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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
外伝・林明浩編 ― スルメイカ社長の婚活 ―
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最終話 結婚とは国家運営である(違います)――そして、もう一つの紅型

外伝・林明浩編、最終話です。


婚活から始まった小さな騒動は、

どういうわけか新婚旅行まで進みました。


しかし、この男――

林明浩。


結婚という出来事を、

どうしても経済理論で説明したいようです。


そして、そこに現れる

もう一人の危険人物。


ミリタリーオタク、

ジョン・スティーブンス。


この二人を止められるのは、

今日も胃薬を飲むことになる男、

仲村継だけでした。

仲村家のダイニング。


新婚旅行から帰ってきて、

林明浩は満足そうに腕を組んでいた。

 

「結婚とは――」


継は嫌な予感がした。


「国家運営だ」


「やめろ」


継は即答した。


しかし林は気にしない。

「まず、二つの経済圏が統合される」


「家庭だ」


「資源、人的資本、時間――」


「家庭だ」


「それらを統合し、最適化する」


「家庭だと言ってる」


林は指を立てる。

「つまり、家計とは共同基金だ」


「財務省か」


継は額を押さえた。


林はさらに続ける。

「投資戦略としては――」


「家庭」


「長期安定運用が――」


「家庭!」


その時だった。

後ろから声がした。


「それは空母打撃群みたいなものだ」


継は振り向いた。


「増えた」


在沖米空軍のエースパイロット。

ジョン・スティーブンスだった。


ジョンは真剣な顔で頷いている。

「司令塔は空母」


林は即答した。

「つまりCEO」


継は叫んだ。

「夫婦だ!」


しかし二人は止まらない。


ジョン

「護衛艦は随伴艦隊」


「経済では関連企業」


「家庭だ!」


ひよりは、少し離れた席から

静かにその様子を見ていた。


まるで研究者のような目で。


ひより

「じゃあ」


三人が振り向く。


ひより

「私は何ですか?」


挿絵(By みてみん)


林は即答した。

「中央銀行」


ジョンは頷く。

「AWACS」


継は天を仰いだ。

「お前ら帰れ」


沈黙。


そして林が言った。

「だが、理論的には」


「まだ言うのか」


「この結婚は合理的判断だった」


継は首を振る。

「違う」


「?」


継は言った。

「お前は」


一拍。


「理屈で始めて」


ひよりを見る。


「情で捕まった」


沈黙。


林は少し考えた。そして言った。

「……否定はしない」


ジョンは頷いた。

「戦闘機も最後はパイロット」


継はため息をついた。

「たぶん違う」


ひよりは小さく笑った。

そして静かに言う。


「でも」


林を見る。


「悪くない運営だと思いますよ」


林は少しだけ照れた。


継は思った。


(世界を相手にする男が)


(家庭には勝てないらしい)



――数時間後。


テーブルの上には、

空いたグラスと皿が並び、

ほんのりと酔いの残る空気が漂っていた。


林はタブレットを手に取り、

真剣な顔で見つめている。


ジョンも隣から覗き込む。


挿絵(By みてみん)


「……これ」


ジョン

「うん」


「欲しいな」


一拍。


「いや、それは売り物じゃない」


林は顔を上げる。


「じゃあ、これなら?」


別の布を指差す。


継はちらりと視線を向けた。


「……ああ」


少し考えてから、頷く。


「それならいいよ」


林の目が輝く。


ジョンも同時に笑う。


「いくら?」


ジョン

「競るか」


「いや、そういう話じゃ――」


挿絵(By みてみん)


「一億」


ジョン

「二億」


「三億」


ジョン

「五億」


「ちょっと待て」


ひよりは額を押さえた。


ひより

「はい、終了」


静かにグラスを片付け始める。


ひより

「解散です」


「え」


ジョン

「今いいとこ――」


ひより

「はい、解散」


二人は素直に黙った。



キッチン。


ひよりと継が並んで片付けをしている。


水の音だけが静かに響く。


ひより

「さっき言ってた“あれ”って何ですか?」


継は少しだけ手を止めた。


「……尚造(しょうぞう)の作品だよ」


ひより

「尚造さんの?」


「未完成の紅型」


一拍。


継は視線を落とす。


「沖縄の歴史を、そのまま描いたやつ」


ひよりは手を止めた。


ひより

「……え?」


「だから、触らせない」


静かな沈黙。


水の音だけが続く。



廊下。


林とジョンが並んで歩いている。


「尚造さんって、何者なんだ?」


ジョンは少しだけ考えてから言った。


ジョン

「祖父が言ってた」


「うん」


ジョン

「戦地で、布を広げてたって」


「……は?」


ジョン

「銃じゃなくて」


一拍。


ジョン

「地図を描いてた」


挿絵(By みてみん)


林は足を止めた。


「……意味わかんないんだけど」


ジョン

「俺も」


短く笑う。


だがその目は、笑っていなかった。



遠くで、食器の音がする。


静かな夜だった。


だが――

まだ終わっていない。


(あの紅型は、何だ?)


(あの男は、何を描いた?)


その答えは――

まだ、どこにもない。



挿絵(By みてみん)



林明浩編・完

ここまでお読みいただき、

ありがとうございました!


外伝・林明浩編はこれにて完結です。


――ですが、

この物語はまだ終わりではありません。



▼おすすめの読み方


①まず“謎”を知りたい方へ

→ 外伝「ジョン編」(全3話)


在沖米軍パイロット視点で描かれる、

沖縄戦と基地配置の“違和感”。


林明浩編で語られなかった

「もう一つの現実」に触れることができます。



②物語の核心を知りたい方へ

→ 本編・第一部「尚継編」


すべての意味が、

物語として繋がっていきます。



③すべての始まりを知りたい方へ

→ 本編・第二部「隆造編」


なぜ紅型が生まれ、

誰が何を託したのか。


物語の“原点”が描かれます。



林明浩がなぜあの場所にいたのか。


なぜ、あの選択をしたのか。


その答えは――

まだ語られていません。



この物語はやがて、

すべて繋がっていきます。


引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです!

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