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19着目

「まず前提となるのは、君が十分な健康状態を保っていることだ」

「健康状態ですか?」

「あ、いや、すまない。良好な健康状態を保っていることだ」

「はあ」


 どう違ったんでしょうか。


「なぜかはわかるかな?」

「ええと魔力を作るのに体力やなんかを消耗するからですよね」

「うん。まあ正確なところはわかっていないんだけど、ヒューマンが魔力を生成しすぎると体力や抵抗力の低下、無気力化などの症状がみられて、ひどい時は気絶したり衰弱死してしまうらしい」

「……」


 それは教えてもらってなかったな。結構重要なことだと思うんだけど……知らなかったのかあえて教えなかったのか。魔力を生成してる最中に何となく嫌な感じがしたりして途中でやめたりしたことはあったけど、もしかしたらそれは自分で何となくその危険を感じ取ったからこそだったのかもしれない。

 まあ、死んでないんだから問題無いわよね。今後はもう少し慎重に魔力の生成をしましょう。


「もちろん死んでしまうのは論外だが、君が多少衰弱したりあるいは無気力化などの症状が出れば、一緒に過ごす彼女も精神的な安定を取り戻すことはできないだろう。それではただ死の運命の引き伸ばしにしかならない」

「その引き伸ばしの先に生があるのでは無いの?」

「いいや。死を克服するための戦いと、死の運命を引き延ばすことはまったく違う。運命を変えることは一人でできることでは無いぞ」

「正直よくわからないですけど、わかりました。自分の身を守ることに異論は無いですし」

「君、魔法使いを目指すならもう少し物事の道理とかに興味を持った方がいいよ」

「……道理ってどういう意味の言葉ですか?」

「え……感覚で使ってるから説明しろって言われるとちょっと……」

「そうですか」


 この人、学がある人なんだろうか? 無い人なんだろうか? 私は当然学が無い人間なわけだけど、魔法を使えるようになる頃にはもうちょっと……せめて自分の使う言葉の意味くらいは説明できる人間になってるといいなぁ。いやでも、それだと自分で勉強しなきゃいけないってことか。それまでにの目標は『ちゃんとどんな文字でも読めるようになっておく』くらいにしておこう。できれば書けるようにも。基礎はできてるはずだから、練習さえ続ければ何とかなる範囲のはずだし。

 ……もしかしてこの考え方が『道理に興味を持つべき』って言われる理由なのかしら。別に勉強する気はあるのよ? 仕方がわからないし、無理めな目標を立てても意味が無いかなーって思ってるだけで。目標にはしたいと思ってるんだから問題無いわよね。


「まあ、その、あれよ。それこそ私が魔法使いじゃ無い所以というか」

「……魔力がなかったからなのでは? というか、薬師って仕事の種類としては魔法使いに近いところがあると思うんですけど」

「いいや、その認識は間違っている。こういった仕事には大抵の場合二つの道があるんだ、知識を守り伝える道と、新たなものを切り開く道、伝承者と開拓者の二つだね。この場合私は伝承者にあたるわけで、大概の種族の魔法使いも本質的には伝承者だと言っていい。だけどヒューマンの魔法使いは違う。彼らは開拓者以外存在しない。なぜなら彼らの魔法は元来、他人種の魔法を模倣するところから始まっているからなんだ」


 そうだったのか。エルフやドワーフの魔法って、ヒューマンの魔力で模倣できたのか。魔法の話題に少し気分が高揚して、思わず背筋を伸ばして居住まいを正してしまう。本人は魔法を使えない、知らない、教えられられないとは言っていたけど、こんな知識でも私には貴重だ。どこかに魔法を学ぶための手がかりが紛れているかもしれない。


「もちろん模倣と言っても、同じことができるわけじゃ無いぞ。この歴史はいずれ君自身が学ぶべきだとは思うが……概要だけ教えよう。さっき教えた治癒や、ハーフを作れること、それ自体が元来ヒューマンの魔法とされていたんだ。それが今のような多様性を持ったのは、前時代にダークワン達が自分の魔法の継承者を求め、それにヒューマンを選んだからだ」

「ダークワン……魔人種でしたっけ」

「うん。一番身近なところでは魔王がそうだったと言われているね」


 ダークワン。魔人種。魔法で構成される人種。魔法によって個を成す人種。かえがたきもの。あとはたしか……深淵在佳 しんえんざいかとかいうのもあったかしら。世界に存在した8人種のうちの一つ。今の世界では目撃例はなかったはず。このリザードマンさんの例があるから居るのかもしれないけど、そうだとしても魔王の存在のせいで出るに出られないのかもしれない。

 もっとも、魔王がダークワンだということを認識してる人間がどれだけいるのかも怪しいけど。私も今初めて聞いたくらいだし。


「他の人種のものと違って彼らの魔法は完全なる個人の個性。他の仲間に教えることもできず、遺伝すらしない。だけど彼ら自身と言う『個』を強烈に主張するそれを、どうにか世界に遺したいと思った一部のダークワンがヒューマンの『欠陥を補う魔力』に注目し、存在しない器官を魔力によって再現することで彼らの魔法を再現する機構 システムを完成させた。それが今君たちヒューマンが扱う魔法の原型だ」

「……つまり?」

「単に文字を読んだり絵で見たりした知識にそった行動をしても、魔法を使えるようにはならないということだ。確かに基礎とも呼べる魔法の根っこのようなものはあるけれど、結局自分にふさわしい魔法の使い方は自分で作り出さなきゃいけないということさ」


 相変わらずよく喋る人だ。伝承者というのは嘘なんじゃ無いだろうか……とにかく、今のままじゃだけなんだということだけ認識しておこう……ところで概要どころか結構詳しく教えてもらった気がするんですけど、もしかしてまた調子に乗ってしゃべりすぎたってことなのかしら。

いつも読んでくださってありがとうございます。

しつこいようですが、主人公は魔法使いを目指してる割に脳筋よりです。

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