第一話 空の男と、奇妙な紅型
空戦から始まる外伝です!
ただし、この話は――
「ある一枚の布」の物語でもあります。
沖縄本島上空。
雲を切り裂くように、
一機の戦闘機が旋回した。
F-15。
在沖米空軍所属、
ジョン・スティーブンス3世の機体だ。
「Fox2」
短いコール。
模擬ミサイル発射。
数秒後、無線が返る。
『ヒット判定。
お見事、スティーブンス』
ジョンは機体を引き起こし、水平へ戻す。
過剰な動きは一切ない。
必要な操作だけを、最短で。
(……終わりか)
「帰投する」
『了解。ランウェイ27へ誘導する』
機体は沖縄の空を滑るように降下していく。
眼下に広がるのは、青い海と――
点在する基地群。
(いつ見ても、奇妙な配置だ)
(……この辺りだけ、妙に整いすぎている)
ジョンは無意識に、
それを“地図”として見ていた。
⸻
数時間後。
ジョンは、ある場所にいた。
仲村工房。
古びた木造の建物。
中に入ると、染料の匂いが漂っている。
軍人が来るような場所ではない。
だが彼は、ここに通っていた。
「よ」
軽く手を上げる。
奥から、一人の青年が顔を出した。
「……来たか、ジョン」
仲村継。
この工房の現当主であり、
ジョンの友人だった。
いつもなら軽口の一つも返ってくる。
だが今日は違った。
どこか、様子がおかしい。
「どうした」
ジョンが聞くと、
継は少しだけ迷ってから言った。
「……ちょっといいか」
その声は、妙に静かだった。
⸻
工房の奥。
作業台の上に、
一枚の布が広げられる。
紅型。
沖縄の伝統染織。
だが、それを見た瞬間――
ジョンの表情が変わった。
「……待て」
一歩、近づく。
布に描かれているのは、花と海。
そして――島。
美しい。
だが、それだけではない。
ジョンの視線が止まる。
(……嘉手納、普天間、この並び……)
指でなぞる。
(見覚えがある)
頭の中で、何かが一致する。
空から見た景色。
座標。距離。配置。
「……これ」
ゆっくりと、言葉が出る。
「基地じゃないか?」
沈黙。
(……いや、違う)
「距離が……おかしい」
「こんな配置にはならない」
「……誰かが、描いた配置だ」
継は、否定しなかった。
「やっぱり、そう見えるか」
ジョンは顔を上げる。
「お前、これが何か分かってるのか?」
継は首を横に振った。
「分からない」
そして、続ける。
「綺麗なんだけど……
何か変なんだ」
ジョンはもう一度、布を見る。
確かに美しい。
だが同時に――
(違和感がある)
配置が、妙だ。
現実と、完全には一致しない。
「……これは何だ?」
ジョンの問いに、継は答えなかった。
代わりに、静かに言う。
「だから、助けてほしい」
その言葉は軽くない。
ジョンは黙ったまま、紅型を見続ける。
美しい布。
だがそこにあるのは――
“何か別のもの”だった。
(これは……
ただの芸術じゃない)
ジョンは、初めて理解する。
これは、自分の領域の話だ。
だが同時に――
(分からない)
完全には、理解できない。
継が、ぽつりと言う。
「この紅型、どこかおかしい」
ジョンは答えなかった。
ただ、その布から目を離せなかった。
⸻
(つづく)
ここまで読んでいただき、
ありがとうございます!
「この紅型、何だと思いますか?」
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