その9
薬屋を後にした唯子は診療所を訪ね、無事鎮痛剤を処方してもらった。
さっそく服用し、村のベンチに腰掛ける。痛みが少し治まるまで休もう……。
(それにしてもルーファスの意外な一面を知ってしまった。経血の臭いに興奮するとか……ちょっとヤバい性癖だなぁ)
今後、生理中に彼を訪ねるのはよそう。
しばらく経つと、大分痛みが引いてきた。痛み止めの効果は抜群で、処方してくれたマイル医師には感謝してもしきれない。ありがたや……。
そろそろ帰ろうか、と立ちあがり歩き出そうとした瞬間、「唯子!」と声をかけられた。
「エミリー!」
「唯子っ、どうしたのベンチなんかに座って。体調でも悪いの?」
「うん、生理痛がきつくて……」
「それは辛いわね!温めなきゃだわ」
「ありがとう……」
今日も今日とて元気なエミリー。心配げに顔を歪めて、腰をさすってくれる。なんて優しい子なんだ。
「痛み止めとか持ってる?」
「うん、さっきマイルさんに貰いに行ったよー」
「あぁ良かった!マイルさんの所に貰いに行ったのね!」
「そうだけど……なんで?」
ふとエミリーは周囲を見渡し、唯子に耳打ちをする。
「ルーファスって、ちょっと血の臭いに敏感なのよ。もし唯子が彼の所に行ってしまっていたら、変なことを言われていたかもしれないわ」
「…………ハハハ」
実はもう言われた、なんて言えず、何とも言えない顔で笑う。
エミリーは唯子の腰をさすり、話を続ける。
「けどね、ルーファスあれでまともな方なのよ」
「えっ、それはどういう―――」
「唯子、最近カミルの家を訪ねているそうね。今すぐやめておきなさい。彼は、なんだか関わってはいけない人だと思うの。なんだか分からないけど、ざわざわするのよ……。ねぇ、唯子。お願いだから彼に近づかないで……」
エミリーは抑えた声で唯子に告げる。心底心配しているような表情で、手は少し震えていた。
どういうことだろう。カミルが、関わってはいけない人?
普段唯子と接する彼は、おっとりしていて物腰柔らかで……。エミリーの言っている意味が分からない。
「ごめんなさいエミリー、ちょっと意味がわからない―――」
「もう行くわ、唯子。お大事に。お腹を冷やしてはダメよ」
深く聞こうとした途端、エミリーはにっこり笑い、これ以上言及させまいと去っていった。
唯子はぽつんと取り残される。
(どういうことだったんだろう……)
エミリーはとてもいい子だ。でたらめな事を言うような子じゃない。
彼女の言いたいことはさっぱり分からなかったが、唯子は今後カミルには近づかないと決めている。結果的に大丈夫だろう。
見知らぬ男に身体を好き勝手されていると昨日知った。自分はいつの間にか穢されていた。どこかで、感じてしまっている自分もいた。もしカミルに知られてしまったら。嫌われてしまったら。
考えるだけで胸を締め付けられるような感覚が襲う。
(カミル……カミルに会いたい。一度でいいから「好き」と言われたい。けどもし、もし嫌われてしまったら……)
果たして、衝動的に彼を殺してしまわないだろうか。
彼の全てが愛おしい。唯子を嫌い、拒絶する彼を見たくない。
(こうなってしまった以上、もうカミルに会いに行く資格はない。遠くから、彼の幸せを祈ることにしよう)
カミルへの恋心を自覚してから数週間、一日たりとも欠かさなかった貢物を、今日はやめた。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。次話からはムーンライトノベルズ様に移行します。よければ御付き合いいただけましたら幸いです!
こちらから、R-18版に飛ぶことができます。【https://novel18.syosetu.com/n4819gg/】