裏設定まで読み込んだ推しアニメの最終回
ただいま。
今日も疲れたぁ……。
独り暮らしのアパートに帰るなり、私はコートとバッグを床に投げ出した。
真っ先にやることは、コンビニ袋から大好きな飴玉を取り出して口に放り込むこと。そして、テレビの電源をポチッと入れる。
これが私のルーティン。
甘いお菓子を食べながら、大好きな作品に没頭する。これがないと、明日も頑張るなんて無理です。
「あ、今日は最終回だった……」
画面に映し出されたのは、今期一番話題のタイトル。
――『聖女の陰に隠れた月』。
最初は、よくある「悪役令嬢と聖女」のお話だと思って見始めた。
でも、これが驚くほどの地獄設定だったのだ。
気になりすぎて原作小説を全巻読破したけれど、結末は救いようのないバッドエンド。
思わず「原作者さん、悪役すぎませんかぁ!?」と叫んでしまったほどだ。
第1王子は氷のように冷たく、婚約者に心ない言葉を浴びせる。
第2王子は兄の婚約者を甘い言葉で誘惑し、スパイとして利用する。
聖女は、婚約者がいる王子に無邪気なふりをして愛を振りまく。
そして悪役令嬢のフェリシアちゃんは、その渦中で孤独に悪に染まっていく。
極めつけは、ファン向けに限定発売された『裏設定資料集』だ。
それを読んで、私はさらに号泣した。
(みんな、本当は愛し合っていたのに。言葉が足りないだけで、どうしてこんなにすれ違っちゃうんですか……!)
原作者いわく、「一度読み終わってから、裏設定を読んで、もう一度読み直してほしい」とのこと。
読み返せば、すべての冷たい態度は、不器用すぎる「愛」ゆえの行動だとわかる。
けれど、作中のキャラクターは誰もそれに気づかないまま、終わりへと向かっていくのだ。
私はSNSを開き、視聴者の投稿をチェックした。
『このアニメ、恋愛が進まなくてイライラしてたけど、最終回どうなるの?』
『原作勢だけど、心の準備ができてない。きつい』
『みんな裏設定読んでくれ。全員が被害者なんだよ……』
ファンの叫びを眺めているうちに、放送が始まった。
開始早々、画面は重苦しい雨が降る処刑場。
聖女への暗殺未遂という冤罪。
愛した第2王子ディラン様からの、冷酷な「知らない女だ」という切り捨て。
そして地下牢に現れた、第1王子ベネディクト様の、あまりに悲しい瞳。
「うう、辛すぎます……。お願い、みんな打ち明けて! 本当の気持ちを言ってぇ……!」
けれど、アニメは無情にも原作通りに進んでいく。
フェリシアちゃんは、誰にも愛されていないと絶望したまま、処刑を待たずに自ら命を絶つ道を選ぼうとしていた。
私はお菓子を食べる手も止めて、テレビにかじりついた。
「フェリシアちゃん……っ。最後まで周りのことを考えて一人で抱えちゃうなんて。もう悲しすぎます。私がフェリシアちゃんだったら、絶対にみんなをお説教して、幸せにしてあげるのにぃ!」
テレビの中の彼女に向けて、本気で叫んだ。
フェリシアちゃんのために、私が生きてあげたい。
その瞬間だった。
――ピカァッ!!
「えっ、何!? 目が、目がぁ! 眩しいじゃないですかぁー!」
テレビの画面から、視界を焼き尽くすほどの白い光が溢れ出す。
叫び声は、激しい耳鳴りに飲み込まれていった。




