プロローグ1 『 』
猛吹雪の中を二人で進む。滴る血がまっさらな雪の上に続く。
その血痕も二人の足跡も降り積もる雪によって消される。
激しさを増していた傷口の痛みの感覚は弱くなる。頭がぼんやりとして、思考はどんどんと鈍くなっていく。
ーーーもう長くないのだろう
故郷の厳しかった冬を思い出す。
暖炉の火に手を当てて、かじかむ手を温めていたものだった。母がそんな日につくるのは、自慢のシチューだった。
ーーーああ、おいしかったな
寒さに震える右手を強く握りしめるが、力はあまり入らなかった。
まだやらなければならないことがたくさんあるのに。災厄を回避できる可能性を少しでも上げられるのなら、やらなければならないのに。
足取りは一歩進むごとに重くなり、遅くなる。足先の感覚は消えている。
に肩を支えてもらっているが、体が限界を迎えているのを感じる。
過去改変という世界の理に対し禁忌を侵した俺の運命なのだろうか。
もう十二分に頑張ってきたじゃないか。
ここまで生きられただけでも幸せなことじゃないだろうか。
それに世界の各地にその時になれば役立つであろうものは残した。
誰でもいい。
誰かでいいから…。
ーーーーー世界を救ってくれ
足が動かなくなり体勢が崩れて体が雪の中に沈みこむ。
死の足音がする。
自分の目の前で息を引き取った人たちのことを思い出す。
こんな感覚だったのか。
いろはが震える声で言う。
「レイ、、、まだたくさんやるべきことが残ってるじゃない……。だから…」
彼女の頬は濡れていた。
見つめる彼女の顔は相変わらず美しい。
泣き顔ですらこんなにも綺麗なのか。
俺の最期がこれなら幸せなものだろう。
残された力の限りを尽くして、言葉を紡ぐ。
「いろは...愛してる」
彼女の頬に手を伸ばすが届かない。彼女は俺の手をとり、頬に手をあてる。手はじんわりと熱を帯びる。
「レイヴン、私も愛しているわ」
彼女は笑顔で震える声で言ってくれた。やっぱり笑顔が一番だな。
最期にその言葉を聞けてよかった。
ーーーもっと一緒にいられたらな
静けさが訪れる。
彼女は何かを言っているようだった。視界は、ぼやけて暗くなっていく。
ーーーいろは、今までありがとう
ーーーメーテル、ロイ、後は、任せた
********
彼女は、彼に最初で最後の口づけをした。




