第十八話 沖縄戦③ーー選択
命令は、消えた。
残ったのは、
自分で決めるしかない現実だけ。
戦うか。
生きるか。
その答えは、誰にも教えられない。
1945年6月。
首里城は、もうなかった。
雨。
土。
崩れた壕。
声は、届かない。
命令も、来ない。
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南部。
Aは、立っていた。
動ける者は、もう少ない。
「……前へ」
声が出る。
だが、足が動かない。
部下の顔を見る。
若い。
まだ、若い。
「……散れ」
誰も、動かなかった。
「生きろ」
それだけ言った。
Aは、背を向けた。
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西岸からの残存。
Bは、歩いていた。
武器は、まだ持っている。
だが、弾はない。
「……は」
笑う。
乾いた音。
前に、影。
敵か。
違う。
倒れている。
動かない。
Bは、通り過ぎる。
振り返らない。
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集落跡。
Cは、子供の手を引いていた。
何人いるのか、分からない。
後ろから、音。
近い。
速い。
「……走れ」
声を出す。
自分でも驚くほど、強い声だった。
子供が、走る。
Cも走る。
振り向かない。
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後方。
Dは、箱を開ける。
最後の水。
最後の食料。
周りに、人がいる。
目が合う。
何も言わない。
Dは、分けた。
全部。
空になった箱を、閉じる。
それだけだった。
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壕。
Eは、暗闇にいた。
繋がっていたはずの道が、崩れている。
戻るか。
進むか。
上から、音。
近い。
Eは、進んだ。
狭い方へ。
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雨。
全部が、南へ流れていた。
土。
人。
音。
全部。
Aが、歩く。
一人。
前に、人影。
止まる。
「……生きてたか」
Bだった。
少しだけ、間。
「お前もな」
それだけだった。
横から、音。
Cが、子供を連れて現れる。
さらに。
D。
空の袋。
最後に。
E。
土にまみれている。
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五人が、揃う。
誰も、笑わない。
雨だけが、降っている。
誰かが言う。
「……どうする」
答えは、ない。
Aが、前を見る。
「……生きる」
小さく。
だが、はっきりと。
誰も、否定しない。
誰も、肯定もしない。
ただ、歩き出す。
同じ方向へ。
遠くに、壕。
暗い入口。
そこが、目的地なのかは分からない。
それでも、歩く。
⸻
(つづく)
ここまでお読みいただき、
ありがとうございます。
戦う者も、
生きることを選ぶ者もいます。
どちらが正しいのか、
その答えは簡単には出ません。
ただ――
それでも、命は繋がっていきます。
次回、第十九話「帰る場所」。




