43.出発前のひと時
「エレノア、イザーク。今回はよろしくお願いします。」
程なくしてリヒトも姿を現した。
ちなみに、リヒトもイザークもエレノアと同じ騎士服を身につけている。エレノアは自分の騎士服姿もなかなか似合っていると思っていたが、イザークとリヒトを前にして考えを改める。彼らの足元にも及ばなかった。リヒトよりも少し背の高いイザークが、ふと彼の顔を覗き込む。
「リヒト……顔色が悪いな、体調が悪いのか?」
イザークが気遣わしげに声をかける。確かに今日もリヒトは元気がないように見える。いつものキラキラ感は全くない。
「いえ、少し寝不足なだけです。顔色に出るなんて、僕はまだまだですね。」
リヒトは苦笑いを浮かべた。仲のいい2人の様子は、まるで兄弟のようである。国王とイザークが年が離れており、リヒトとの歳の差の方が小さいこともあるのかもしれない。
「そうだな、リヒトはまだまだ若い。これから成長すればいいんだ。だから今回も無理はするんじゃない。分かったな。」
「……イザーク、僕はまだまだ半人前ではありますが、子どもではありませんよ。」
リヒトは拗ねたような何とも言えない表情をしている。あまり見たことのない表情にエレノアは少し驚きつつも、レオナルドといる時とも違うリヒトの新たな一面を見れて嬉しく思う。
「いやいや、その通りだったな。私の中ではいつまでも幼い頃なのままでいけない。立派に王太子をこなしているリヒトに失礼だな。ははは……。」
豪快に笑うイザークを見て、リヒトは拗ねた表情からいたずらっ子の様な表情に変わる。
「ふふふ……。その様な揶揄い方をするのであれば、全てイザークに押し付けて、私はエレノアとカフェオーナーと領地経営でもして余生をのんびり暮らそうかな。」
「まあ、それは素敵ですね!」
エレノアも満遍の笑みでリヒトのイタズラに乗っかる。その言葉にイザークは笑ったままピシリと固まった。そして、姿勢を正して真顔を作ると、頭を思いっきり下げる。
「王太子リヒト様、王太子妃エレノア様申し訳ございません。今後ともアランデル王国をよろしくお願いします。」
「分かればよろしい。ふふ……ははは……。」
「はははは……。」
「ふふふ……。」
その後も3人はふざけ合って、笑い合って出発の時を待つ。穏やかなその様子を見て、周りにいた人たちの緊張も少しずつほぐれていく。おそらく、リヒトとイザークが周りの空気を見て、笑える話題にもっていったのだろう。こういう所が流石だと思う。
「これよりサルヴァ山に向けて出発する。」
20名ほどの人数が集まったところで、リヒトが声を発した。先ほどまでの穏やかな空気が一変する。これで全てのメンバーが揃ったようだ。
「王城内の転移陣でサルヴァ山の1番近くの屯所まで移動し、そこから山の麓まで馬車で向かう。その後は徒歩で登山する事になるが、今回は身体補強を行える者しか揃えていない。移動速度はある程度確保できるはずだ。最速で元凶があると思われる山頂を目指す。厳しい戦いが続くと思われるが、よろしく頼む。」
「「「「はっ!」」」」
イザーク、エレノアを含めた全員が、リヒトの呼びかけに敬礼で応える。そしてリヒトを先頭にぞろぞろと転移陣のある部屋に向かった。




