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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第三部 美咲編 ― 沖縄に咲く紅 ―
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199/240

第四十六話 1992年ーー運ぶ者たち

噂は、形を変えて残る。


真実は、ときに忘れられ。

けれど――

誰かが、それを運び続ける。


名前も知らないまま。

意味も分からないまま。


それでも。


確かに、繋がっていく。

1992年。


仲村工房。


「……それで?」


美咲が、少しだけ呆れた顔で言う。


「“Cloth Man(クロスマン)”って、何ですか」


向かいには、ジャック。


そして――

その横に、少年がいた。


ジョン・スティーブンス3世。


挿絵(By みてみん)


「学校で流行ってるんだ」


ジャックが肩をすくめる。


「変な日本兵の怪談らしい」


「戦場で裁縫してるとか」


ジョン3世が、真面目な顔で言う。


「兵士に布を配ってたって」



一瞬の沈黙。


美咲が、吹き出した。


「……それ」


少しだけ間。


「たぶん、お父さんです」


「は?」


ジャックが固まる。


「いやいやいやいや」


隆司が、横から口を挟む。


「あの人はな」


少しだけ、遠い目をして。


「負傷兵や、掘削作業員に」


「タオル配りまくってた」


挿絵(By みてみん)


沈黙。


ジョン3世

「……いい人では?」


ジャック

「いや怪談になる意味が分からん」


小林(奥から)

「いやなりますよ」


全員、振り向く。


「戦場で裁縫してる時点でアウトです」


挿絵(By みてみん)


「確かに」


「しかも夜中に現れるんですよね?」


「それはただの作業だ」


隆司が即答する。


「いや怖いですって」


笑いが、広がる。



その時だった。


「……随分と言われているな」


静かな声。


振り向く。


そこに立っていたのは――


ジョン3世の祖父――

ジョン1世だった。


「久しぶりだな」


ジャックが、少しだけ姿勢を正す。


ジョン1世は、ゆっくりと工房を見渡す。


「相変わらずだ」


そして、布を見る。


「……尚造の匂いがする」


挿絵(By みてみん)


誰も、何も言わなかった。



「昔な」


ジョン1世が、ぽつりと話し始める。


「尚造とは、“オタク友達”だった」


「オタク友達」


小林が復唱する。


「布の話をすると止まらない男でな」


「戦場でも、変わらなかった」


少しだけ、笑う。


「いや、むしろ――」


「戦場だからこそ、だったのかもしれん」



静かな時間が流れる。


ジョン1世は、

ポケットから小さな包みを取り出した。


ゆっくりと、開く。


中にあったのは――

ひとつのタグだった。


挿絵(By みてみん)


その文字を、

誰もが無言で見つめる。


「これは、“運ぶもの”だ」


ジャックに渡す。


「……尚造の作品だ」


ジョン1世の視線が、

ほんのわずかに揺れる。



回想。


戦地だった。


土と煙の中で、

ひとりの男が布を手にしていた。


尚造だった。


「返して頂くのは――」


「100年後ですね」


ジョン1世

「……気の長い話だな」


尚造は、わずかに笑う。


「そのくらい経たないと」


「正しく見てもらえません」


一拍。


「この作品は――」


視線が、遠くを見る。


「もっと遠くへ行ける」


挿絵(By みてみん)



現在。


ジョン1世は、ゆっくりと息を吐く。


「……あいつは、最初から分かっていた」


空気が、変わる。


ジョン3世が、じっと見ている。


「いいか」


ジョン1世が、二人を見る。


「これは、“残すもの”じゃない」


一拍。


「“運ぶもの”だ」


「必要な場所へ、必要な時に」


「渡す」


静かな言葉だった。


「……できるか?」


ジャックは、ゆっくりと頷く。


「やります」


ジョン3世も、真似するように頷いた。


「……やる」


ジョン1世は、満足そうに目を細める。



外。


空が広がっていた。


ジョン3世が、ぽつりと言う。


「……俺」


「空、飛びたい」


ジャックが、少しだけ驚く。


「なんでまた」


「運ぶなら」


少しだけ、考えて。


「速い方がいい」


一瞬の沈黙。


「……そうか」


ジャックが、笑う。


「じゃあ、パイロットだな」


ジョン3世の目が、少しだけ輝いた。



工房の中。


美咲が、静かに呟く。


「……繋がってますね」


隆司が、短く答える。


「……ああ」


文は、何も言わない。

ただ、布を見ていた。


そこには、色があった。



誰かが守り。

誰かが作り。

誰かが見て。

そして――


誰かが運ぶ。


物語は、続いていく。


挿絵(By みてみん)



(つづく)

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