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ようこそ我が電脳叛逆(サイバーパンク)へ  作者: カツ丼王
第二章 侵入(クラック)
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15. 電脳精霊

 皇家での一悶着の後、蓮は重い足取りで家路についた。PDAに常駐しているセツナは何か気の利いたことを言おうとするも、蓮は一言二言返事するだけだった。


 日はとうの昔に沈み、先に帰宅していた美冬は食事を済ませて自室にいるようである。


 蓮は食事を摂ることもなく部屋のデスクに身体を預けた。


『随分と元気がないの。それ程さっきのやり取りは応えたのか?」


 セツナの言葉に蓮は答えなかった。しばらくじっと考え込んでいると、急に引き出しから一つのファイルを取り出した。


 ARからその中身を覗き込んだセツナは、彼が意気消沈した理由を悟った。


『お主……あの男の事を尊敬しとったのか』


 ファイルに綴じられていたのは行政長官――つまり皇宗助について取り上げられた新聞記事やニュースの切れ端だった。紙媒体に印刷されたそれは年季が感じられ、何度も読み返したのか紙面の端々が欠けたり日焼けの後が随所に見られた。


 蓮は平和主義を掲げる宗助のことを密かに尊敬していたのだ。


「自分が思い描いた人物ではないかもしれない、それは分っていたつもりだ。でもショックじゃないって言えば嘘かもしれない」


 勝手な思い込みで自分に都合の良いように解釈していただけだった。


 人のことをとやかく言えるような立場ではないが、それでも一人の少年である蓮にはやはり厳しい仕打ちだった。


「でもこれで気兼ねなくやれるよ。あの人を相手にすることは分かっていたんだから、大したことじゃない。俺も仕掛ける腹積もりだったわけだし、お互い様だ」


 件の被疑者死亡が漏洩したというのは蓮の手によるものだった。時限式で情報がマスコミ各社と電脳空間サイバースペース上に流れるよう手配していたのである。


 行政長官がどのような反応を示すか、隠ぺいに関与していたのか判断するために。


 そして蓮の目論んだ通り宗助はこの件を把握していたことが分かった。


『お主の想定通りだったが、やはり浮かない顔だな』


 いつの間にか人型機械アンドロイドへと乗り移ったセツナは、蓮の肩に手を置いた。


『そんなに凹むな。安心しろ、お主には儂が付いておる。これほど美人で有能な相棒が居るというのは心強いじゃろ?』

「……大言壮語もそこまですると、頼りがいがあるように思えてくるな」


 セツナの軽口に蓮は小さく微笑んだ。彼女の言う通り、この程度の事で滅入っている様では先が思いやられる。気をしっかり持たなければならない。


「美冬も受験勉強を頑張っているんだ。俺も負けていられないな」

『出た出た、このシスコンめ! お主から見て、その妹はそれほど素晴らしい娘なのか? お主の口からご高説願おうではないか』


 やれやれといった態度でセツナは迫る。


 蓮は気まずそうに頭を掻き、ゆっくりと美冬について話し始めた。


「今はあんな風にツンツンしてるけど、昔は体が弱くて面倒をみることが多かったんだ。物心ついてから一番一緒に居たのは妹だと思う」

『ほう、仲が良かったんじゃな。それでシスコンになったと』

「シスコンから少し離れろ。まあでもどこへ行くにも一緒で正直手が掛かった。……でもたった一人の妹で、俺はアイツのたった一人の兄だから、それは当然のことだと思う」


 蓮は懐かしむようにそう語る。昔は将来はお兄ちゃんのお嫁さんになると言っていた美冬だが、身体が強くなるにつれてクールな気風を持つようになった。今では早く彼女を連れて来い、と上から目線で言う始末である。


「あとは普段の様子を見てれば分かるだろ? 我が妹は今や飛ぶ鳥も落とす勢いを持ち合わせているよ」


 蓮はいい加減話すのが恥ずかしくなったのか、急に話を締めくくった。


 その様を眺めていたセツナは心底楽しそうなな表情を浮かべる。


『ハハハ、仕方ないだろう。妹は兄を振り回してなんぼじゃ。お主の妹はその点をしっかり把握しているようで安心したわ』

「何だそりゃ。まるで知ったような口振りだな」

『そりゃ儂は長いこと電脳空間サイバースペースを流れておったからのう。知らない事なんてほとんどないわ」


 嘘つけ、だったら何でサイバー技術にそんなに疎いんだ。蓮はセツナの馬鹿丸出しの発言に心の中でツッコんだ。本当に不思議な電脳精霊サイバーナビだ、と再確認する。


「なあ、お前……どうして俺の所に来たんだ? 一体どこで生まれ、どこから来たんだ?」


 蓮は未だに知り得ないセツナの正体について言及する。


『そうじゃのう、お前に会うまでは夢を見ていた気がする』

「夢を見ていたって、まるで人間かよ。恐ろしい力を秘めたプログラムを山ほど持ってるし、摩訶不思議な……時間が遅く感じる力も持ってるし。本当に何者なんだよ?」

『ん? 時間が遅く……というのは分からんが、まあ精霊みたいなもんだと思えば良いだろう。お主を見守る美人で頼れる相棒じゃ!』

「何だよそりゃ? ……もういい、もう寝る」


 いつもの茶化すような態度ではぐらかされた蓮はベッドへと潜り込んだ。


 今更彼女が何者であろう気にするつもりはないし、力を貸してくれるなら問題ない。ただの興味本位。話したくないのならそれで良い。


 そう結論した蓮はもう一度セツナの方を振り返る。


『何じゃ? 添い寝して欲しいのか?』

「要らんわ!」


 からかうセツナに反発した蓮は、頭まですっぽりと布団を被った。


 今日は特に疲れた。じっとしていると瞼が重くなるのが分かる。


 明日もまたこの過酷な世界で頑張れるよう、少しでも幸せな夢を見たいと思った。

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