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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第二部 隆造編前編 ― 王府に刻む布 ―
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第三話 琉球処分――王国の終わり

琉球の海は、

今日も静かに波を揺らしていた。


太陽が白い砂浜を照らし、

遠くには青い空と緑の丘。

平和な日常が続くかのように見えたその瞬間――


歴史の波は、誰にも告げず、

ゆっくりと岸を侵していた。


王府に、職人たちに、

そして未来の紅型に、

大きな変化の知らせが届くことになる。


――その知らせを運ぶ使者が、

書院の扉を勢いよく開けた時、

穏やかな空気は一瞬で張り詰める。


書院の奥、

柔らかな光が差し込む窓際に、

隆造は布に向かっていた。


白い麻布の上に、

藍や赤の線が一筆ずつ生まれていく。


彼の世界は布と刷毛だけで満たされ、

外界の動きなど微塵も気にならない。


その作業の様子を、

尚典と尚綾が

書院中央から静かに見守っていた。


目線は隆造の指先にあり、

布の一筋一筋に、

彼らの思いが交錯する。


尚綾の瞳は、

布を見つめる隆造の手に

少しだけ微笑みを添えていた。


「……布に問いを宿すとは、

 このことか」


姫は小さく息をつき、

手元の紅型に心を寄せる。


その静寂を、突如破ったのは、

書院の扉が勢いよく開く音だった。


「殿下、姫、重要な通達です!」


使者が駆け込み、手に文書を高く掲げる。

風が差し込む窓から、

書院の空気が一気に揺らいだ。


挿絵(By みてみん)


「……何事だ」


尚典が厳しい目を使者に向ける。

姉の尚綾は布から視線を外し、

使者へと歩み寄った。


使者は深く頭を下げる。


「明治政府より、

 琉球を日本に組み入れる

 通達が届きました」


――その一言で、

書院の空気は一変する。


――その“現実”を、

まだ誰も見てはいなかった。


挿絵(By みてみん)


しかし海は、すでに変わっていた。

それは、誰にも止められない変化だった。


隆造の背後、布の向こうで、

静かに動いていた手がわずかに止まった。


布の線はそのまま、

時の重みを吸い込むように揺らいだ。


尚典は紙を手に取り、

ゆっくりと読み進める。


「……離島への人員配置」


「王府の縮小」


「琉球の統治権……」


目に映る文字のひとつひとつが、

これまでの平穏を切り裂く。


尚綾は布に視線を戻す。


隆造の手は再び刷毛を動かし始めたが、

その背中に感じる緊張感は、

布にも、彼女の心にも確かに伝わる。


「……隆造殿」


「後ほど少し、お話がございます」


短い声が、

書院の空気に柔らかくも確実な印を残す。


遠く中庭から差し込む光に、

紅型の色彩が鮮やかに映えた。


平穏な日常は、

この一瞬で終わりを告げたのだ。


歴史の波は静かに、

しかし確実に、

すべてが、静かに動き始めていた。



(つづく)

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