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20着目

「うっかり喋りすぎた」


 あ、やっぱりそうなんですね。


「そして……ずいぶん遅い時間になってしまったな」

「え?」


 言われてふと気がつくと辺りは真っ暗になっていた。

 天窓から入っていたはずの光はとうに消えて、いつの間にか私と彼女の間に置かれていた照明の灯りだけになっている。もしかして魔力の生成に集中している間に彼女が用意したんだろうか。一応猟師の弟子として、人やなんかの気配にはかなり敏感なつもりだったんだけど、目の前にいたはずの彼女がそんな準備をしていたにもかかわらず気づかないなんてことはあるのだろうか……まあ私、気配ではヒューマンとリザードマンの区別もつかないしそんなものかしらね。

 そろそろこの場を辞するとして、それにしてもこの時間で宿が取れるかしら。


「この時期は結構辛くてね。そろそろ夕飯にして身を休めようと思うんだが……」

「ああ、はい。じゃあそろそろ失礼します」

「うん、脱線してばかりですまなかったと思うが、一応必要なことは話したと思う。ただね」

「ただ?」


 ええと、私はちゃんと飲み食いして元気でいられるようにする。毎晩彼女に魔力を送る。彼女が腹を空かせて鳴らすようなことがあれば食べ物を食べさせる。魔力を送る以外にも無理やり口に入れられそうなものがあれば……例えば蜜とか果物の汁とかがあれば多分食べさせたほうがいいんだろうな。

 たしかこの人の弟子は薬を水で流し込まれてて、お腹がなったら蜂蜜を舐めさせられたんだっけ。そっか、ホーマンディーさんの馬車での印象のせいで蜂蜜って完全に蜜だけのものを想像してたけど、普通は蜂の巣のかけらが出てくるものね。ちゃんと口が動くんじゃなきゃ食べさせられないか。

 たぶん、これで必要なことは全部かな。


「一応多少だが薬草とかの知識を身につけて欲しいんだ。一週間ほどなら、君も構わないだろう?」

「どういうことですか?」

「私も薬師としての誇りがあるからね。一度診察した以上、ある程度の責任を持ってことに当たりたいんだよ」

「……?」

「ううん。つまりね、症状だけ見て病状を当てられるというのは患者の幻想に過ぎないんだよ」

「???」


 薬師に薬を貰えば病気って治るんじゃ無いんでしょうか。


「要点だけ言うとだね。私は確かに彼女の治療法を教えたけど、それが絶対に有効だとは断言できないんだ」

「……え、いままでの話全部無駄ですか?」

「まさか。そうじゃない。これでも今回の診断結果には間違いが無いとは思っている。だけど、これからどうなるかがわからないんだ」


 これからどうなるか……とは?

 病気が治った後の話をしてるわけでは無いんだよね、この感じだと。だとすると……


「病気って二つも三つも一度にかかるものなんですか?」

「そうだよ? 怪我のせいで病気にかかったりするだろう」

「怪我と病気と毒って別じゃ無いんですか?」

「そこで毒を持ち出すあたり結構考え出したようだね。怪我はともかく、毒と病気は同じようなものだよ。そして獣と同じように弱っている人間をことさら襲う性質がある」

「病気とか毒に意思があるってこと……じゃないですよね」

「うん、違う。だがそういう話も含めていろいろ話をしたいんだ。一週間ほどこの辺りに留まってくれ」


 うーん……言ってるこちはなんとなくわかった。わかったんだけど、それはなかなか難しい。何が難しいって、とても単純に金銭的な問題があって辛い。一週間も宿をとったら、最初に出した薬草程度じゃ全然お金が足りないと思う。


「ちなみに宿と食事なら私が提供しよう」

「一週間だけ弟子になれってことですか」

「そういう認識で構わないよ」

「それじゃあお願いします。これから宿で部屋を取れるのかが一番の悩みの種でしたし」

「……それはそれは、しっかりしてるという認識でいいんだろうかな」

「さあ? ともあれよろしくお願いします」

「はいはい。こちらこそよろしくね。あと今後は基本的に頭巾をかぶったままにするから」

「それでも質問には答えてくれるんでしょう?」

「うん」

「なら問題無いです」


 よし、一晩分の食費と床代が浮いた! これはありがたいなぁ。薬草の知識も、正直なところとても嬉しい。ある程度は猟師さんのところで習ってはいたけれど、詳しい知識というのはあるに越したことは無い。

 それにこの人は魔法について詳しく無い教えることはできないとは言うけれど、それでも私の知らないことをたくさん知っている。もちろんそれで、独自に魔法開発したりできるようになったりするとは思ってない。だけど私が魔法使いになるために必要としている知識は必ずしも魔法に関するそれだけじゃ無い。その中の一つには確かに『薬草』と言ってもいいようなものの知識も存在している。

 所詮村を出たばかりの猟師の弟子紛い。他のことに人生を捧げることはできなくても、知識を取り込む機会を逃す手は無い。


「おーい、おいで」


 Snapパン! Snapパン! リザードマンの女性が再び手を叩くと、さっきの弟子の少年と少女が連れ立って出てきた。弟子の少年の左手には少女の手が、右手には何かのお盆のようなものがある。お盆の上には小さな壷状の鍋らしきものと、パンのようなものが幾つか。それと何か細い管と三角形の物が載っていた。


「早速だが夕飯にしようか」

いつも読んでくださってありがとうございます。

ちなみに、三角形の物とは漏斗です。普通の村人はあまり関わらない道具なので漏斗という名前は知らなかったりします。

ちなみに薬草から薬なんかを作るときは注ぎ口のついたボール状のお皿を使っています。

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