第三十二話 正しさを決める会議
文化は
守るだけでは残らない。
語られ
研究され
議論されることで
初めて
未来へ渡る。
そのためには——
専門家が必要だ。
東京。
国立博物館。
会議室。
長いテーブル。
その上に
広げられている布。
紅型。
沖縄本島の模様。
そして
日章旗と星条旗。
部屋の中には
数人の専門家が集まっていた。
学芸員。
保存修復研究員。
文化庁職員。
そして——
琉球史研究者。
静かな緊張。
継は椅子に座る。
その隣に彩乃。
向かいに
一人の女性が座っている。
リン・チャン。
国立博物館の研究者。
紅型の歴史研究者でもある。
チャンは紅型を見る。
静かに言う。
「……これは」
一拍。
「非常に珍しい」
保存修復担当が言う。
「保存状態も良い。
戦時資料としては異例です」
別の学芸員が言う。
「問題は」
一拍。
「公開です」
部屋の空気が少し重くなる。
文化庁の職員が言う。
「政治的な意味を持つ可能性があります」
紅型の上。
日本とアメリカ。
二つの旗。
琉球史研究者が言う。
「沖縄戦の象徴として、
議論が起きるでしょう」
沈黙。
その時。
一人の男が口を開く。
御厨正道。
文化財法を専門とする大学教授。
御厨は静かに言う。
「法律の話をしましょう」
部屋が静まる。
御厨は紅型を見る。
「文化財には」
一拍。
「二つの価値があります」
指を二本立てる。
「保存価値」
「公開価値」
さらに続ける。
「この紅型は、
両方を持っている」
沈黙。
チャンが言う。
「ですが、公開は慎重であるべきです」
一拍。
「沖縄の歴史は、非常に繊細です」
継は静かに聞いている。
御厨が言う。
「確かに」
一拍。
「だからこそ」
「公開する価値がある」
文化庁の職員が言う。
「議論になります」
御厨
「文化は」
一拍。
「議論されるものです」
沈黙。
チャンは紅型を見る。
そして言う。
「……この布」
一拍。
「尚造が描いた」
継
「はい」
チャン
「彼は」
さらに小さく。
「何を残そうとしたんでしょう」
沈黙。
継は少し考える。
そして答える。
「未来です」
部屋が静かになる。
御厨は小さく笑う。
「いい答えです」
一拍。
御厨は言う。
「では、専門家として」
さらに静かに。
「議論を始めましょう」
会議室。
紅型。
文化。
歴史。
未来。
すべてが
この布の上にあった。
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(第三十二話 了)




