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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第二部 隆造編後編 ― 時代に裂かれる布 ―
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第十六話 酔いと理性、その先にある未来

酒は本音を引き出す。

理性を外し、立場を忘れさせ、

その人の「素」をさらけ出す。


それはときに失敗であり、

ときに――

家族の未来を形づくる、

小さな転機にもなる。


仲村工房が動き出した、その夜。

尚綾は、少しだけ飲みすぎた。

宴の夜


離島から来た友人たちとの宴は、

笑い声と酒の匂いで満ちていた。


挿絵(By みてみん)


友人A

「いやぁ、仲村工房、

 上々の滑り出しだな!」


友人B

「王府向けじゃなくて、

 市民向けってのがいい!」


尚綾も盃を手に取り、

頬をわずかに上気させている。


「ですから、

 これからは“権威の象徴”より、

 “生活の道具としての美”が重要で……」


隆造が、はっとする。


「ちょ、ちょっと綾さん……」


だが尚綾は止まらない。


「そもそも近代国家というものはですね、

 中央集権と地方自治のせめぎ合いの中で――」


一瞬、友人たちが盃を持ったまま固まる。


「……政治の話だよな?」


「ええ。清も日本も、米国も――」


隆造は、そっと尚綾の肩に手を置いた。


「綾さん」


「続きは、また今度にしましょう」


尚綾はきょとんと目を瞬かせ、

それから――小さく笑った。


「……失礼しました。

 少し、酔ってしまいましたね」


場の空気が、ふっと緩む。


こうして宴は、

穏やかな笑いのまま、

お開きとなった。



翌朝・工房


朝の光が差し込む工房。


隆造と友人たちが、

新製品の相談をしている。


友人A

「市民向けなら、価格を抑えたいな」


友人B

「型も簡素化した方が、量産できる」


そこへ尚綾が現れる。


挿絵(By みてみん)


表情は引き締まり、

すでに“社長夫人”の顔だ。


「では、用途別に分けては?」


一同が振り向く。


「祝儀用、日常用、贈答用」


「模様の密度と色数を調整すれば、

 同じ型でも価格帯を分けられます」


一瞬の沈黙。


友人C

「……なるほど」


隆造

「綾さん、それは……」


尚綾

「“使われる工芸”にしましょう。

 工房が増えても、

 暮らしに根づく形で」


隆造は、迷いなく頷いた。



子どもの話


相談が一段落した頃、

友人が何気なく口にする。


「そういや、

 子どもは何人くらい考えてるんだ?」


隆造は、一瞬言葉に詰まった。



その夜


灯りの落ちた座敷。

夫婦は向かい合って座っている。


隆造

「工房は、これから忙しくなります。

 離島展開も……」


尚綾

「親族の手も、

 あまり借りられませんね」


短い沈黙。


尚綾

「一人」


「多くても、二人までにしましょう」


隆造

「……はい」


「二人で、きちんと育てたいです」


尚綾は、静かに微笑んだ。



日々と未来


それからの日々は、

忙しくも充実していた。


新製品の開発。

生産効率の改善。

離島への工房チェーン展開。


尚綾は経営と交渉を。

隆造は技と現場を。


二人は、役割を違えながら、

同じ方向を見て歩いていた。



ある日。


隆造は、

秀伍と工房の社員たちとともに

海辺に立っていた。


挿絵(By みてみん)


潮の流れ。

岩の形。

島ごとの植物の色。


それらを観察しながら、

隆造は紙に模様を描き込んでいく。


「海の色は、毎日違う」


秀伍が笑う。


「紅型の模様にするつもりか?」


隆造は頷いた。


「島の風景を、

 そのまま布に残したいんだ」


社員たちも興味深そうに

スケッチを覗き込んでいた。


その日から、

海と島の色は、

新しい紅型の模様になっていった。



一方。


尚綾は村で

新しい紅型の日用品を

売り歩いていた。


風呂敷。

小物袋。

台所で使う布巾。


紅型を、

暮らしの中へ。


挿絵(By みてみん)


「これ、洗っても色が落ちないの?」


村娘のトヨが布を手に取る。


「ええ、大丈夫。

 丈夫な布で作っていますから」


尚綾は優しく説明した。


トヨはしばらく考えたあと、

にっこり笑った。


「じゃあ一枚もらうわ。

 嫁入り道具にもよさそうだね」


紅型は少しずつ、

村の暮らしに溶け込んでいった。



そしてその縁は、

やがて思いがけない形で続いていく。


数か月後。


村では、

秀伍とトヨの結婚式が開かれた。


挿絵(By みてみん)


晴れやかな衣装に身を包んだ二人を、

村人たちが温かく見守る。


花びらが舞い、

祝福の拍手が広がる。


少し離れた場所で、

隆造と尚綾はその光景を眺めていた。


隆造は静かに言う。


「紅型が、人をつないだな」


尚綾は微笑んだ。


「ええ」


「布も、人も、

 つながって広がっていくものです」



こうして仲村工房は、

少しずつ大きくなっていった。


技だけではなく、

人の縁によって。


そしてその日々は、

やがて大きな時代のうねりへと

つながっていくことになる――



1894年・冬


医師の言葉に、尚綾は一瞬息を呑む。


「おめでとうございます。

 ご懐妊です」


帰り道。

那覇の冬空の下で、

尚綾は隆造の手を取った。


尚綾

「……隆造」


隆造

「はい」


尚綾

「忙しくなりますね」


隆造は、

そっとその手を握り返す。


隆造

「ええ」


「でも――幸せです」


冷たい空気の中、

仲村家に、新しい命が宿った。


――まだ名もなきその命は、


やがてこの時代を越え、

すべてを繋ぐ存在となる。


その名は、


尚造。



(つづく)

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