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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
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第十九話 太平洋の要石

戦争は終わった。


工房には音が戻り、

村には笑顔が戻り、

子どもたちは未来へ歩き始めた。


しかし世界は、

立ち止まってはくれなかった。


やがて沖縄は、

“冷戦”という新たな時代の最前線となる。

1950年。初夏。


朝。


仲村家。


庭では彩花と美咲が元気に遊んでいた。


「待てー!」


「きゃー!」


二人の笑い声が青空へ響く。


縁側では文がお茶を淹れている。


ふと視線が止まる。

茶の間に掛けられた一枚の紅型。


――『日米地位協定』


挿絵(By みてみん)


風が吹く。

布がゆっくり揺れた。


文は静かに見つめる。


「……最近」


「飛行機が増えたわね」


その時だった。


ゴォォォォォ……


数機の軍用機が仲村家の上空を飛び去る。


彩花は空を見上げる。


「おとうの飛行機?」


美咲も指をさす。


「ひこうき!」


文は答えなかった。


ただ静かに紅型を見つめる。


(尚造さん……)


(また時代が動くの……?)


⸻


場面は変わる。


仏領インドシナ。

熱帯の密林。


若き隆司。

二十歳。


背には荷物。

腰には工具。


世界を巡る武者修行は、

まだ続いていた。


挿絵(By みてみん)


市場ではフランス兵が慌ただしく動いている。


道路には軍用トラック。

住民たちはどこか落ち着かない。


隆司は立ち止まり、辺りを見回した。


(……嫌な空気だ)


風が止まる。


(また戦争が来る)


誰に言うでもなく、小さく呟いた。


⸻


嘉手納飛行場。


司令室。


バックナーは資料へ目を通していた。


部下が慌てて入ってくる。


「将軍!」


「緊急報告です!」


資料を受け取る。


バックナーは目を走らせた。


一瞬。


動きが止まる。


「……朝鮮半島で」


「戦闘開始です」


挿絵(By みてみん)


司令室が静まり返る。


バックナーは窓の外を見る。


滑走路。

並ぶ輸送機。

整備兵。


沖縄。

ようやく戻り始めた日常。


静かに目を閉じる。


(また始まるのか)


帽子を握る。


「……すまない」


その言葉が誰に向けられたものか、

誰にも分からなかった。


「輸送準備を開始」


「沖縄は最前線後方基地となる」


部下たちは敬礼した。


「Yes, sir!」


司令室が再び動き始める。


⸻


さらに遠く。


ソビエト連邦。

ウラジオストク。

港。


一人の男が地図を見ていた。


挿絵(By みてみん)


イワン・ペトロフ。

KGB。


静かに沖縄を指でなぞる。


嘉手納。

普天間。

那覇。


基地配置を見つめる。


小さくロシア語で呟いた。


「Тихоокеанский краеугольный камень.」

(太平洋の要石)


隣の部下が尋ねる。


「同志?」


イワンは顔を上げる。


「……覚えておこう」


「この島は」


「いずれ世界中が奪い合う」


その目は静かだった。


⸻


仲村家。


夜。


彩花と美咲は遊び疲れて眠っていた。


文は二人へ布団を掛ける。

バックナーも帰宅する。


二人は言葉を交わさない。


静かな時間。

掛け軸だけが揺れていた。


挿絵(By みてみん)


バックナーは紅型を見る。


(尚造)


(お前は)


(ここまで見えていたのか)


誰も答えない。


しかし。


夜風だけが、

静かに仲村家を吹き抜けた。


⸻


1950年。


沖縄は復興への道を歩み始めていた。


しかし世界は再び戦火へ向かう。


朝鮮。

ベトナム。

さらに、その先に待つ冷戦。


⸻


仲村家に託された一枚の紅型。


それは、

“家族を繋ぐ布”だった。


しかし、

世界が再び戦争へ向かった時。


その布は、

平和の象徴ではなく、

”怪物”と呼ばれる運命を歩み始める。


⸻


(つづく)

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