝食の時間が決まっていますので、お急ぎくださいね」
「分かりました!」
⸻
洗濯物を抱える。
高級なドレス。
上質な布。
キラキラしている。
私が今まで扱っていた洗濯物とは別世界だった。
そして。
「あっ」
見覚えのある小さな服を発見する。
犬用だった。
(あの時の犬だ!)
私のご飯を食べた犬。
まさかこんな高級服を着ていたなんて。
格差社会を感じた。
⸻
何往復もして洗濯物を運び終える。
さて厨房へ――
と思ったところで。
私は重大な問題に気付いた。
(厨房どこ?)
聞いてない。
広すぎる。
迷子確定である。
⸻
仕方なく近くの騎士へ声をかけた。
「あの!すみません!」
反応なし。
「厨房はどちらですか!?」
反応なし。
「急いでるんです!」
反応なし。
(なんで!?)
怖い。
無視されている。
私が何かしたのだろうか。
⸻
その時。
後ろから声がした。
「そこのメイド。何をしている」
振り返る。
そして固まった。
ベネディクト様。
ディラン様。
そして数人の使用人たち。
会いたくなかった二人がそこにいた。
⸻
「厨房の場所を聞いていただけです」
私は堂々と答えた。
悪いことはしていない。
すると――
「……あははっ」
ベネディクト様が突然笑い出した。
「……は?」
隣のディラン様は呆れたようにこちらを見ている。
「何がおかしいのですか?」
「すまない。不思議すぎてな」
ベネディクト様は笑いを堪えながら言った。
「そこにいる騎士は置物だ」
「え?」
私は改めて騎士を見る。
動かない。
喋らない。
表情もない。
……確かに。
よく見ると鎧だけだった。
⸻
(終わった)
恥ずかしい。
死にたい。
穴があったら入りたい。
⸻
「何か企んでいるのだろう、兄さん」
ディラン様が冷たく言う。
「構う必要はない」
「そう言うな」
ベネディクト様は肩をすくめた。
「困っているのは事実だ」
そして後ろへ振り返る。
「ユリウス」
「はい」
「厨房まで案内してやってくれ」
「かしこまりました」
⸻
結果的にユリウスさんが案内してくれることになった。
「では参りましょう」
「ありがとうございます!」
私は慌てて頭を下げる。
そして振り返った。
「あの!」
二人がこちらを見る。
「わざとじゃないですからね!」
沈黙。
「あと恥ずかしいので他の人には言わないでください!」
さらに沈黙。
「ありがとうございました!」
そう言い残し、私は逃げるように去った。
⸻
後ろでベネディクト様が小さく笑っていたことを、
私は知らなかった。




