表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第二部 隆造編後編 ― 時代に裂かれる布 ―
102/144

第二十九話 その布は、国に選ばれた

戦局が悪化する中、

文化は単なる美ではなく、情報となっていた。


東京では吉田茂が、

国家の行方を見極めようとしている。


その判断材料を求め、

一人の秘書が沖縄・仲村工房へ向かう――

紅型地図を手に入れるために。


海と空は、変わらず静かだ。

だがその下で、歴史はすでに動き始めている。

夏の光が工房の格子窓を

斜めに照らしていた午後、

玄関の呼び鈴が鳴る。


「はい、どなたでしょうか?」


出てきたのは、文。


訓練で留守の尚造に代わり、

訪問者を迎える。


「私は吉田茂秘書の者です。

 隆造様、綾様にお目にかかりたく……」


文は丁寧に頭を下げ、

玄関先で案内する。



居間。


秘書はすぐに話を切り出した。


「仲村工房の紅型地図について、

 新規注文をお願いしたく参りました」


挿絵(By みてみん)


隆造は布の上に手を置き、

静かに秘書を見る。


「用途は……

 軍事的なものですか?」


秘書は頷く。


隆造は深く息を吸い、

断固たる口調で答えた。


「申し訳ありません」


「そのような用途には協力できません」


挿絵(By みてみん)


尚綾は横で静かに様子を見守る。


冷静で、しかし鋭い目で

秘書の反応を観察していた。


秘書は一瞬言葉を失ったが、

すぐに尚綾に視線を向ける。


「では、国家滅亡の定義について、

 姫様のご意見をお聞かせください」


尚綾は微かに眉を上げ、

落ち着いた声で答える。


「国家滅亡とは」


一拍。


「"王族の身分剥奪"と」


「"文化の喪失"によって定義されます」


挿絵(By みてみん)


秘書は深く頷き、

手元の資料を整理して帰路についた。


那覇港から船に乗る間も、

彼の頭の中は情報で満たされる。



東京に戻ると、

吉田茂は静かに資料を眺める。


秘書が持ち帰った情報は、

停戦と講和の戦略を考える

重要な手がかりとなった。


その裏で、

隆造夫妻は知らず知らずのうちに、

吉田に"天皇制保持"と"日本文化尊重"の

ヒントを与えていた。


紅型地図は、

文化の美しさだけでなく、

歴史の行く末をも左右する情報媒体として、

静かにその役目を果たし始めていた。



(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ