第四十五話 1992年ーー色の上に立つ城
1992年11月。
再建された首里城は、
かつて失われたものを、
もう一度この場所に戻そうとしていた。
けれど――
そこに立つ人々が見ているものは、
同じ景色でありながら、少しずつ違っていた。
これは、色の上に立つ“今”の物語。
1992年11月。
空は高く、
どこまでも澄んでいた。
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「……すごい」
美咲が、思わず声を漏らす。
その視線の先――
鮮やかな朱が、そこにあった。
再建された首里城。
かつて失われたはずの姿が、
今、確かに目の前にある。
「……戻ったのね」
文が、静かに言った。
その声は、どこか遠くを見ているようだった。
隆司は、何も言わない。
ただ、城を見上げている。
風が吹く。
城の朱が、
空の青の中で、静かに際立っていた。
「行きましょうか」
文が言う。
三人は、ゆっくりと歩き出した。
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石畳。
観光客の声。
どこか明るい空気。
その中で――
美咲は、小さな紙を手にしていた。
「……これ」
隆司が視線を落とす。
それは、手書きの地図だった。
少しだけ歪んだ線。
丁寧に書かれた道。
そして――
見慣れた文字。
「お父さんの、観光地図です」
美咲が、少しだけ笑う。
「……あの人らしいな」
隆司が、ぼそりと呟く。
「観光地図なのに、やたら細かいのよね」
文も、少しだけ口元を緩めた。
地図には、
城の構造だけでなく――
見えないものまで書かれていた。
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「ここ」
美咲が、指を止める。
「地下壕跡……」
一瞬だけ、空気が変わる。
観光客の声が、遠くなる。
風の音だけが、残る。
隆司が、視線を向ける。
そこには、
立ち入り禁止の標識があった。
「……入らない」
短く、言う。
「ええ」
文も、頷いた。
美咲も、ゆっくりと地図を閉じる。
「……ここまで来れば、十分です」
誰も、振り返らなかった。
三人は、また歩き出す。
光のある方へ。
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高台に出る。
そこから、海が見えた。
どこまでも、穏やかな青。
「……綺麗ですね」
美咲が、ぽつりと呟く。
「ええ」
文が、静かに答える。
「こうして見られるようになったのも――」
言葉は、途中で途切れる。
けれど、
その先を、三人とも知っていた。
隆司は、何も言わない。
ただ、海を見ていた。
風が、吹く。
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少し離れた場所。
アメリカンスクール。
放課後だった。
「ねえ、知ってる?」
少年が、声を潜める。
「Cloth Man」
「なにそれ?」
笑い声。
「戦地に出るんだって」
「変な日本兵で――」
一拍。
「裁縫してるらしい」
「は?」
「戦場で?」
「しかもさ」
さらに声を落とす。
「兵士に布を配ってたって」
沈黙。
「……なにそれ」
「怖いのか、優しいのか分かんないんだけど」
「いや普通に怖いだろ」
笑い声が、広がる。
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その中で――
ひとりの少年が、黙っていた。
ジョン・スティーブンス3世。
「……Cloth Man」
小さく、呟く。
その目には、
わずかな興味が宿っていた。
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遠くで、海が光っていた。
同じ場所で、
違う時間が、
静かに重なっていく。
⸻
(つづく)




