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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第三部 美咲編 ― 沖縄に咲く紅 ―
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第四十三話 海の色、祝福の色

青い海の前で、ふたりが並ぶ。

それは、特別な日でありながら――

どこか、いつもと同じように穏やかな時間でもあった。


けれど。


その日、確かに。

人の想いは、またひとつ繋がっていく。

海は、穏やかだった。


やわらかな風が吹き、

白い布が、静かに揺れている。


その向こうに――

青が広がっていた。


どこまでも続くような、沖縄の海。


挿絵(By みてみん)


「……いい天気だな」


小林が空を見上げて言う。


「式日和ってやつだな」


隣では、ジャックが腕を組んで頷いていた。


離島から来た人々も、

どこか落ち着かない様子で席に座っている。


普段着慣れない服に、少しだけ照れながら。


挿絵(By みてみん)


それでも――

誰もが、嬉しそうだった。



やがて、音楽が流れる。


ざわめきが、すっと静まる。


白い光の中を――

彩花が歩いてくる。


挿絵(By みてみん)


その身に纏うのは、あの打掛。


花が咲き、

海が流れ、

いくつもの時間が、重なっている。


息を呑む音が、あちこちから漏れた。


「……すごいな」


小林が思わず呟く。


ジャックも、目を細める。


「これは……芸術だ」


その言葉に、誰も異を唱えなかった。



健一が、待っている。


少しだけ緊張した顔で、

それでも、まっすぐに前を見ていた。


彩花が、その前に立つ。


一瞬だけ、視線が重なる。


挿絵(By みてみん)


――それだけで、十分だった。



「本日は、お日柄もよく――」


司会の声が、静かに響く。


式は、穏やかに進んでいく。


言葉ひとつひとつが、

波の音に溶けていくようだった。


「ここで、祝電をご紹介いたします」


少しだけ場がざわめく。


司会が紙を開く。


「ジョン・スティーブンス様より」


ジャックが思わず顔を上げる。


「……ジョンさん?」


美咲が小さく笑う。


読み上げが始まる。


|健一さん、彩花さん。

|ご結婚おめでとうございます。

|私は若い頃、

|基地の隣で暮らしながら、

|戦争の記憶と、

|その後に残された問題を

|見続けてきました。


会場が静かになる。


|だからこそ、

|皆さんが選んだ未来を

|心から嬉しく思います。

|争いは人を分けます。

|けれど、人はまた、

|誰かと手を取り合うことができます。


ジャックは、

少し照れくさそうに鼻を掻く。


隆司は黙って聞いていた。


|沖縄の海のように穏やかで、

|時には台風のような日があっても、

|二人で笑って乗り越えてください。

|――遠く嘉手納より、祝福を込めて。


読み終わる。


静かな拍手。


彩花は目を潤ませる。


健一

「……なんか一番泣きそうなんですけど」


ジャック

「歳を取ると長話になるんだよ」


健一

「ジャックさんも将来こうなるんですか?」


ジャック

「否定できないな」


会場に小さな笑いが広がった。



司会が次の紙を開く。


「公安より、黒田様」


小林が、ぴくりと反応する。


「……あの人か」


ぼそりと呟く。


読み上げられる言葉は、簡潔だった。


それでも――

どこか、らしい祝福だった。



「続きまして――」


「内閣総理大臣」


「佐藤様より」


一瞬、空気が止まる。


「は?」


小林が素で声を漏らす。


「いや待て、なんで首相から来てるんだ」


ジャックが肩をすくめる。


「さあな。交友関係が広いんだろう」


「広いで済ませていいのかそれ」


小さなざわめきと、

控えめな笑いが広がる。


それもまた、今日の空気だった。



式は、進む。


誓いの言葉。


指輪の交換。


拍手。


すべてが、穏やかに、確かに流れていく。



少し離れた親族席で――


美咲たちは、それを見ていた。


挿絵(By みてみん)


「……綺麗だね」


美咲が、ぽつりと呟く。


文が、静かに頷く。


「ええ。本当に」


その目は、どこか遠くを見ているようだった。


「……ちゃんと、繋がってるわね」


その言葉の意味を、

美咲はすべては知らない。


けれど――

何となく、わかる気がした。


隣では、隆司が何も言わずに見ている。


ただ、じっと。

その光景を。



やがて――

式は、終わった。


拍手が、ゆっくりと広がる。

波の音と、重なりながら。


人が少しずつ散っていく。

笑い声が、あちこちで弾けていた。


その中で。

美咲は、ひとり、海の方へ歩いた。


風が、少し強くなっていた。

波が、静かに寄せては返す。


「……綺麗だったな」


後ろから、声がする。


振り返ると、隆司がいた。


「はい」


美咲は、少し笑う。


「すごく」


並んで、海を見る。


言葉は、少ない。


けれど、不思議と――

足りていた。



「……俺は」


隆司が、ぽつりと口を開く。

少しだけ、間があった。


「長いこと、何も見てなかった」


美咲は、何も言わない。

ただ、聞いていた。


「色も、音も……全部だ」


波の音だけが、続く。


「でも」


隆司が、続ける。


「お前を見てから――」


ほんのわずかに、声が変わる。


「ちゃんと、見えるようになった」


挿絵(By みてみん)


美咲の心臓が、

ひとつ、大きく跳ねた。


「……それって」


言葉の続きを、探す。


隆司は、少しだけ目を伏せて――


「……ああ」


短く、答えた。



そして。


「だから」


一歩だけ、近づく。


「隣にいてくれ」


静かな告白だった。


けれど、

逃げ場のない、

まっすぐな言葉だった。


美咲は、少しだけ俯いて。

それから、顔を上げる。


「……遅いです」


小さく、笑う。


「でも――」


一歩、近づく。


「待ってました」



風が、吹く。

海が、揺れる。


ふたりは、並んで立つ。

同じ方向を見ていた。


遠くで、笑い声がする。

祝福の声が、まだ続いている。


そのすべてを背にして。

ふたりは、ただ、そこにいた。


同じ色を、見ていた。


挿絵(By みてみん)



少し離れた場所。


式場の灯りの端。


文が、一人立っていた。


風が髪を揺らす。


視線の先には――

海辺に並ぶ、美咲と隆司。


ふたりは何かを話している。

言葉までは聞こえない。


けれど。

文は、小さく笑った。


「……やっとか」


肩の力が抜けたように、

ふっと息を吐く。


「長かったねぇ」


誰に言うでもなく。

静かな声だった。


波の音が返す。


文は、遠くの二人を見つめたまま――


少しだけ、目を細めた。


(……よかった)


(本当に)


海風が吹く。

空には、静かな星。


そして遠くで――

美咲の、少し照れた笑い声が聞こえた気がした。


文は、くすっと笑う。


「……今夜は、邪魔しないでおこうかね」


ゆっくりと踵を返し、

明るい式場の方へ歩いていく。


その背中は――

どこか、少しだけ軽かった。



(つづく)

今回もお読みいただき、ありがとうございました!


ようやく仲村隆司になりました……!


ちなみに作者は、

美咲×隆司のイチャイチャを描こうとして

3回くらい途中でやめています(泣)


誰か続きをお願いします!(他力本願)

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