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記録009|観測|アフリカ:外から来たもの

関係のない場所ほど、

静かな拒絶が生まれる。

ケープタウン。


空が、広い。


「……山が近いですね」


尚造が、巨大な岩山を見上げる。


挿絵(By みてみん)


「テーブルマウンテンです」


「壁みたいですね」


「観光名所です」


尚造は、少しだけ目を細めた。


「防御力があります」


「またそれですか」



海からの風が強い。


尚造の服が揺れる。


「飛ばされます」


「有名です」


「人間向いてません」


「観光地です」


尚造は、しばらく風景を見る。


「……自然の方が強いですね」


継は何も言わなかった。



海岸沿い。


ペンギンが歩いている。


挿絵(By みてみん)


「……鳥ですね」


「ペンギンです」


「飛びません」


「泳ぎます」


尚造は少し考えた。


「諦めが早いですね」


「進化です」


尚造は、ペンギンを見る。


「合理的ではあります」


「珍しく褒めましたね」



港。


大型船が並んでいる。


尚造の目が少しだけ輝く。


「良い港ですね」


「また始まった」


「補給線を維持しやすい」


「観光の感想じゃないんですよ」


尚造は真面目に海を見る。


「海流も重要です」


継はため息をついた。



そのとき。


街の照明が、一瞬落ちる。


「……攻撃ですか?」


「停電です」


「またですか?」


「またです」


尚造は少し考えた。


「日常なのですか」


「そういう時期があります」


尚造は、暗くなった街を見る。


「……全部は制御できないのですね」


挿絵(By みてみん)



夕方。


急に、人が減る。


店が閉まり始める。


継が歩く速度を上げた。


「急ぎます」


「なぜです?」


「夜なので」


尚造は周囲を見る。


「……静かですね」


「そういう地域です」


「歩かないのですか?」


「歩かない方がいいです」


尚造は、少しだけ黙った。


「……境界がありますね」


継は、小さく頷いた。



高台。


夜景が広がっている。


灯りは綺麗だ。


だが、その外側は暗い。


尚造が、静かに呟く。


「……灯りが多いほど、暗い場所も見えますね」


挿絵(By みてみん)


継は答えなかった。



「こちらです」


展示施設。


白い壁。


簡素な建物。


「ここは?」


「地域展示場です」


「美術館ではないのですね」


「どちらかと言うと、多目的施設です」


尚造は、小さく頷いた。



特設展示室。


床の下に——

“それ”。


色が重なり、線が走る。


どこか人工的で、

どこか、遠い。


尚造は静かに立ち止まる。


「……持ってきたのですね」


「はい」


一歩、踏み出す。



最初の来場者。


地元の老人。


床を見る。


長い沈黙。


そして、首を傾げた。


「……なぜ、ここに?」


継が問う。


「どういう意味ですか?」


老人は肩をすくめる。


「うちの話ではない」



次の来場者。


若い男性。


ガラスの前で止まる。


「これは何ですか?」


「断定されていません」


「誰のものです?」


「決まっていません」


男は、少しだけ笑った。


「では、なぜここに?」


継は答えなかった。



別の女性。


床を見ない。


周囲だけを見る。


「怖いですね」


継が問う。


「何がですか?」


女性は静かに言う。


「関係ない場所に、置かれることが」


挿絵(By みてみん)



会場は静かだった。


否定はない。

怒りもない。


ただ——

距離だけがある。


尚造は、床の下を見る。


「継くん」


「はい」


「ここでは、“外から来たもの”なのですね」


「そういう見方もあります」


尚造は、しばらく黙った。


「……それが、一番静かです」


継は何も言わなかった。



その日。

展示は予定通り終了した。


議論は起きなかった。

評価も、ほとんど残らなかった。


ただ——


多くの人が、

“関係のないもの”を見る目で、

それを通り過ぎていった。


最後まで。


それが何なのかを、

説明する者は、

一人もいなかった。



(つづく)

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