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Children of Sanuma 2  作者: momo
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 高校生になると同時に大河はその入学祝としてパソコンを買い与えられ、バンドのウェブサイトの作成、SNSの運営などを少しずつ海里や朱里から譲渡される形で行っていた。飲み込みは早い方であるので、早速あれこれ工夫を凝らしてみて、その影響は早速ライブの客数の増加やCD、マーチャンダイズ等の売上にも貢献することとなっていた。

 ウェブサイトを通じて先だってのインタビューのような依頼も度々舞い込んできたし、他のバンドとの交流も増えた。その中には東京で活動するバンドも少なくなく、彼らから決してお世辞ばかりではなく上京を進められることもあり、大河は来年に迫った高校卒業を楽しみにするのであった。

 そんな中、ある日バンド関連ではない、一通のメールが舞い込んできた。

 それは大河はおろか他の三人も一切かかわったことのない、とあるファッション雑誌からの申し出であった。 

 その内容は端的に言えば、ルアンにモデルの仕事を依頼したい、というものであった。早速大河は三人を朱里の離れに呼び出し、ルアンにメールの内容を告げた。

 「モデル、……ちゃあ、何すんだっぺ……」ルアンが困惑気味の声を上げたのも無理ならぬことである。今までそんなメディアに触れたことはなし、見たことさえない。

 「かっこづけで、写真撮られる仕事でねえのが?」大地が持ち得る最大限の知識を披露してこの様である。

 「ドラムさねえどかっこづけられねえんだけど……」

 ドラムはかっこつけて叩いている自覚があったのか、と三人は新たな発見に嘆息する。

 「でも、……この人らもおめがモデルなんでやっだごどねえのはよぐよぐわかった上で、こげなメールしてきでんでねのが? だったら、そごでちゃあんと教えてくれんでねえのが? かっこづけかた。」大河が言った。

 「おめ、やってみだらいがっぺよ。交通費もほれ、時給もこんだけ出すって書いてあっぺし。」大地もメールを指さしながらそう続ける。

 朱里は自分のスマホで何やら検索をし、そしてその画面を三人に見せつけた。当該ファッション誌のモバイル版である。

 ルアンは恐る恐るページを捲ってみる。

 するとそこには何やら美麗な男たちが下妻では見ることのない奇抜な服を纏って、あたかも競い合うようにポーズを決めている。ルアンはすっかり怖気ついた。

 「こげなの無理だべ、無理無理無理。」ルアンはそう言って後ずさった。

 「はあ、ほっだごど言わねで、ただで東京さ行けんだったらやっでみだらいがべよ。」大地が言った。

 「おめ、他人事だからほっだらごど言えんだっぺ! 俺恥かくのイヤだで」

 「ほだよ、無理してすっごどねえべよ。じゃあ断りの返事さしどぐから安心しろ」大河はそう言ってルアンの肩を撫でてやった。

 それでファッションモデルの話は立ち消えになったと、誰もが思っていた。

 しかし次の都内でのライブのことである。

 全身全霊を費やし、もはや燃え滓一つ残っていないルアンの元に、ファッション雑誌編集者が三人揃って楽屋までやってきたのにはさすがに驚いた。

 「初めまして、ライブ拝見させて頂きましてありがとうございました。私先日メールを差し上げました雑誌GWENの者です」と定型文を口にしながらスーツ姿の三人が次々に名刺を差し出してきた時には、もはやルアンは配慮も遠慮も呵責も何もあったものではなく、ソファにぶっ倒れながら目を丸くし、

 「モデルは断ったっぺよ!」と怒鳴りつけた。

 「はい、それで直接お話ができればとこうして伺わせて頂きました」

 「直接でも間接でもやんねっつったらやんね!」

 「本当にお疲れのところ大変申し訳ございません」と言って、一人の雑誌社の女性が大きな段ボール箱を差し出した。「こちらよろしかったら召し上がってください。皆さんの分もご用意いたしましたので。」

 段ボールがルアンの目の前で開けられる。そこには四人分の鰻重が並んでいた。桐のような箱に入った、高級そうな出立である。ルアンは思わず唾を飲み込む。

 「すっげえな」大地も覗き込んで、ため息交じりに言った。「こっだに高級そうなの、下妻では見たことねえ」

 ルアンは暫く何やら考えていたが、不機嫌そうな顔をしながら一応三人から名刺を受け取った。

 「ライブさ来てくれたのはありがとうございます。そこはお礼言っとくべ。でもあのなあ、おれモデルなんてやんねえっつったべ? 東京の人らは耳さ付いねえのが? あ?」疲れているのである。眠いのである。早くあんちゃんのマンションで寝たいのである。全身でルアンはそう語っていた。

 「たしかにお断りのメール頂戴致しましたけれど」最も年嵩の女はそれでも怯むことなく、笑顔でルアンの前に進み出た。「でも、ルアンさんにはぜひ弊社の雑誌に出て頂きたく、諦め悪く直接こうして参った次第です」

 「参るんでねえよ、やだっつってっぺよ! なんで俺ばっかなんだよ! ドラムねぐっちゃカッコつけらんねえんだよ! おめらの雑誌さ載ってる変な服着で写真なんが撮られたぐねえ!」

 汗まみれのメタルTシャツ姿でよく言うよ、と思いつつ、やはりドラムをかっこつけて叩いている自覚があるのだと、改めて三人は解した。

 「ご覧頂いたんですね、ありがとうございます。」女は悪口には一切怖じず笑顔で続ける。「ルアンさん、わかりました。無理はして頂かなくて結構です。ではあくまでも、普段のルアンさんの様子をご紹介するというのはいかがでしょうか? ドラムセットもスタジオにご用意しますし、服もこちらでご用意はしますが、そこから気に入られたもののみご着用頂いて、もし全てお気に召されなければ着用されなくて結構です。我々はルアンさんの姿をとにかく本誌でご紹介させて頂きたい。私共がルアンさんの存在を知りましたのは、いくつか話題にもなっておられました動画サイトやSNSでのルアンさんのライブでのご様子であったり、ステージでの立ち振る舞いを拝見させて頂いたことがきっかけです。」

  女の眼差しは真剣そのものであり、ルアンはそれでも不満そうではあったが、とりあえず黙って聞いていた。腹が鳴る。目の前の鰻重がこの上なく魅力的に映った。

 「モデルとして十分な身長そしてバランス、エキゾチックなルックス、鍛えられた体型、どれをとってもすぐにモデルとして通用します。これは努力でどうなるというものではなく、天性のものです。もちろんだからといって、ドラマーとしての経歴を否定するのではございませんし、音楽活動に支障をきたすようなことを要求するつもりもございません。ただただ、ぜひ弊誌のスタジオに起こし頂き写真を撮らせて頂きましたら、僭越ながら弊社の雑誌の読者もルアンさんの音楽を聴いてみたいと、ファン層を拡大することにもつながるのではないでしょうか」

 ぴくり、とルアンの瞼が動いた。

 「ファン層の拡大?」

 「本誌の読者は20代男性ですので、本日いらっしゃっていた多くのお客様たちとも重なる世代かと思います。ルアンさんの存在が知られれば、より響く同世代の方々に聴いていただける機会となるはずです」

 ルアンはむっくりと起き出した。

 「そうだべか」

 「今までも無名の新人を多く輩出してまいりました」と言って女はカバンから雑誌を取り出す。「こちらは、有名シンガーの息子さんですが、本誌でモデルとして掲載されて以降TVにもご出演なされるなどお仕事の幅を広げられております。また、こちらは元々はバンドのボーカルとして都内のライブハウスで活動されていた方ですが、そちらも継続されながら今ではアクセサリーショップを経営されたり、ご自分のアパレル会社も起業されたりと、多様なお仕事をされるようになりました」

 「マジか」

 明らかに興味が出てきたことに女もにこりと微笑む。

 「僭越ながら、まずは社会に認知されること、これが音楽活動においても大切となるのではないでしょうか。そのお手伝いを本誌でさせていただけたら、というように考えております」

 ルアンは考える。自分は将来何をしたいのか。それはこのバンドで大きくなることである。上京して都内でライブを行い、将来的には海外のフェスに参加し、ヴァッケンに出場し、そしていつかベトナムにいる母親を楽させてやれればこんなにうれしいことはない。それが雑誌に出ることで、叶えられるのならーー

 「わがっだ。やってみべ」

 三人は目を丸くしてルアンを見つめた。女はぱっと握手を求めた。

 「ありがとうございます。絶対に後悔はさせませんから」


 その翌月のこと。早速ルアンはあまり乗り気でもない風ではあったが、一日練習を休んで東京へと向かいモデルとしての初めての仕事に取り組んだ。給料は下妻の工場で一日働いたよりも多く、さらに交通費が出るので、仮にファンの拡大につながらなかったとしてもとりあえず損はないものと自身を納得させた。

 残された三人も特に期待はなかった。せいぜいルアンの生活費の足しになればよいのではないか、という程度のものである。変な女に捕まって以前のようにバンド練習をサボり始めたら困る、というのはあったが、海外進出を誰よりも熱望している今のルアンにはその心配もないように思われた。だったらIn Your Faceを聴いたことのない層にバンドの名を広められるチャンスであるのだからよろしく、その程度のものであった。


 しかしさらにその三か月後ルアンの写真が掲載された雑誌が刊行されると、にわかにバンドの公式SNS上では賑わいを増してきた。朱里の離れで、おそるおそる四人はパソコンに映し出されたSNSでの反応を窺う。

 ーーめちゃくちゃイケメン。一番後ろでドラム叩いているのもったいない。

 ーー純粋日本人じゃないよね? どこの血が混じっているんだろう? てか外国人?

 ーー雑誌の写真もライブの映像もそんな変わらん。本気の美形。ハリウッドにいそう。

 幼馴染ということもあり、三人にとっては特にルアンの容貌について改めて考えてみたことはなかったので、この反応には驚いた。しかしルアンが掲載された雑誌を見てみると、髪型も変わっており服もとてもルアンに似合っていて、なんだか別人のように見えた。

 「化粧もされだんだど?」ルアンはどうでもよさそうに言った。「ちっと顔違うべ」

 「ほだな、なんだが垢ぬけでら」大地はまじまじと写真を食い入るように凝視した。

 「はあ、でも写真撮っどごにちゃんどドラムさ置いどいでくれでよお、練習もできだし給料も弁当も出だがらまだ行ってみっがな」

 「おめ、何しに行ってんで?」思わず大地が尋ねると

 「写真さ撮りに行ったんだけど、おそらぐ俺がドラム置いてぐれねえどかっこつけらんねえっつったから、ドラムも置いてあっだ。セッティングがだい(注:だめ)だったけどな、自分で直したら叩けるようになったんできっちり練習してきだ」

 「……でも、ドラムの写真ねえべな」大河が雑誌を見ながら呟く。

 「ほだよ! 何でねえんだっぺ。結構ドラム叩いてる写真撮ったんだど? 一枚も載っけでくれてねえの。あれが一番だと思ったのになあ」

 「まあいいべよ。バンドのサイトにはたんまり載してやってんだからよ」大河が言った。

 「ほだいな」

 ルアンがモデル業を始めてからの変化は、インターネット上のみで収束するものではなかった。次のつくばでのライブのチケットが即座に完売したのである。これにはさすがにルアン本人も驚きを隠せなかった。つくばのライブハウスは都内のそれとは違ってホール並みの広さを誇る。客数の上限なんぞ今まで確認もしたことはなかったが、それが完売と聞き、さすがに四人は震えあがった。

 「……おめのせいだど?」大地がルアンを小突く。

 「あの女が言ってたごどは本当だったのか……」

 朱里は次のライブはモデル業さながら化粧をするか? とでもいうように自分の化粧ポーチをルアンに見せた。

 「しねえよ。顔べたべたしだり粉っぽくなっだり、ろぐなことなかったべ」

 「ドラム、前に出しどいでもらうか? 俺らみんな後ろでいいど?」大河も恐る恐る尋ねた。

 「ほっだらごどする必要あんめよ!」ルアンはいらいらしながら立ち上がった。

 「でもよお、今回おめ目当てで初めて来るお客さんら、ライブ終わったらおめと写真撮りでえだの話しでえだのなるんでねえの? ……その、頑張れよ。」

 「ほっだらごどあっかよ」ルアンはそう言って鼻を鳴らしたが、大地の予想はことごとく、当たることとなったのである。

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