第十七話 エイサー将軍、幽霊と遭遇する
エイサーが鳴る。
踊る村人。
踊る将軍。
そして――
帰ってきたのは、
ご先祖様だけではなかった。
1949年。夏。
お盆。
夕暮れ。
太鼓の音が村へ響いていた。
ドン。
ドドン。
子どもたちが走り回る。
彩花も、美咲も嬉しそうだった。
「始まるー!」
⸻
広場。
村男Aが太鼓を叩く。
「よし!」
「将軍!」
「今年は本番だ!」
バックナーは鉢巻きを締め直した。
「ああ」
「去年よりは踊れる」
文は笑う。
「期待してますよ」
⸻
太鼓が鳴る。
エイサー開始。
バックナーも村男たちと一緒に踊る。
去年より動きは自然だった。
村人たちが拍手する。
「将軍!」
「うまくなった!」
彩花も飛び跳ねる。
「おとうー!」
美咲も手を叩く。
「おとう!」
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その時だった。
バックナーの隣へ、
一人の男が現れた。
軍服ではない。
和装の尚造だった。
尚造
「楽しそうですね〜」
バックナー
「……!」
思わず踊りが止まる。
村男B
「将軍!」
「そこ右!」
バックナー
「あ、ああ!」
慌てて踊る。
尚造は笑う。
「去年より上手ですよ」
バックナー
「……尚造」
尚造
「はい」
「お久しぶりです」
バックナー
「お前は……」
尚造
「お盆ですから」
バックナー
「そういうものなのか?」
尚造
「沖縄では」
⸻
文は不思議そうに見る。
「将軍?」
「誰と話してるんですか?」
バックナー
「……」
尚造は横で手を振っていた。
バックナーは咳払いする。
「独り言だ」
文
「疲れてますね」
⸻
踊りは続く。
尚造も楽しそうに眺めている。
「そこ」
「もう少し腰ですよ」
村男Aも叫ぶ。
「将軍!」
「腰!」
バックナー
「両方から言われるんだが!」
村人たち、大笑い。
⸻
祭りは最高潮。
太鼓。
三線。
笑い声。
彩花が美咲の手を引く。
「踊ろ!」
二人も小さく真似する。
尚造は静かにその光景を見つめた。
「……良かった」
バックナー
「何がだ」
尚造
「村に笑顔が戻りました」
少し間。
「僕はそれが見たかった」
バックナーは黙って踊り続けた。
⸻
祭りが終わる。
人々は帰り始める。
提灯だけが揺れていた。
尚造は静かに歩く。
バックナーも隣へ並んだ。
「ありがとう」
尚造が言った。
バックナー
「私に礼を言うのか」
尚造
「家族を」
「守ってくれて」
「笑わせてくれて」
「本当にありがとうございます」
バックナーは少し照れくさそうに笑う。
「……俺は」
「途中から参加しただけだ」
尚造は首を横に振った。
「家族って」
「血だけじゃないですよ」
「一緒に笑ってくれる人です」
風が吹いた。
⸻
遠くでは。
文が彩花と美咲の手を引いて歩いている。
尚綾が笑う。
隆造も楽しそうだった。
尚造はその背中を見つめる。
「安心しました」
バックナー
「……ああ」
尚造の姿が少しずつ薄くなる。
「将軍」
「来年も」
「踊ってくださいね」
バックナーは小さく笑った。
「努力する」
尚造
「腰ですよ」
バックナー
「最後までそれか」
二人は笑った。
尚造は静かに夜空へ溶けていく。
バックナーは帽子を取り、
誰にも気付かれないよう、
静かに一礼した。
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夜空には満月。
太鼓の余韻だけが、
静かに村へ残っていた。
戦争の音は、
もうどこにもなかった。
⸻
(つづく)




