第十七話 Cloth Man 捜索命令――布を辿れば、王に行き着く
戦場では、
銃や砲だけが武器ではない。
ときに――
美しさが、
最も危険な痕跡になる。
2045年。
仲村家・書斎。
遺品整理はまだ続いていた。
本棚の周りには、
積み上がった本の山。
文造は、
急に思い出したように言った。
「そういえばさ」
「ん?」
「学校で変な話流行ってる」
澪が顔を上げた。
「変な話?」
文造は少し真面目な顔をする。
「“Cloth Man”」
数秒の沈黙。
澪の目が光った。
「……ほう」
完全にスイッチが入った。
「詳しく話せ」
「いや何その反応」
文造が少し引く。
「戦場に布持った幽霊が出るんだって」
「しかも敵の動きが分かるらしい」
「布見つけたら逃げろって」
澪
「完全に軍オカルトじゃん!!」
文造
「文化交流クラブで流行ってる」
「アメリカの学校でもあるらしい」
澪
「輸入されてる!!」
継は苦笑した。
「何だその都市伝説」
⸻
その時。
ジョン3世が、
机の上の英語の本を手に取った。
埃を払う。
表紙には、
『Pacific Terrain Intelligence』
と書かれている。
ジョンは眉をひそめた。
「……継」
「この人、軍の階級は?」
継
「ん?」
「尚造さん?」
ジョンは頷いた。
継は少し考える。
「少尉だったらしい」
「村で唯一の士官」
「隆司さん曰く――」
少し笑う。
「“家族と村を守るためのバイト”」
文造
「バイトで軍人!?」
澪
「時代怖っ」
⸻
ジョンは本をめくる。
また一冊。
また一冊。
『Terrain Analysis』
『Civil Affairs Manual』
『Military Geography』
『Psychological Operations』
澪
「……ん?」
ジョン
「違うな」
継
「何が?」
ジョンは本を持ち上げる。
「本職は、多分こっちだ」
沈黙。
文造
「……え?」
澪
「え?」
継
「え?」
⸻
ジョンは静かに言った。
「地形」
「補給」
「民間統制」
「情報整理」
「やってる事が全部同じだ」
ページを閉じる。
「普通の少尉じゃない」
文造
「ひいおじぃ、先生じゃなかったの?」
澪
「待って待って待って」
「先生で紅型職人で軍人!?」
「属性過多!!」
⸻
継の顔が固まる。
「……待て」
何かが繋がった。
「あの“日米地域協定紅型”を描けたのって……」
「もしかして」
ジョンは少し考えた。
そして静かに言う。
「仮説だが――」
全員が見る。
「Cloth Manは」
「“紅型職人の顔をした高級参謀”
だったのかもしれない」
静寂。
澪
「えぇぇぇぇ!?」
文造
「ひいおじぃ怖っ!!」
継
「いや待て待て待て!!」
⸻
その頃。
1945年4月中旬。
第10軍司令部。
テントの中は静かだった。
砲声は遠く、
ここだけが
戦争から切り離されたように感じられる。
バックナーは、
一人の将校を迎え入れた。
「よく来てくれた」
敬礼する将校。
「お呼びでしょうか、将軍」
ジョン・スティーブンス1世。
Civil Affairs
文化財回収担当将校。
⸻
バックナーは、前置きを省いた。
バックナー
「君が押収した文化財の中に――」
「“布”はあるか?」
一瞬の沈黙。
ジョン
「……はい。」
「沖縄の伝統工芸で、
“紅型”と呼ばれる布があります」
⸻
ジョンは、
慎重に布包みを開いた。
現れたのは――
色鮮やかな紅型。
「中でも」
「“仲村工房”の作品は別格です」
「首里城周辺の観光地図を
紅型で表現したものです」
布の上には、
丘、道、建物、
そして“抜け道”のような線。
バックナーの目が細くなる。
「……美しいな」
彼は布を、
地図として見ていた。
「だが、美しすぎる」
一拍。
「地形の強弱」
「動線」
「視線の通り方――」
「これは芸術じゃない」
⸻
バックナーは、
静かに結論を置く。
バックナー
「Cloth Manは――」
「紅型を趣味でやっている“高級参謀”だろう」
ジョン
「……参謀、ですか」
バックナー
「前線に出ない」
「だが、前線を支配している」
「布という形でな」
⸻
バックナーは、はっきりと告げた。
バックナー
「Cloth Manを捜索せよ」
ジョン
「……接触は?」
バックナー
「許可する」
「ただし、殺すな」
ジョンの眉が、わずかに動く。
バックナー
「接触」
「監視」
「居場所」
「行動」
「関係者――」
「すべて、逐一報告しろ」
ジョン
「了解しました」
バックナー
「いいか」
「全体の兵力は我々の方が上だ」
「奴のいない前線で圧力をかける」
⸻
ジョンが去った後。
バックナーは、もう一度紅型を見た。
「……布で戦場を縫う男か」
彼は、まだ知らない。
その男が――
参謀でも、将軍でもなく。
“家を守るために働いている紅型職人”
であることを。
⸻
(つづく)




